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シリア:公正な裁判の実現には総合的なアプローチが必要

罪を逃れやすい状況を改善するには、国際刑事裁判所など多様な手段が不可欠

(ニューヨーク)-シリア国内で行われた重大犯罪についてのアカウンタビリティ(責任追及・真相解明)実現のため、関係各国政府は包括的な対策に向け措置を講じるべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。シリアでの重大違反をめぐり、信頼性のある刑事訴追を支持する援助国・機関は、世界各地におけるアカウンタビリティの成功と欠点から学ぶべきことがある。

報告書「シリア:国際法上の重大犯罪に対する刑事訴追」(全20ページ)は、アカウンタビリティの実現が一刻も早く必要である点を強調するとともに、適切に設置された法廷を通じてシリア国内の人権侵害加害者を公正な捜査のうえ訴追するための、複数の具体的措置を提示して検討する内容となっている。「法の裁き」の支持を示すために、各国が取るべき短期的行動、ならびに長期的な政策と施行についても、本報告書は概説している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ国際司法顧問のバルキース・ジャラは、「国際社会は、シリアの恐ろしい犯罪に対するアカウンタビリティ実現が、息の長い平和に欠かせないものであることを理解すべきだ」と指摘する。「シリアにおける『法の裁き』実現には多様な司法手段が必要となるであろうし、それらが互いに矛盾することのないよう、長期的な展望も求められる。」

本報告書では、シリアの事態に対する国際刑事裁判所(以下ICC)の関与をはじめ、シリア国内法廷での刑事訴追、普遍的管轄権の原則にのっとった国外法廷での訴追など、アカウンタビリティに関する一連の勧告を列挙した。更に、同国司法制度の枠組み内で特別法廷または機関を設置することから考えられる利点についても議論を展開している。大規模な残虐事件に関し、こうした特別法廷・機関が国内外から人員を募集し、ICCほかシリア国内法廷と協力することで得られる利点は大きいといえる。

刑事訴追は、「法の裁き」とアカウンタビリティの実現における一要素に過ぎない。シリア社会が持続的に前進する道程には、より広範に真実を伝える仕組み、補償、公職追放、経済発展、復興なども必要とされるだろう。

政府および親政府派民兵組織による人権侵害を過去2年半にわたり広く調査して取りまとめた結果、ヒューマン・ライツ・ウォッチは双方が人道に対する罪と戦争犯罪を行ったとの結論に達した。政府は居住区への無差別空爆や砲撃を続けており、一般市民と戦闘員の恣意的拘禁や拷問、超法規的処刑も依然として行われている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、反体制派勢力の一部による車両爆弾と迫撃砲の無差別使用や誘拐、拷問、超法規的処刑など、戦争犯罪に相当する重大な人権侵害についても調査し、取りまとめた。また勢力の一部が、人道に対する罪にあたる可能性のある一般市民の組織的誘拐と意図的殺害に関与していることについても、調査し取りまとめている。

シリア政府はこれまで、政府および親政府派民兵組織による違反行為の責任を問うのに有意義な措置を、全く講じてこなかった。関係当局が過去ならびに現在進行中の重大な人権侵害に対して、信頼に足る「法の裁き」を確保する政治意思を欠いていることは明らかだ。同国の司法制度が、こうした大規模犯罪に効果的に取り組める能力を備えているのかについての懸念も深まっている。加えて反体制派勢力も自らの構成員による人権侵害をめぐり、アカウンタビリティ実現に十分対処してきたとはいえない。結果として、同国内での訴追は選択肢となりえないのが現状である。

こうした背景を踏まえてヒューマン・ライツ・ウォッチは、内戦の全陣営による残虐行為の被害者のために「法の裁き」を実現するのに極めて重要な第一歩として、シリアの事態をICCに付託するよう、国連安全保障理事会に強く求めてきた。これまで安保理理事国6カ国を含む64カ国がICC付託へ支持を表明している。

ICCへの付託は、短期的にも長期的にも利がある。現下のそれとしては、シリアで続く内戦において重大犯罪への関与は容赦されず、深刻な結果を招くというメッセージを内戦の当事者全員に送ることが挙げられる。訴追の可能性という説得力のある脅威は、更なる人権侵害抑止の一助となりうる。

内戦が終了したあかつきにも、ICCは決定的な役割を果たすことができる。これは、シリアの司法分野が、複雑で政治色の強い諸事件に対処する備えを持たない可能性が極めて高いことを鑑みての結論だ。ICCはまた、国内法廷をはじめとするそのほかの司法上の構想に貴重な基準を設けることができるだろう。

ICCが関与することになっても、不処罰問題の是正にはシリア国内での公平かつ効果的な捜査・訴追が必要不可欠であることに変わりはない。しかしながら、犯罪の規模がもたらす実務上の困難さ以上に、同国内の制度が有意義な「法の裁き」を公正かつ独立して実現できるようになるには時間を要するだろう。

シリア国内の司法制度強化をめぐる取り組み成功の行方は、実にその時の関係当局にかかっている。初段階から信頼に足る「法の裁き」実現に必要な政治意思がないようでは、残虐な犯罪を専門とする特別法廷または機関のような司法機構設置を検討するのは不可能だ。こうした憂慮は、そもそもなぜICCが創設されることになったのか、その理由を思い起こさせる。

内戦中の現在でも、今後の裁判に向けシリアの司法制度整備の一助となる措置を講じることは可能だ。特に、シリア国内法が国際犯罪を犯罪として規定し、裁判官の独立など公正な裁判を保障するためにいかなる法改正が必要かをまずは特定する取り組みを、関係国政府は支援できるはずだ。

前出のジャラ顧問は、「全面的なアカウンタビリティ実現には、ICC付託に加えて、当然シリアの国内法廷で事案を追加的に裁く必要が出てくるだろう」と述べる。「しかし、長い目でみてシリア国内で行われている犯罪を同国内で公正に訴追するためには何が必要なのかについて、明確に把握しておく必要がある。」

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