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中国:セックスワーカーに対する暴力に終止符を

差別的かつ弾圧的な法が許す  女性たちへの人権侵害

(香港)-中国のセックスワーカーに対する刑罰法規と警察活動が重大な人権侵害を招いている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。これら人権侵害には警察による暴力や、「労働を通しての再教育」「収容を通しての教育」施設における最長2年の恣意的拘禁、HIV検査の強要などが含まれる。中国には推計400〜600万人のセックスワーカーがいるとみられ、その圧倒的大多数は女性だ。

報告書「『追いやられて』:中国におけるセックスワーカーに対する人権侵害」(全51ページ)は、北京の女性セックスワーカーへの警察による人権侵害(拷問・殴打・身体的暴行・恣意的拘禁・罰金、並びにセックスワーカーをめぐる顧客やあっせん人、国家機関員による犯罪の捜査の不在)について調査し、取りまとめたもの。また、公衆衛生当局者よるHIV検査の強要やプライバシー侵害などの人権侵害、医療保健担当者による虐待行為についても詳述している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中国部長ソフィー・リチャードソンは、「中国では多くの場合、性労働に従事することで女性は諸権利を喪失したとでもいうような扱いを、警察から受ける」と指摘する。「政府はセックスワーカーをめぐる弾圧的な法律を廃し、虐待的な警察官を処分し、セックスワーカーの権利を擁護・推進する活動家の弾圧を停止すべきだ。」

ここ数十年にわたって、中国政府は性産業の成長を野放し状態にしており、生活の糧として性労働に従事する女性は数百万人にも上る。しかしながら、政府は今も公式には性労働を全面的に禁止しており、性労働は「社会主義的な精神文明」に反する「醜悪な社会現象」との見解のもと、罰金あるいは短期間の拘禁で処罰可能な軽犯罪として扱っている。

警察は断続的に「売春取り締まり活動」を実施し、多くの場合数週間ほど続く。こうした活動は、犯罪に対するより大規模な「強打」キャンペーンと連動して行なわれる。期間中に警察は性労働の現場である娯楽場や美容院、マッサージ店に再三立ち入り捜査を行い、セックスワーカーと疑った女性を多数拘束。取り締まり活動中にこうしたセックスワーカーたちが、警察による残虐行為や恣意的拘禁といった人権侵害に直面する危険性は、極めて高い。中国人セックスワーカーの権利保護に向けて国内で活動する人びとも、こうした警察の立ち入り捜査を非難してきた。

中国警察はまた、セックスワーカーの疑いがあるとした個人を、適正手続きや公判を経ないまま、「労働を通しての再教育」(以下、労働再教育)施設や通称「収容を通しての教育」施設に最長で2年まで拘禁することができる。政府は2013年1月、「労働再教育」制度を「改革」する意向であることを表明した。しかし、推計183カ所でその収容者の大半が女性である「収容を通しての教育」施設の1万5,000人超については、同様の発表がされていない。両制度における拘禁は共に、法に基づいた適正手続きを経ないで個人の自由を奪うことから、国際法上の恣意的拘禁に相当する。

複数の中国人セックスワーカー団体から成る連合体は2012年12月、セックスワーカーに対する暴力の停止を求め、セックスワーカーがレイプや傷害、時に殺人を含む犯罪の被害者となった場合でも何ら手を打たない警察を激しく非難する陳情を発表した。近年数多くの草の根NGOと熱心な活動家たちが、セックスワーカーに向けた小規模の支援活動を開始している。具体的にはコンドームの配布や、保健とHIV予防に関する意識向上の促進、基本的な法律の教育などが含まれる。しかし政府は、これら人権活動に携わる個人・団体に対する締めつけを維持しており、活動を厳しく制限すると共に、警察による嫌がらせや脅しにさらしている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じたセックスワーカーたちは、中国の国内法では未だ合法のHIV/AIDS強制検査を含む、保健とプライバシーについての権利を侵害した関係当局の数々の行いについて詳述。HIV/AIDS検査の結果を第3者に開示されたケースや、自らの検査結果を告知されていないケースなどがあった。セックスワーカーの検査や医療保健サービスの提供を担当する保健当局者から受けた虐待について証言した人びともいた。こうした虐待行為が原因で、セックスワーカーが公衆衛生機関を避けている事例もいくつかみられ、それはとりわけ同機関が法執行当局と密接に協力して活動している場合に顕著だった。

成人同士が自発的かつ同意に基づいた性的関係を持つことに対して、懲戒的な刑罰を科すのは、自己決定権やプライバシー権といった国際的に認識されている人権を侵害するものだ。それはまた、自発的な成人同士の商業的性労働にも当てはまるべきである。性労働の従事を自発的に選択した成人の主体を認め、尊重することは、人権の尊重と一致する。セックスワーカーの行政拘禁を含め、自発的な性労働に刑罰を科すことは、性労働に従事する人びとの基本的権利の行使を妨げることにもなる。具体的には、暴力からの政府による保護、人権侵害に対する法の裁きへのアクセス、必要不可欠な医療保健ほか社会サービスへのアクセスなど。

自発的に性労働に従事する何百万もの女性の人権を中国政府は擁護してこなかった。そのことで彼女たちは差別や虐待、搾取の対象となり続けており、更には公衆衛生政策を損なう結果にもなっている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは中国政府に、自発的かつ同意に基づく性労働および客引きといった関連違反行為に対する、刑事・行政罰を廃止する法律を制定するよう求めている。また性労働に従事する女性たちに深刻な人権侵害をもたらしてきた、断続的な「売春取り締まり」一斉キャンペーンの停止を要請した。

前出のリチャードソン中国部長は、「法執行機関による人権侵害は、セックスワーカーが犯罪の被害者となった時に警察に届出たり、支援が必要な時に公衆衛生サービスの助けを求めることを思いとどまらせている」と述べる。「そのことでセックスワーカーは、虐待や搾取に対して一層脆弱な立場に追い込まれることになる。もし中国が、本気で女性の権利を擁護・促進していく気なのであれば、性労働に従事する何百万もの女性を無視することはできない。」

 

報告書追いやられてから証言の抜粋

身元安全確保のため、聞き取り調査に応じたすべての人びとの氏名および個人を特定する詳細は伏せた。本報告書で使われた名前はすべて仮名である。

「何回もレイプされたことがある。でも私は売春婦で、法に違反して性を売っているから、逮捕されるかもしれないのは私なのよ。だから警察に届出ようなんて思ったことはないの。」–リィジア(北京)

「私たちのシマで働いていた女の子を、客が蹴ったり殴ったりし始めたことがあった。女の子が気を失うまでね。それから車に乗せて連れ去ってしまった。トラブルに巻き込まれるのが嫌で警察なんか呼ばなかったわ。あの晩、その子に何が起きたかは分からない。」–マンチン(北京)

「ここの警官の1人がセックスしてくれたら私たちをまもってやるなんて言うのよ。警官はそういう時、お金を払わない。したくなったら私たちのところにくるだけのことよ。でも助けてって頼んだって、助けてくれなかったわ。売春婦のことなんて本当にどうだっていいのよ。」–ジア・ユエ(北京)

「アザだらけになるまで殴られた。わたしが売春婦だって認めなかったからよ。」–シャオ・ユエ(北京)

「警官は問題ないって、署名すれば4、5日で釈放だって言った。署名させるためにだましたのよ。結局、『収容を通しての教育』施設に6カ月閉じ込められたわ。」–ジャンホワ(北京)

「一斉取り締まりで警官がもっとお金を稼ぎたい時は、客を送り込んでくるの。ことが始まると客が警察を呼ぶ。警官はどっちも逮捕して売春婦から罰金を徴収すると、それを客と山分けするってわけ。」–ジェンメイ(北京)

「ああいう診療所にはもう行かない。前に行った時にすごく横柄な態度だったから。それに警察に通報されるんじゃないかって怖いし。」–ジンイン(北京)

「疾病管理センターで去年検査を受けたのに、その結果は教えてくれなかった。AIDSにかかってなければいいんだけど。」–ジャンピン(北京)

「セックスワーカーが検査を受けるのに何回か同行しました。結果を待っていると、みんなが見られるよう、テーブルの上にその結果をぽんと置くんです。ふたりが陽性でした。」–セックスワーカーに協力するNGO活動家(北京)  

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