(アムステルダム)-オランダ上院が2013年12月18日に可決したトランスジェンダーの権利に関する法律は、平等の実現に向けた重要な一歩である。新法によってトランスジェンダーの人びとは、身分証明用書類上の性別欄を、自らが選択した性別に変更できるようになる。新法では、全く自由なジェンダーアイデンティティ決定権の確立には及ばないものの、ホルモン剤の服用や不可逆的避妊等の手術など、従来の性別変更申請で必要とされていた条件が廃止された。

同法は賛成51票反対24票で可決された。下院では既に可決済みで、国王の署名を待つばかりであり、2014年7月1日には発効する。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのレズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー(以下LGBT)の権利プログラムのアドボカシーディレクターであるボリス・ディトリッヒは「新法はオランダのトランスジェンダーにとって、平等の実現に向けた重要な前進となる一歩である」と指摘。「ジェンダーアイデンティティを変更する人びとの権利が強化され、人権侵害的な医療条件を押しつけられることはもうなくなる。」

1985年に成立してから4半世紀以上が経過した法律の性別変更条件は、トランスジェンダーの人びとの人格的自律と身体的完全性(フィジカル・インテグリティ)を侵害し、本人がジェンダーアイデンティティ(性自認)を決定する能力を否定する内容となっていた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2011年9月、1985年法(民法第28条)がトランスジェンダーの人びとの日常生活に及ぼす影響をまとめた全85ページの報告書「体を支配しアイデンティティを否定する:オランダでのトランジェンダーに対する人権侵害」を公表、民法第28条はトランスジェンダーの人権を侵害していると指摘して、民法改正を勧告した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは報告書作成にあたり、28人のトランスジェンダーに加え、医療専門家、法律専門家、政府当局者、NGO代表、研究者などに聞き取り調査をした。報告書は、新法に関する下院と上院での議論において、何度も言及された。

新法では16歳を超えていれば誰でも、自らのジェンダーを変更する申請書を提出できる。しかし申請には、別のジェンダーであるという恒久的確信を本人が抱いていることを確約する、専門家の意見書を添付する必要がある。

最低年齢を導入するのではなく、ケースバイケースで個別に変更申請を審査するほうがより良いというのがヒューマン・ライツ・ウォッチの見解だ。また専門家の意見書添付を条件とした点も、医療関係者のうちごく一部しか専門家として指定されていない現状からして、長蛇の列ができて意見書取得までに長い時間がかかる可能性がある。しかしながら政府は上院に対して、法律の見直しのめどを5年から3年に短縮すると約束した。見直しの際、これら2つの問題点が再検討されることとなる。

オランダは1985年、ヨーロッパの中でも先進的にトランスジェンダーが自らの性別を変更できる法律を導入。しかし4半世紀以上が経過し、オランダはもはや最先端ではなくなった。当時進歩や発展を象徴していた法律は今や、国際人権法をオランダが理解し実践するにあたって最高水準とは程遠い、全くの時代遅れになってしまった。ドイツポルトガル英国オーストリアなどのヨーロッパの数カ国は、憲法裁判を経るなどして、すでに手術とホルモン剤服用を必要条件から廃止している。アルゼンチンの法律は、手術やホルモン剤そして第3者の関与も要件としていない。

この法律で規制される人格的自律と身体的完全性(フィジカル・インテグリティ)に対するトランスジェンダーの権利は、オランダ憲法によって保障されている。また、オランダが批准している「市民的及び政治的権利に関する国際規約」や欧州人権条約などの国際人権法もトランスジェンダーの権利を保障している。

オランダは法律の改正に当たり「性的指向と性自認の問題に対する国際法の適用に関するジョグジャカルタ原則」を指針にした。ジョグジャカルタ原則は、全ての人びとに自己のジェンダーアイデンティティ(性自認)を決定する権利を認めた措置の導入を検討するよう各国に促している。ジョグジャカルタ原則には拘束力はないが、オランダ政府はこれを支持する旨明らかにしている。

前出のディトリッヒ ディレクターは「新法における専門家の意見書添付の義務は、第三者の干渉なしに自らのジェンダーアイデンティティを決定するという、トランスジェンダーの権利を損なうものだ」と指摘。「新法は前進ではあるが、オランダ市民が自らジェンダーアイデンティティを決められるよう、完全な人格的自律の実現に向けてオランダ政府は動くべきである。」