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(バクー)-アゼルバイジャン政府は、首都バクーの都市開発計画実行のため、住民を強制退去させ家屋を取り壊している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。2012年ユーロビジョン・ソング・コンテストの会場を建設中の地区から、多数の家族が強制退去させられた。

報告書「『全て奪われた』:アゼルバイジャン首都での強制退去、違法収用、家屋取り壊しの実態」 は、バクー近隣の4地区で、事前の警告も無しに退去を強いられた事例や、真夜中に政府が行った違法な財産収用と家屋の強制撤去の実態などを調査報告している。家屋の中に財産がまだ残っているのにそのまま取り壊された事例もある。このような強制退去の執行について、収用・破壊された家屋が著しく価値の高い地域にあったにも拘らず、政府は家主の被った損害に対する公正な補償の支払いを拒否してきた。アゼルバイジャンの国内法は、政府が国民の家屋に対する強制収用を執行する場合、市場価格での補償金が支払われなければならないと規定している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの欧州中央アジア上級調査員兼本報告書の著者であるジェーン・ブキャナンは「アゼルバイジャン政府が取り壊しているのは単なる家屋ではない。そこに住まう人びとの生活も破壊しているのだ。違法な収用と強制退去、そして取り壊しを直ちに止めると共に、自宅を失い、精神的にも損害を受けた住民に対し、政府は補償金を支払うべきだ」と語る。

政府による強制退去は、公園・道路・高級住宅・駐車場・ショッピングセンター等の建設など、様々な計画のために実行された。

政府当局は、2011年10月29日のまだ日も昇らないうちに、数学教師で幼い2人の子どもと暮らすシングルマザー、アルズ・アディゲザロワ(41歳)を、国旗広場に隣接するアパートから警告も与えないまま強制退去させた。

「建物が揺れていて、何か雷が落ちたような音が聞こえたので目を覚ましたのよ。それで子どもを連れて外に飛び出したの。作業をしていた職員の人の所に行って、あたしたちの持ち物を外に運び出すまで待って下さいって頼んだわ。その人私を見て“OK”って言ったのに、すぐにブルドーザーの運転手に“ぶち壊せ!”って言ったのよ。」とアディゲザロワはヒューマン・ライツ・ウォッチに話った。

アディゲザロワは必死に持ち物を集めて、建物の外に運び出そうとしたが、家族の多くのかけがえのない財産を失うこととなった。

強制退去の数は、報告書が主に取り上げている4地区の1つである海沿いの「国旗広場」がある地区で、この数ヶ月の間に増大している。アゼルバイジャンでは2012年5月にユーロビジョン・ソング・コンテストの開催が予定されており、同地区は会場となるガラスで覆われた近代的な劇場「バクー・クリスタルホール」の建設地に隣接している。ユーロビジョン・ソング・コンテストは年に1度、欧州内外56ヶ国から集まった出場者による音楽コンテストで、テレビで盛大に放映される一大イベントである。

政府による国旗広場地区からの住民の強制退去は、アゼルバイジャンがコンテストに優勝し、2012年に当イベントを主催することになった2011年5月から頻繁に行われるようになった。

「ユーロビジョンは、政府にとって、数千人の観光客と数百万人のテレビ視聴者にバクーを紹介する絶好の機会だ。しかし、皮肉なことにアゼルバイジャン政府は、コンテスト開催地から数歩の場所にある家屋から住民を強制退去させる事で、人権を軽視する姿勢を紹介する結果となっている。国際的に注目されることでますます人権問題に対する政府の姿勢への注目も強まるだろう。政府は早急に現在の方針を転換した方が良い」と前出のブキャナンは語っている。

バクーで家屋の強制収用や強制撤去を行う場合、政府は通常住民に、金銭補償或いは再移住を申し入れることになっている。しかしヒューマン・ライツ・ウォッチの報告は、補償金の支払いや再移住について、政府から住民に対し提案されなかった場合があることを明らかにしている。また、政府からの強制収用や撤去についての提案は受け入れがたいとして、家屋に留まる人びともいた。

一部の事例では、政府当局が自宅に留まっていた住民に対し、ほとんど警告も無く、或いは全く警告することもなく強制退去させた後、その家屋を撤去している。多数の警察官や他の政府職員が建物を包囲し、階段の吹き抜けを塞いだ後、アパートに押し入って住民を強制退去させた事例もある。少なくとも3件の事例で、警察が住民を警察署に拘束している間に、作業員が建物を取り壊した。住民は後で瓦礫の山の中から、自分の持ち物を探すしかなかった。

ある事例では、政府職員が、真夜中やまだ日が昇らないような時間に、事前の警告も無しにブルドーザーや他の機材を持って家屋まで赴き、突然家主に家を空けるよう命令し、家屋を解体した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが報告した事例の中には、政府当局が、強制退去執行に対する裁判所の停止命令を無視して、或いは解体決定への異議申し立て訴訟が裁判所で審議されている最中に、家屋を取り壊したケースもあった。

国旗広場地区など多くの事例において、政府は、住民の一部がまだ留まっている家屋への公共サービスの提供の停止や、家屋の取り壊しに着手している。そうすることで家屋の機能を奪い、住民が退去せざるを得ない状況に追い込んでいるのだ。

複数の住民が、ヒューマン・ライツ・ウォッチに、作業員が屋根と窓を撤去してしまい、雨や雪、そして寒さに直に晒されたと話している。2012年1月に当局が、国旗広場地区にある家屋に対する電気と水道の供給を停止した際、住民は雪を溶かして水を入手するしかなかった。

「強制収用と強制退去の過程で、政府は、家主とその家族の品位・健康・安全を、驚くほど軽視している」と前出のブキャナンは語る。

十分な法的保護などを提供することなく、個人・家族或いはコミュニティーが住む家や土地から、居住する人びとを意に反して恒久的或いは一時的に排除する行為は、国際法上は強制退去と見なされる。強制退去は例外的な状況でのみ行われると共に、もっぱら公共の福祉を促進するため、国内法および国際法上の基準に沿って実行されなければならない。

「政府が財産収用権を行使できるのは、国家としての差し迫った必要性に基づき、非常に限られた場合に限られる。しかし、政府当局がバクーで住民を大規模に強制退去させ、しかも一部、全く必要性のない目的のために行っている現状は、国内法と国際法の両方に違反する」とブキャナンは指摘する。

ユーロビジョン・ソング・コンテストの観客が、会場であるバクー・クリスタルホールまで行くための経路に道路や公園を建設するため、国旗広場地区での収用・強制退去・取り壊しが行われている。ユーロビジョン・ソング・コンテストを監督する欧州放送連合(以下EBU)に、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、調査の過程で、アゼルバイジャン政府が行っている住宅の強制収用・強制退去・取り壊しに関して問い合わせた。それに対しEBUは、コンテストの“非政治”性と「建設はイベントと無関係である」という政府の主張に言及するだけで、自らの問題ではないという姿勢に終始した。

バクー・クリスタルホール付近で行われている、強制収用・強制退去・取り壊しに関係するあらゆる異議申立を、アゼルバイジャン政府が公正かつ透明性を保持して解決するよう努力する事を、EBUに所属している国々は、ユーロビジョン実行委員会を管轄するEBUに対し強く求めるべきだ。

主要国政府と国際開発金融機関を含むアゼルバイジャンの国際的なパートナーは、同国政府に強制収用・強制退去・取り壊しを取り止め、今後は国内外の法律を順守して行動するよう、強く求めなければならない。

アゼルバイジャンの国際的なパートナーは、政府に強制退去させられた住民の異議申立事件を解決するための、公正かつ透明性を保持した仕組みを早急に作り上げると共に、自宅や所有財産を失った人びとに対し、政府が提案した補償金を再検討するよう、アゼルバイジャン政府に対して求めるべきだ。

「ユーロビジョンとアゼルバイジャン政府は、住民に対する強制退去がソングコンテストの準備と関係ないと主張している。しかし、イベントを本当に成功させたいのであれば、政府がコンテスト会場建設に関連して行っている近隣住民に対する人権侵害を止める必要がある。政府が住民を自宅から追い出すという事実は、コンテストの開催に暗い影を投げかけている」と前出のブキャナンは語る。 

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