(ニューヨーク)― 野党指導者の刑事公判は、2018年に予定されている総選挙を自由・公正でなくするため、ますます暴力的になっているカンボジア政府の迫害キャンペーンの一環である、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。 9月9日に予定されるカンボジア救国党(CNRP)のケム・ソカ党首代行の裁判は、カンボジア憲法が保障する国民議会議員の不逮捕特権に抵触する。

Kem Sokha is interviewed at CNRP headquarters in Phnom Penh on June 23, 2016. 

© 2016 Reuters

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムズは、「ケム・ソカ氏訴追は、カンボジアの野党勢力や人権・社会活動家、および知識人を狙った、政治的動機に基づく一連の迫害の一環だ」と述べる。「前回選挙が与党人民党(CPP)に厳しい結果になったことを受けて、フン・セン首相は野党の勢いを2018年の総選挙前にそごうと、手当たり次第に試みている。」

カンボジア当局はケム・ソカ氏の訴追を取り下げ、すべての政治囚および被拘禁者を釈放すべきだ。そして自由かつ公正な選挙を実現するために、政治的弾圧をやめるべきだ。

カンボジア裁判所は政府のコントロール下にあり、複数の救国党党員が訴追されたとある事件の証人としてケム・ソカ氏を5月26日にプノンペンの裁判所に召喚したが、これに氏が応じなかったため訴追となった。カンボジア憲法は議員の不逮捕特権を保障しており、これの喪失には全議員の3分の2の賛成票による承認が必要なことから、今回の訴追と裁判は憲法違反である。

救国党の元党首サム・ランシー氏は、偽りの容疑をかけられ欠席裁判で有罪判決を受けたことによる投獄を避けるため、帰国を断念したままだ。そのためケム・ソカ氏が党首代行を務めている。現在、2人の野党議員と、少なくとも17人の地方政党関係者や活動家が投獄されている。カンボジア政府当局は過去1年間に、政治的な動機に基づき、人権団体や労働組合ほか諸団体の活動家少なくとも22人を、裁判や訴追、あるいは捜査の対象にした。 7月10日には政府に対して批判的コメントを繰り返していた評論家のケム・レイ氏が、白昼堂々プノンペンで暗殺されている。

6月と7月にはフン・セン首相が、人民党中央委員会の会合などでおおやけにケム・ソカ氏の逮捕を要求。その他の救国党指導層の立件についても指示している。裁判所はケム・ソカ氏と美容師スレイ・モム氏の男女関係を口実に用い、救国党議員2人が「売春のあっ旋」に関与したと主張した。議員2人が男女関係をとりもち、しかもそれは当局が言うところの売春だったというのである。カンボジアで売春は違法ではないが、そのあっ旋は犯罪行為とされている。スレイ・モム氏は、当初ケム・ソカ氏との関係を一切否定していたものの、現在はあっ旋疑惑の被害者だと自ら主張するようになった。

ケム・ソカ氏は事前に自身の有する議員特権を理由に、5月26日に証人として出廷することを拒否していた。1993年憲法の第80条は、国民議会および上院の議員に対する訴追・逮捕・拘束・拘禁を禁じている。当局は同氏が召喚に応じなかったことを、憲法が議員特権の無効を定めた「現行犯逮捕」に当たると、こじつけの主張を行っている。カンボジア刑法上、現行犯逮捕のためには令状は不要である。ケム・ソカ氏の行動が現行犯だというカンボジア当局の主張は、氏の持つ議員特権を恣意的に無効とするための政治的動機を露呈させただけと言える。

5月26日以来ケム・ソカ氏は、救国党本部内に事実上軟禁状態にある。フン・セン首相や政府高官らは、氏が公けの場に現れれば、逮捕されるだろうと発言している。以来ケム・ソカ氏が党本部を離れたのは7月24日の1日のみとのことで、その日は、ケム・レイ氏殺害に抗議し、その死を悼む人びとが数十万人集まった抗議集会に参加した。

フン・セン首相の長女フン・マナ氏が所有するテレビ局は6月14日、裁判所がひとたび命令すれば、ケム・ソカ氏の逮捕に軍の全ブランチを含む「公共部隊(public forces)」が使われることになろうと報じた。 親政府系ウェブサイトが8月29日に公開した演説のなかで参謀長のクン・キム将軍は、ケム・ソカ氏の身柄を拘束するために軍隊を使うことになるだろうと、改めて表明している。8月31日には、軍のヘリコプターや砲艦、および自動小銃で武装した覆面部隊が、救国党本部の上空および周辺で「演習」を実施。これの陣頭指揮にあたったのは、フン・セン首相の個人的な警備隊の一部だった。この部隊は最近では、2015年10月に起きた2人の野党議員に対する政治的動機に基づく暴力への関与も疑われている。

過去の野党に対する暴力行為を正当化した際には、フン・セン首相は野党勢力を単なる「蚊」に過ぎないとして、叩くのみではなく、「政治的な核攻撃」のように殺さなければならないと宣言している。救国党による2016年6月のフン・セン首相批判を暗にほのめかしつつ、「横から誰かにつつかれたら、顔面を殴り返す権利がある」と発言した。

逮捕命令の執行に軍を展開することを含め、軍隊が法執行を行うことは、国際的なベストプラクティスと矛盾しており、人権侵害に結びつきやすい。軍隊は戦場での軍事作戦のために訓練・装備しているのであり、人権を尊重しながら警察活動に関わることは想定されていない。カンボジアのメディア報道検証の結果、法執行における軍隊使用の事例が近時で一件だけ明らかになった。2014年に州裁判所が、武装中とみられる犯罪者らが戦場のような状態を作り出した事件を裁いた時だ。

アダムズ局長は、「野党政治家を逮捕するためにヘリコプターと砲艦を展開するというフン・セン首相の脅しは許しがたい脅迫行為であり、かつ権力の座に居座り続けるためには軍の使用も辞さないという決意の表れでもある」と指摘する。「外国政府や経済協力ドナー国は、フン・セン首相の手を抑え、民主主義にチャンスを与えるために、かなりのレバレッジを使う必要がある。そしてその成功のために、速やかな協力行動が求められている。」