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(ベイルート)- イラン政府は、大学生、特に女性への学問の自由に対する不必要な規制を定めた政策を直ちに撤廃すべきであると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。同国の大学では2012年9月22日に新しい年度が開始されるが、これに合わせて新たに複数の「イスラーム化」措置が導入される。ほかにも全国の大学で近年実施された措置が存在する。

こうした措置のなかには、多くの大学で特定の学問分野に関する履修を女性と男性に禁じているものがあるが、大多数は女性が対象だ。研究分野によっては女子学生の割合を制限するものもあり、教室や施設では男女別学となっている。

「過去数十年にわたり、イランでは質の高い大学教育が男女に提供されてきた」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの女性の権利局長リースル・ガルンソルツは指摘する。「しかし大学が新年度に入ると同時に、学生たちは大幅な後退を経験することになる。とくに女性は自分が望む教育を受け、キャリアを形成することができなくなる。」

イラン政府当局が今回導入する大学での「イスラーム化」政策は、マフムード・アフマディーネジャード(アフマディネジャド)大統領が2005年に就任してから実施されてきた、学問の自由への広範な弾圧策の一環だ。大学を標的とし、反体制派を押さえ込み、高等教育を「イスラーム化」しようとする政府の試みはますます強まっている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

新たな規制が示しているのは、科学技術省の指揮下にある関係当局が、大学と高等教育機関の「イスラーム化」を目指す長年にわたる計画を進めるなかで、大学での若い女性の役割と教育へのアクセスが制限されていることだ。1990年代以降、イランでは大学生の6割以上が女性である。

最新の規制措置については、高等教育を管轄する科学技術省が発表した年次手引書に概略が掲載された。この手引書には、6月に行われた国立大学入学試験(コンクール)の受験者が応募できる専攻分野の一覧が書かれている。これによると全国36の国立大学で77分野について女性の入学が禁止されていると、準国営のメフル通信が伝えた。また多くの分野で男性の入学が禁止されたこともわかった。

8月6日付けのメフル通信の報道によれば、8月に科学技術省教育評価機構が刊行した2012年版手引書では、全国の多くの大学で「性別割当」(男女どちらかのみが専攻可能という意味)とされる専攻分野のリストが掲載された。この過程は科学技術省の監督下にある個々の大学によって実施される。全国で60以上の大学が変更を行っており、約600の専攻分野が規制対象となっていると、学問の自由に関する問題を扱う反体制派ウェブサイトのダーネシュジュー・ニュースは述べた。

8月4日付でダーネシュジューが掲載した記事によれば、新年度の大学で「性別割当」とされるのは、数学・技術科学(工学を含む)で約20%、社会科学では30%以上、伝統科学で10%、人文科学で34%、外国語で25%となる。大学によっては、強制的に男女別学とするためにセメスター毎に専攻を「性別割当」とするものの、男性または女性の入学者いずれかの登録を完全に禁じることはしていない。

女性が禁止対象となった分野はアラーク大学ではコンピュータ科学、化学工学、産業工学、機械工学、物質工学であり、テヘラン大学では天然資源工学、林学、鉱学であり、エスファハーン大学では政治学、会計学、経営学、行政学、機械工学、土木工学だ。またガズヴィーンのエマーム・ホメイニー国際大学では、社会科学の14専攻すべてが男性のみとされた。

「性別割当」政策によって男性の選択肢も制限される。例えば、エスファハーン大学では、男性は歴史、言語学、神学、応用化学、アラビア/ペルシア語・文学、社会学、哲学を専攻することができなくなる。

「性別割当」政策が多数の専攻に適用される大規模大学としては、アラーク大学(88%)、エスファハーン大学(68%)、イマーム・ホメイニー国際大学(82%)、ロレスターン大学(100%)、アルダビール研究大学(100%)、ゴレスターン大学(59%)、アッラーメ・タバータバーイー大学(43%)がある。アフヴァーズのシャヒード・チャムラーン大学は、公式には共学として登録されている大学であるにもかかわらず、全47専攻を「性別割当」として男性に限定している。

国内トップレベルのテヘラン大学では3%のみが「性別割当」となっている。

大学側も科学技術省側も一部の専攻を「性別割当」とした理由を説明していない。8月26日付の声明で教育評価機構は、大学が「性別割当」政策を決定したことを取り上げた報道を批判し、政府は特定の専攻分野について女性の登録を全面禁止したと伝えた反体制派メディアの報道やウェブサイトの内容は誤りだと主張した。

教育評価機構側は、全国の大学で提供される専攻分野の数は14%増加しており、大多数は男女ともに専攻できる状態だと主張した。9月11日にホセイン・タヴァッコリー教育評価機構長は、2012/13年度の大学年に関する入学試験結果が発表され、女性の登録者は全体の60%だと発表した。

しかしヒューマン・ライツ・ウォッチが教育評価機構の手引き書を検討したところ、禁止対象となった選考のリストには、卒業生の給料が最も高い、工学関係など技術・応用研究の分野が含まれていた。これらの分野では近年女性の就職が増えている。

「大学の専攻に関する性別規制は、明確な、または特定の規則に沿って行われているものではないようだ」と、前出のガルンソルツは述べた。「科学技術省と大学当局は、男女の大学生双方に対して、希望する専攻分野を受講させない恣意的な障壁を築いているようだ。」

差別なく万人が教育を受ける権利は、イランが受け入れているほか、当事者である国際的な文書(世界人権宣言、経済的・社会的及び文化的権利に関する国際規約[社会権規約]、ユネスコの教育における差別待遇の防止に関する条約など)で明示的に保障されている。これはまたイラン憲法でも保障された権利だ。

社会権規約の規定の解釈について一般的意見を表明する経済的、社会的及び文化的権利委員会は、イランなど同条約を批准する各国政府に対し、女性の科学教育への完全な参加を阻む制度上の障壁等を撤廃することを求めるとの意見表明を行っている。また「禁止事由に基づく差異ある待遇は、差異に対する弁明が妥当かつ客観的なものでない限り差別的であるとみなされるであろう」との意見表明も行っている。 

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