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(ワシントンDC)-ニューヨーク、ロサンゼルス、ワシントンDC、サンフランシスコの警察が、セックス・ワーカーとトランスジェンダー女性からコンドームを証拠として押収。結果、HIV感染を減らす保健所の活動の障害となっている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。

報告書「危険にさらされるセックス・ワーカーたち:売春証拠にコンドームを押収する米4都市」(全112ページ)は、前述の各都市で警察と検察が、買春容疑立証のためにコンドームを証拠とする実態を調査し、取りまとめた。こうした警察の行動により、セックス・ワーカーやトランスジェンダー女性が逮捕を恐れてコンドーム携帯に消極的になった結果、プロテクションなしの性行為により、HIVほか性感染症の危険にさらされている。本報告書は、2012年7月22日にワシントンDCで開幕する第19回国際エイズ会議に先立って発表。世界中から集まる2万人の代表が、エイズの流行に対する米国の姿勢に注目することになる。調査対象となった4都市はHIV感染が米国内でも最も深刻で、20万人以上の感染者を抱えている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの保健と人権局上級調査員ミーガン・マクレモアは、「各都市のセックス・ワーカーたちが、合法に持ち歩けるコンドームの数を私たちに尋ねた」と述べる。「ロサンゼルスのある女性は、怖くてコンドームを持ち歩けないから、HIVから身をまもるのに、時としてビニール袋を代わりに使わなければならなかった、と話した。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは本報告書作成にあたり、セックス・ワーカーや元セックス・ワーカーなど200人のほか、アウトリーチワーカー、活動家、検察官、国選弁護人、警察官、保健所職員など、300人以上の人びとから聞き取り調査を行った。

本報告書には、コンドームを携帯したことを理由に、警察官から嫌がらせや脅しを受けたり、逮捕されたと話すセックス・ワーカーやトランスジェンダー女性たちの証言が盛り込まれている。ニューヨーク、ロサンゼルス、サンフランシスコでは、検察官が押収したコンドームを証拠として提出、犯罪を立証する証拠として公判で考慮するよう求めている。移民たちにとって、売春容疑での逮捕は収容施設送りか国外退去を意味し得る。こうした厳しい顛末を迎える可能性を考慮しても、それでもコンドームを携帯していると話す女性も一部にはいたが、大半はその携帯を避けていた。

ワシントンDCのあるセックス・ワーカーは、「警察官はいつも、『なぜそんなにコンドームを持っているんだ』って聞くのよ。だから、誰もコンドームをたくさん持って歩き回らないようにしているの」と話す。

ニューヨーク、ロサンゼルス、ワシントンDC、サンフランシスコでは、セックス・ワーカーやトランスジェンダー女性間の高いHIV感染率が報告されており、こうした高リスク層の感染予防が緊急優先課題とされてきた。米国政府は、セックス・ワーカーやトランスジェンダー女性などの高リスク層のHIV感染予防に向け、各都市に数百万ドルを拠出している。にもかかわらずセックス・ワーカーたちは、アウトリーチワーカーからのコンドーム提供を断っていると話す。

前出のマクレモア上級調査員は、「昨年、これらの都市で5,000万個のコンドームが配布された。しかし警察は、それを一番必要としている人たちの手からコンドームを奪い取っている」と指摘する。

警察と検察は、押収したコンドームを証拠としていることについて、売春禁止法の執行に必要であると主張。コンドームを証拠とすることで、売春婦やその客に対する有罪を獲得するとともに、売春目的の人身売買に関与した個人の有罪にも一役買っているとしている。

しかし警察など法執行官の活動も、セックス・ワーカーを含むすべての人の健康をまもる権利を侵害すべきではない。州や市の自治体は、押収したコンドームを売春の証拠とするのを禁ずるべきだ。近時、そうした内容の法案が、ニューヨーク州議会で不成立となっている。

刑事訴訟手続きにおいて一定の証拠の提出を禁ずるのは、公益に相反する場合、珍しいことではない。たとえば本報告書で言及した各都市では、HIVとC型肝炎の感染防止目的で、麻薬常用者が清潔な注射針を入手できる。自治体の法執行官と公衆衛生当局者が協力して、最も危険な立場に置かれている人びとにこのプログラムが確実に行きわたるように努めている。また、米国全50州で「レイプシールド(rape shield)法』が適用されており、被害者の性経歴を証拠として提出することを禁じている。たとえこうした情報が、犯罪の立証に有効であるとしても禁止されているのは、こうした証拠の採用が一般に及ぼす危害の方が、ひとえに甚大だからである。

前出のマクレモア上級調査員は、「いかなる司法制度においても、善をなすよりも害が大きいと判断された証拠は除外されるものだ」と述べる。「HIV感染の根絶は国家の優先課題であり、それには、感染危険の高い層が確実にコンドームを入手できる環境が肝要だ。」

警察官が職務質問の際にコンドーム探しの身体検査をするのは、多くの場合、プロファイリングの結果である。つまり、具体的な違法行為よりはむしろ、いでたちや衣服の種類、立っている場所で容疑者の狙いを定めているのだ。

ニューヨーク、ワシントンDC、ロサンゼルスでは多くの、とりわけトランスジェンダーの人びとが、学校帰りや買い物途中、あるいはバスを待っている際に職務質問され、コンドーム探しの身体検査を受けたと証言している。これらの都市における広範に解釈が可能な「徘徊禁止法」が、この手のプロファイリングと差別を招いているのであり、法改正か撤廃が求められる。

ニューヨーク、ワシントンDC、ロサンゼルスのセックス・ワーカーらは、警察官による虐待や不法行為の実態について詳述。警察官は時折、トランスジェンダー女性に野卑な侮辱、嘲り、非礼を働いているという。複数のトランスジェンダー女性が、警察官にカツラや衣服を取られるなど、「外見をはぎとられた」時の様子を詳しく証言した。はぎ取ったものを地面に投げ捨てて、踏みつけたケースもあった。ニューヨークとロサンゼルスでは、一部の警察官に容疑を取り消す代わりに性行為を要求された、と訴える女性たちもいる。

被害者女性のほとんどは事件を告訴していない。更なる警察からの虐待を恐れているのと同時に、警察が公正と誠実さをもって対応すると信じられないからだ。米司法省は、在ニューヨーク、ワシントンDC、ロサンゼルスのセックス・ワーカーとトランスジェンダーの人びとに対する、警察の対応を調査すべきだ。

本報告書はまた、地方や州自治体、連邦政府に対し、コンドームを売春の証拠とするのを止めるよう求めている。オバマ政権は、女性と少女のHIV感染を減らす必要性を強調してきた。が、その目標は、多くのセックス・ワーカーとトランスジェンダー女性にとっていまだ手の届かない所にある。

マクレモア上級調査員は、「エイズ会議は、ワシントンDCを含む米国の諸都市が売春関連犯罪の証拠としてコンドームを利用するのをやめるという意向を表明する、絶好の機会だ」と述べる。「HIVの感染予防を犯罪化することは人権侵害であり、同時に公衆衛生への危険をもたらすことにもなる。」