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スリランカ:援助要員の虐殺事件 不処罰のまま

犯人は軍と警察  6年経過するも政府は訴追せず

(ニューヨーク)-スリランカで6年前、援助要員17人が処刑の形で虐殺された事件について、スリランカ政府は今も加害者責任を追及していない。この不作為は、軍人や警察官の訴追を避けたいというスリランカ政府の消極姿勢の表れである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。虐殺事件への政府治安部隊の関与を示す有力な証拠があるにもかかわらず、政府の調査は進展せず、この虐殺事件の犯人はだれも起訴されていない。

アクション・アゲインスト・ハンガー(反飢餓行動:以下ACF)は、パリを本拠地とする国際人道機関だ。2006年8月4日、スリランカ北東部トリンコマリーのムートルにある同機関の事務所敷地内で、銃で武装した男たちが、同機関のスリランカ人援助要員17人(タミル人16人とイスラム教徒1人)を処刑した。虐殺事件に先立って、政府軍と分離独立派「タミル・イーラム・解放のトラ」(タミル・タイガーとも言われる:以下LTTE)の間で、町の支配を巡る戦闘があった。

「援助要員17人に対する即決処刑事件から丸6年になるが、スリランカ政府は被害者にとっての『法の下の正義実現』に一歩も近づいていない。犠牲になった援助要員の遺族の苦しみに対して、ラジャパクサ大統領が示している冷淡な無関心さは、現政権の悲しむべき特徴といわざるをえない」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ法務政策局長ジェームス・ロスは指摘した。

援助要員の男女計15人の遺体は8月6日、頭や首に至近距離からの銃弾を受け、うつ伏せに倒れた状態で発見された。更にもう2人のACFスタッフの遺体が、逃げようとしていたことが明らかな状態で、近くの車の中から発見されている。殺されたACFスタッフたちは、2004年12月のインド洋津波の被害者たちに対する支援活動に従事していた。

NGOグループ「人権保護を求める大学教師(ジャフナ)」(University Teachers for Human Rights (Jaffna))は2008年4月に、ACF虐殺事件に関する詳細な調査報告公表し、目撃者からの証言や使用された武器の分析、政府治安部隊が実行犯であることを示す有力な情報などを明らかにした。直接的な関与が疑われているのは、警察官2人と海軍特殊部隊隊員複数。更に、警察と司法当局の幹部複数が、事件隠ぺいに関係したとみられている。

重大な人権侵害事件17件の調査に向け2006年11月に創設された「大統領調査委員会」は2009年7月、陸軍と海軍はACF虐殺事件に関与しておらず、加害者はLTTEかイスラム教民兵組織であると発表した。同委員会の調査は、目撃者は証言するのが難しくなっており、一方、お粗末な警察捜査をやり直すことは一切なかった。また、ラジャパクサ大統領宛の報告書の全文は、今に至るも公開されていない。

ラジャパクサ政府は、2002年成立の停戦協定がなぜ破棄されたのかなどを分析するため、「教訓と和解委員会」(Lessons Learnt and Reconciliation Commission (LLRC))を創設。国連人権理事会は2012年3月、この「教訓と和解委員会」の出した勧告の実施に向け、網羅的な行動計画を作るようスリランカに求める決議を採択。これを踏まえて政府は7月26日、「LLRC勧告の実施に向けた国家行動計画」を公表している。

この行動計画は「民間人に死傷者の出た特定の事件について、どの様な状況下で起きたのかを、より徹底して調査すると共に、そのような調査で違法行為が明らかになった場合には、違反者を起訴し処罰する」ように政府に漠然と求め、更に懲罰調査の結論を出すまでに12カ月、訴追までに24カ月という期限を設けている。

スリランカ政府のこの計画は、残虐行為の加害者である軍と警察に対する捜査を、透明性のない手続きにゆだねている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。

スリランカ政府はこれまで、重大な人権侵害事件に対して、お粗末な調査しかしておらず、不処罰問題は同国の根深い問題となっている。過去20年に遡れば、未解決の強制失踪や暗殺の事件が数万件に上る一方で、起訴された事件はほんの僅かに過ぎない。スリランカ国内で特別な機関を設置して犯罪に対処するとした過去の取り組みは、真相究明の点でも起訴への道程という点でもほとんど結果を残していない。

LTTEが敗北した直後の2009年5月23日、ラジャパクサ大統領と潘基文・国連事務総長は、スリランカで共同声明を出した。その声明でスリランカ政府は、国際人道法および人権保護法への違反行為に関するアカウンタビリティ(法的責任追及・真相解明)手続きの必要性について「手段を講じる意向である“will take measures to address”」としていた。

「教訓と和解委員会」の委員8人は、紛争末期の数年間の人権侵害に関して、公聴会を開催したが、同委員会には調査権限がなく、更にその手続において独立性や公平性にも欠けていた。

国連事務総長が設立した専門家委員会は2011年4月、LTTEとの内戦の最終盤数カ月に、両陣営が犯した国際法違反に関する網羅的な報告書を作成した。この国連専門家報告書は、スリランカ政府に徹底的な調査を求めると共に、国連には、同委員会勧告のスリランカ政府による実施について監視し、独立して調査を行い、証拠を収集し保全する国際機構を作るよう勧告した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、国連人事務総長をはじめとする国連諸機関に対し、スリランカ内戦に関与したすべての当事者の犯した国際人権法と国際人道法違反の行為について、独立した国際調査機構を立ち上げるよう改めて要請した。その調査機構は、ACF虐殺事件を含め、内戦中の重大な人権侵害事件の加害者の訴追を勧告する権限も与えられる必要がある。

スリランカで起きた重大な人権侵害事件に対する不処罰が続いていることに懸念を持つ各国政府は、こうした独立国際機構の設立への支持を表明するべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。有力な証拠の存在する重大な事件に関してでさえ、スリランカ政府が行動を起こさなかった長い歴史を踏まえれば、これ以上の遅れが許されないのは明らかだ。

「国連人権理事会で行動を求めた各国政府は、刑事捜査を追及するというスリランカ政府の気のない提案で、ごまかされてはならない」と前出のロス局長は語る。「内戦中の人権侵害の捜査に関するスリランカ政府の『行動計画』は、『無行動計画』としか読めないのが実態なのだから。」

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