(ワシントンDC)-世界銀行が2012年7月12日に承認した6億8,400万ドルの貸付は、先住民族の権利と環境を損なうものだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチ、トゥルカナ湖の友(Friends of Lake Turkana)、インターナショナル・リバーズ、サバイバル・インターナショナル、バンク・インフォメーションセンターの5団体は述べた。本決定は、エチオピアのギベ第3ダムからケニアに電力を送る1,000kmに及ぶ送電線を敷設するための貸付となっている。
世界銀行の理事会は、送電線に電力を供給するギベ第3ダムに、同銀行の社会的・環境的基準を適用することなく貸付を認めた。エチオピア南部で建設中のギベ第3ダムは、重大な人権侵害と環境不安をもたらしている、と5団体は述べた。
トゥルカナ湖の友のイカル・アンゲレイは「世界銀行は2010年、先住民の権利を守るとともに重大な環境不安に対処する具体的な手段が存在しないことを理由に、ギベ第3ダムへの貸付を拒否。その際には自らの理念を守った。しかし今回、ギベ第3ダムに別ルートから貸付をすることで、全く同じ自らの理念を踏みにじったといえる」と語る。
エチオピアのオモ川下流域とケニアのトゥルカナ湖周辺で生活する50万人の先住民族を支える生態系を、ギベ第3ダムは破壊する危険がある。2011年に国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会は、エチオピア政府に対し、世界中の人びとにとって文化的・環境的な価値を有する複数の遺跡に影響を与える、同ダムに関する全ての建設工事を直ちに停止するよう求めた。2011年8月にはケニア国会が、更なる調査が必要という理由で、ダム建設の停止を求める決議を採択している。
インターナショナル・リバースのアフリカキャンペーナー、ローリ・ポティンガーは「世界銀行の行いは、この破壊的なダムの巨大な影響を無視しているのがエチオピア政府だけでないことを示している。オモ川流域及びトゥルカナ湖周辺の住民はこの計画によって見捨てられることになる。それは貧困を緩和する上でも全く間違った手法であろう」と語る。
ギベ第3ダムの下流では、エチオピア政府が245,000ヘクタールの国営灌漑サトウキビ農場の建設を計画しており、その計画もオモ川下流域に住む20万人の先住民に重大な影響をもたらしている。先住民たちは、放牧地や耕地を失い、基本的な生活サービスもない村に移住を強制されるのだ。8つのグループから成る住民は、年に一度の洪水期の作物栽培と放牧地の補強を、760kmに及ぶオモ川に依拠して行っている。エチオピアの州治安部隊は、住民が移住に疑問を呈し或いは移住を拒否した場合、住民に対して脅迫、襲撃、恣意的逮捕などを行っている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ対国際金融機関シニアアドボケートのジェシカ・エヴァンズは「オモ川流域の先住民コミュニティは、先住民の権利を踏み台にしたギベ第3ダムと農業開発のため、多大の犠牲を払っている。世界銀行は、ダムは送電線敷設計画と関係していない、などと装うのではなく、自らの社会的・環境的な指針を断固として守るべきだ。」と語っている。
世界銀行は貸付対象事業に対し、自らのセーフガード指針に従い、環境的・社会的な悪影響を評価するとともにそうした影響を緩和することを義務付けている。ある事業が生計の糧の喪失をもたらすようであれば、世界銀行は、影響を被る住民とのしっかりした協議、住民の損失に対する適切な補償、そして住民が新しい環境で従前の生活水準を最低限維持できるようにするための十分な措置を取ることなどを義務付けている。先住民族が巻き込まれる場合、世界銀行の指針は、協議、補償、移住プロセスが、影響を受けるコミュニティーの文化的・物質的ニーズを尊重するよう、追加手続きに従うことを義務付けている。
世界銀行とエチオピア政府は、双方共にギベ第3ダムのもたらす悪影響を充分には分析していない、と前出の5団体は指摘している。灌漑農業を増大する計画と併せて、それらの事業は、オモ川に水量の90%を依拠しているトゥルカナ湖を含む下流地域への水の供給を劇的に減少させることが見込まれる。このことは、トゥルカナ湖周辺で生活する30万人の先住民族にとって、乏しい資源への競争が更に激化することを意味する。
バンク・インフォメーションセンターのアフリカ地域マネージャー、ジョシュア・クレムは「世界銀行は、この事業を採用することで自らの貸付基準を低下させ、激しく評判を落とす危険を冒している。送電線敷設事業への資金の貸付は、エチオピアに対し、自国の川をせき止めることで生じる巨大な影響を無視しても、ちゃんと見返りがもらえるという誤ったメッセージを送っているのだ」と語る。