(ニューヨーク)–バングラデシュ政府は、同国に滞在するムスリム系住民ロヒンギャ20万人以上に人道援助を行う国際組織への懲罰的規制を即刻停止すべきだと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。同国政府はまた、ビルマ西部アラカン(ラカイン)州での治安部隊による人権侵害と宗派間暴力を逃れるロヒンギャ民族に国境を開放すべきだ。

2012年7月下旬、バングラデシュ政府は著名な3つの国際援助団体(国境なき医師団、アクション・コントル・ラ・ファム、ムスリム・エイド)に対し、コックス・バザールとその周辺に住むロヒンギャ民族への援助提供を停止するよう命じた。

「バングラデシュ政府は、すでにバングラデシュ側に滞在しているロヒンギャ難民の生活条件を著しく悪化させ、隣国ビルマでの過酷な人権侵害を逃れようとする人びとを本国に留まらせようとしている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの難民局長であるビル・フレリックは述べた。「これは残虐で非人道的な政策であり、直ちに撤回されるべきだ。バングラデシュ政府は緊急援助を行う援助団体を歓迎すべきであり、難民支援事業を停止させるべきではない。」

6月中旬以来、バングラデシュ当局は国境のバングラデシュ側に避難してきたロヒンギャ民族を最低1,300人送還したことを認めているが、実際の人数ははるかに多い可能性が高いと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。ロヒンギャ民族は、アラカン州での殺害・略奪などの宗派間暴力のほか、ビルマ当局による民族的動機に基づいた攻撃や大量逮捕などの人権侵害から逃れている。

バングラデシュ政府は、コックス・バザールに援助団体がいることが誘因となり、ロヒンギャ民族がバングラデシュに向かっているが、同国側に受入れ余地はないと主張する。また上記3団体が医療援助などを抵抗することで、ロヒンギャ民族の避難を促したと批判した。なおこの非難に対しても、バングラデシュに国外メディアからの懸念が寄せられている。しかしバングラデシュは、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の当事国であり、難民と庇護希望者を含む自国領内の人びとに対して、食糧や医療などの保護へのアクセスを妨げてはならない。

上記3団体は、バングラデシュのロヒンギャ難民と庇護希望者に水、医療、衛生設備などの基礎援助を提供する。ロヒンギャ難民は約3万人が2か所の公式キャンプで、また4万人が急ごしらえの未登録難民キャンプで、そして13万人が周辺地域で生活している。現場はどこも衛生状態が悪く、人口過密だ。

ロヒンギャ民族が直面する問題には、人口過密、子どもの多くに栄養失調を引き起こす食糧不足、病気の原因となる、清潔な水や衛生設備の不足、強要や人権侵害を伴う移動規制などがある。こうした状況から、公式・非公式キャンプと周辺地域では人道面での非常事態が生まれている。

ベテランの援助要員は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、ロヒンギャ民族が生活する急ごしらえのキャンプでの生活条件は、いままで世界各地で見てきた中で最悪の部類に属すると述べた。

「バングラデシュ政府は、援助団体に食糧・医療の提供プログラムを停止させることで、ロヒンギャ難民の生活をきわめて危険な状態に置いている」と、前出のフレリックは指摘した。「援助を停止させて、ロヒンギャ難民が直面する悲惨な状況をさらに深刻化させようという同国政府の行動は問題外だ。」

アラカン州での宗派間暴力は、アラカン民族仏教徒と、ロヒンギャ民族ならびに非ロヒンギャ民族ムスリムの間で6月上旬に発生し、10万人以上が避難民となった。ビルマ当局は2つのコミュニティを暴徒から守らず、ロヒンギャ民族への殺害、殴打、強かん、大量逮捕などの人権侵害を、一部ではアラカン民族と共に行った。

国連機関は、今回被害を受けたアラカン州内の地域に完全かつ自由な形でアクセスすることがいまだできていない。8月4日、被災地を訪問した国連のビルマの人権状況に関する特別報告者トマス・キンタナ氏は、アラカン州の人権状況を「深刻だ」と述べた。

暴力と人権侵害の結果、多数のロヒンギャ民族が安全のためにバングラデシュ側に逃れようとした。しかし国境は封鎖され、バングラデシュ政府からは送還政策で応じられた。これは国際法違反のルフールマン(追放・送還)にあたる。写真と動画が明らかにするのは、懇願するロヒンギャ民族を、小さなおんぼろ船で強制的に送り返すバングラデシュ国警備隊の姿だ。6月18日にヒューマン・ライツ・ウォッチの調査員は、港町シャー・ポリ・ディプで、バングラデシュ国境警備隊が9艘を埠頭からビルマ領海に押し戻すところを目撃した。国境警備隊の消息筋はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、1,300人もの人びとをビルマ側に押し返したと述べた。

7月28日のマスコミ会見で、シェイク・ハシナ・バングラデシュ首相はロヒンギャ民族に対する責任を一切負っていないとし、責任はビルマ政府側にあると述べた。

「バングラデシュはすでに人口過剰です」と同首相は述べた。「私たちは、こうした負担には耐えられません。」 またロヒンギャ民族がビルマ側に押し返されている事実はないとして「それは事実ではありません。[国境警備隊による]無理強いはありません。本国に帰るように説得し、帰ってもらっているのです」と述べた。この会見ではさらに、ビルマ政府が「ふさわしい環境を作り出して」おり、ロヒンギャ民族に対して「あらゆる[必要とされる]援助も何もかも提供している」ところだと付け加えた。

6月にディプー・モニ・バングラデシュ外相は、ダッカでの記者会見で「ミャンマー[ビルマ]から新しく難民が来るかは私たちの関心事ではありません」と述べた。

バングラデシュは1951年の難民条約と1967年の追加議定書の当事国ではないが、慣習国際法により各国政府にはノン・ルフールマン原則を尊重する義務がある。この原則によれば、難民は、自らの生命や自由が脅かされる可能性のある場所には強制送還されるべきではない。バングラデシュは複数の条約(拷問禁止条約、市民的及び政治的権利に関する国際規約、子どもの権利条約)の当事国でもある。これらの条約では、難民と庇護希望者を含むいかなる者も、拷問を受ける真正な危険性に直面する場所に送還されるべきではないと定められている。

バングラデシュ政府は人道援助機関と人権団体、メディアに対して国境地帯への自由で妨害のないアクセスを直ちに許可すべきであると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。ドナー国と国連機関は、援助などの支援を難民と庇護希望者に提供する準備を整えていなければならない。またビルマ政府に対し、ロヒンギャ民族の権利を完全に尊重するよう強く求めるべきである。その要求にはロヒンギャ民族へのビルマ国籍付与を事実上否定しているビルマ国籍法での平等な取扱いも含まれる。

「バングラデシュ側の難民キャンプは観光地でない。バングラデシュ政府は、到着したロヒンギャ民族は生き延びるためにビルマから逃れてきていることを認識すべきだ」と前出のフレリックは述べた。「バングラデシュ政府は、死傷者を出している宗派間暴力から逃れるロヒンギャ民族を助けることで国際的な義務を果たすどころか、避難民の苦しみを倍加させている。バングラデシュ政府は方針を転換し、一時的な保護を提供した上で援助を許可すべきだ。そうでなければもっとはるかに悲惨な人道上の悲劇が生まれることになる。」