アジア太平洋全域のトランスジェンダーの人びとのコミュニティは、自分たちの権利を求めて必死に立ち上がっています。しかし、域内の各国政府は、自国が負う人権上の義務をまだ果たせていないと、アジア太平洋・トランスジェンダー・ネットワーク(APTN)がこの度発表したレポートは指摘しました。
今回の「ブループリント(青写真)」レポートは、アジア太平洋地域のトランスジェンダーの人びとの人権について優先事項を4つ挙げています。暴力を受けないこと、汚名や差別の対象とならないこと、実現可能な限りの優れた医療を受ける権利を持つこと、法的な性別認知(自らが望む性に適合するよう身分関係書類の記載を変更する力)を得ることです。
こうした要求はきわめて基本的なものですが、この地域のトランスジェンダーの人びとの大半の経験とは好対照をなしています。
たとえばマレーシアでは、出生時に割りあてられた性と異なるジェンダー・アイデンティティ(性自認)を持つ人は訴追の対象です。「女性を装う男性」や、時には「男性を装う女性」を禁止する国内法があるためです。ヒューマン・ライツ・ウォッチはマレーシアでのトランスジェンダー女性への人権侵害を明らかにしてきました。恣意的逮捕や拘禁、性的暴行・拷問・虐待、雇用差別、医療従事者による屈辱的な対応、法的な性別認知を行う手続きの不在、性別適合手術の禁止などです。
他のアジアの国々では、本人が望む性を法的に認知させることは可能でも、いったん変更すれば戻すことはできず、人権を侵害されるような手続きが必要になる場合もあります。日本、シンガポール、韓国、台湾、香港、中国では法的手続きの一環として性別適合手術・不妊手術が求められます。こうした規定は、精神障害としての診断を求めるなどの差別的な要件をしばしば伴う屈辱的なものです。
また一定の法的手続きが存在する国でも、まだ足りないことだらけです。たとえばインドでは、2014年に最高裁判所が政府にトランスジェンダーの人びとの人権保護を命じていますが、警察は今も当事者たちを恣意的に拘束して拷問を行ったり、役務の提供を拒否したりしています。タイでは、東南アジアで初めて性表現を保護する非差別的な法律が最近成立しましたが、性を転換する手術をアジア太平洋地域で中心的に担うにもかかわらず、法的な性別認知に関する政策が存在していません。
今回アジア太平洋トランスジェンダー・ネットワークが、国連開発計画(UNDP)と世界保健機関(WHO)と共同で文書を発表したことには大きな意義があります。この2つの国際機関は先日、LGBTIの人びとへの暴力と差別の廃絶を求める共同声明に他10機関とともに署名しました。
声明に賛同した国際機関は「加盟国およびその他のステークホルダーが(…)、たとえば憲法や法律、政策の改正、国内機関の強化、また教育や研修などの主導的取り組みを通じて、すべてのLGBTIの人々びとの人権を尊重、保護、促進、実現することを支援し、協力する」と公約しました。
APTNの「ブループリント」はこうした動きを実現する道筋を示したものであり、各国政府はトランスジェンダーの人びとの健康と人権の向上にただちに取り組むべきです。