Burmese refugees at the Mae La refugee camp near Mae Sot, Thailand, one of nine refugee camps along the Thai-Burma border, June 2012.

© 2012 Reuters

(バンコク)-タイ政府には数十年にわたり数百万人の難民を受けれてきた歴史があるにもかかわらず、タイ国内に滞在する難民に対する政策は恣意的で人権侵害を伴いやすい、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。

報告書「場当たり的で不適切:タイ政府の難民と庇護希望者への処遇」(全143ページ) は、タイの難民政策が、法律に基づかない上にあらゆる国籍の難民の搾取や不必要な拘束および強制送還の原因となっている実態を明らかにしている。本報告書は、タイ国内の難民人口の中で最大の比率を占めるビルマ難民の惨状に焦点を当て、タイとビルマの国境に位置する難民キャンプ内で生活するビルマ難民と、キャンプ外で生活し正式に難民と認められていないビルマ人の、処遇と状況を分析している。また、ビルマの政治変革の結果行われる可能性のある本国送還問題がもたらす影響と、長期化する難民の窮状の解決の障害は何かについても検証している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ難民局長であり本報告書の共同執筆者でもあるビル・フレリックは「タイ政府がビルマ難民に提示しているのは2つの不公正な選択肢だけ。辺境の難民キャンプの中で何年間もの萎靡沈滞に耐えるか、難民キャンプの外で逮捕や強制送還に脅えながら労働しながら生活するか、だ。ビルマ以外の国からの難民も寛大な処遇を受けることはほとんどなく、タイ政府当局は難民を逮捕し無期限に拘禁することもある」と語る。

タイ政府は難民条約(1951年)を批准しておらず、難民法もなく、庇護・亡命手続きも機能していない。そして、ビルマ難民用に指定された難民キャンプの外で生活するあらゆる国籍の難民を、不法滞在者とみなしている。

タイ政府は、ビルマ国境沿いにある9つの難民キャンプ内で生活する14万人のうち僅か60%しか難民として登録していないうえに、登録した難民に対しても最低限の保護をキャンプに留まる限り提供しているだけだ。政府は2006年半ば以降僅かしか難民を登録しておらず、キャンプ住民の残り40%を極めて弱い立場に放置し続けている。

キャンプ外のビルマ人は、難民ではなくて移民労働者であると言わないかぎり、逮捕され即強制送還処分に直面することとなる。そのため、移民労働者の地位を得るために、多大な出費と、困難で大抵は汚職を伴う手続きを行うしかない。法律で認められた移民労働者のビザは2年間有効で1回に限り更新可能だが、その後は母国に帰らなければならない。この帰国要件があるために、難民たちには、移民労働者の地位を得るというオプションも事実上存在しない状態だ。

前出のフレリック難民局長は、「タイ政府は全ての亡命希望者に、難民申請の審査を受ける公平な機会を提供すべきであるとともに、難民の移動と労働を認めるべきである。そうすれば、難民はタイ経済に貢献する一方で技術も身に付け、搾取される危険性も減るはずだ」と、語る。

タイ政府は、国連難民高等弁務官事務所(以下UNHCR)がビルマ、ラオス、北朝鮮からの亡命希望者の難民認定に必要な審査を行うことを許可していない。UNHCRはその他の難民には「援助対象者(Persons of Concern)」証明書を発行することを認められているが、証明書は労働を承認するものではないので、街頭や自宅で警察の職務質問にさらされた証明書保持者が保護を受けられることは殆どない。

ビルマで進んでいる政治改革の進展は、タイ政府の難民政策に影響を与える可能性がある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。ビルマ国内では数十年にわたる内戦と弾圧が行われてきたが、情勢が最近になって変化し、ビルマ政府とほぼ全ての非国家武装勢力(少数民族の武装勢力)との間で停戦の仮協定が合意された。そして、タイ国境難民キャンプ内のビルマ難民は、母国帰還に向けた期待をふくらませている。しかし、確固たる政治決着まで至っていないことや、地雷問題、ビルマ政府が国境地帯でのUNHCRによる活動を認めていないことなど、未だに極めて多くの障害が残っているのも事実だ。

フレリック難民局長は、「タイ政府がビルマ国内の事態の進展を見極めており、ビルマ難民の早急な送還を進めてはいないということは称賛に値する。だからこそ今は、タイ政府が、ビルマ難民の安全な帰還とビルマ社会への再復帰を実現するための備えに何が必要か、建設的かつ戦略的に考える絶好の時だ」と指摘する。

タイ政府は、キャンプ内のビルマ難民の移動を制限するとともに労働を禁止する政策をとっているが、そのために社会的な機能不全がおきている。現在の政策の結果、難民たちは、母国に帰国後、自らのコミュニティへうまく復帰できるよう備えるのが困難になっている。

難民キャンプの多くは隔絶された山間地にあり、未舗装道路でしかたどり着けない。しかもその一部は過密状態で、食糧や避難所などの基本的援助は、国際的な援助提供国や機関の関心がビルマ国内のプログラムに移った為に減少している。社会との隔絶は、難民保護を任務とするタイ政府当局者などによる職権乱用や、人権侵害への不処罰の原因となっている。

恐怖や不安、無力感が漂うキャンプでは、難民たちは警察などの治安機関に被害を訴える気力を失い、諦めの態度がまん延する事態となっている。

「私たちはタイの領土にいるので、従わなければなりません。決してはっきりものは言えませんし、我慢して抵抗しないようにしなくてはならないのです。もの言えば唇寒しですよ。」と、ある男性は語った。

教師や医療・保健関係者など、高学歴で高い技術を持つキャンプ内の難民の多くはアジアを出て外国に移住しており、残った難民は社会的支援が欠如し、学ぶべき技術もない状態で放置されている。移動の自由が制約され、外からの援助に頼る状態が何年も続いた結果、キャンプ住民の多くは、家庭内の暴力、うつ病などの社会的、精神的問題を経験している。

タイ政府の政策には、キャンプ外で生活するビルマ人に「難民の地位」を与えるという概念が存在しない。政府当局はキャンプを離れる難民を、逮捕すべき不法滞在者として扱う。タイ警察、兵士、民兵組織はキャンプ外でキャンプ住民を逮捕し、多くの場合強制労働させるかワイロを要求した後に連れ戻したり、タイの移民収容センター(Immigration Detention Center、以下IDC)の1つに送りそこからビルマに強制送還してしまう。

難民のなかには、タイ政府当局にキャンプ外で逮捕された時暴力を受けた、とヒューマン・ライツ・ウォッチに話す人びともいた。メラ難民キャンプで生活するカレン民族の男性(33歳)によると、2008年5月に逮捕された後、「金を要求されて・・・『持ってない』って言うと、今度は、1人がこことその次に背中のここ(背中と両肩)を2度殴り、その後、1度蹴ったんです。それから私たちのバッグに金がないかって探し始めたんです。2,000バーツ要求されましたが、そんな金はなかった。バッグの中から、私のUNHCR発行のIDカードを見つけ、それを持って行ってしまいました。」

タイ政府はUNHCRと協力し、未登録のままで放置されているキャンプ住民の40%に対して、公平で透明性を確保した難民審査・登録制度を確立すべきである。政府は難民コミュニティのリーダー、NGO、UNHCR、援助提供国・機関と協同して、難民の自立を助けると共に、ビルマが帰還できるほど安全になった時に、難民がビルマ社会に復帰できるよう備えるべく、解放型モデルのキャンプへと秩序だった移行を行うべきである。

援助提供国・機関の一部、特に欧州各国は、既にキャンプの外で生活し働くための技術向上に向けた「生計戦略」と呼ばれる援助に移行し始めている。しかしそのようなアプローチは、難民がキャンプを離れて働くことを許可されなければ有効でない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

前出のフレリック難民局長は、「タイ政府当局は、キャンプ内の人びとを含む全難民がタイの司法制度へアクセス出来るようにし、恐喝や人権侵害を行った警察などの政府関係者を、適切に懲戒処分や起訴しなければならない。難民たちが自らの将来の決定に関与できるようにするとともに難民の技術を向上させる政策は、短期的なタイの国益となるばかりではなく、難民の自主的かつ持続的な帰還に道を開くとともに、母国に帰還後もタイに好印象を持つ可能性が高まる」と語る。

キャンプ外で捕えられたビルマ人は通常、数日から1週間IDCで過ごしその後強制送還か釈放される。しかしタイ政府当局は、タイと国境を接しない国々に強制送還するために政府資金を使うことは殆どなく、親族が飛行機代を提供するまで無期限に収容している。資金源を持たない移民や、迫害を恐れるため母国に帰る気持ちのない難民は時に、長期間収容用の設計がされていないIDCで、何年もを過ごす場合がある。

IDCに収容されているあるネパール難民は、UNHCRに難民と認定されたものの、もう3年9ヶ月もIDC拘禁されたままだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチに話した。

「聖書は地獄について語っていますよね。ここは地獄の1つですよ・・・。私は部屋で80人と一緒なんです。時々150人なんてこともある。そこにはトイレが3つしかないんです。いつだって問題があります・・・。規則に従わなかったら、1週間も2週間も・・・、手錠掛けられるんです。外の情報を手に入れるための・・・電話もありません。」

タイは1951年難民条約と1967年議定書を批准すると共に、条約の義務事項を実行するための法律を作り、公正な庇護・亡命手続きを確立するべきである。また、あらゆる国籍の人びとに対し、国際的な難民の定義に沿った(紛争から逃れてきた人びとの保護を含む)一環した基準のもとで「難民の地位」を与えなければならない。更にUNHCRが認定した難民を収容施設から直ちに解放すると共に、家族に強制送還の費用を支払わせるための無期限拘禁を止めるべきである。

国際機関と援助提供国・機関は、自活できない難民や自立の為に一時的な支援を必要とする難民に、食糧や人道援助を提供し続けるべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。タイ政府当局は直ちに、キャンプ内で生活している難民を含む全難民がタイの司法制度に十分にアクセスできるようにすると共に、難民や亡命希望者、移民たちに恐喝や虐待を行った警察などの治安当局を、懲戒処分あるいは起訴しなければならない。