(ジュネーブ)-バーレーン政府は政治的動機に基づく不公正な裁判により、反体制活動家など多くの人びとに有罪判決を下しており、その数は今や数百人に上る、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書内で述べた。国際的な公正な裁判の基準に遠く及ばない、バーレーンの軍事裁判所や通常裁判所での裁判で下された有罪判決を、政府は取り消すべきである。
全94ページの報告書「『バーレーンに正義なし』:軍事裁判所及び通常裁判所での不公正な裁判」は、2011年にバーレーン特別軍事法廷で審理され注目を浴びた、著名な政治活動家21人及び医師及び医療従事者20人の事件などの裁判と、2010年以降通常の刑事裁判所で審理された政治的動機に基づいた裁判の過程に見られた、重大な適正手続きの違反を取りまとめている。被告とされた人びとに対する重大な権利侵害には、弁護士選任権や抗弁をする権利を認めなかった事、取り調べの際に拷問や虐待をされたという信憑性のある主張に対して捜査を行わなかった事、などが含まれる。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東局長代理ジョー・ストークは「軍事裁判所と通常裁判所は極めて不公正であり、バーレーンの民主化運動を行う人びとへの弾圧の最たるものだ。政府は、政治的動機に基づき容疑をかけられ、有罪判決を受けた全ての人びとへの訴訟を取り下げると共に、拘束中の拷問を防止するための効果的な措置を実施し、過去に不公正な有罪判決を下された人びとに対する救済を行うべきである」と語る。
政治事件における公正な裁判を受ける権利への甚だしい侵害は、検察官や裁判官個人の劣悪な仕事ぶりだけではなく、バーレーンの刑事裁判制度の抱える重大かつ組織的な問題を反映している。
デア・シュピーゲル誌から2012年2月13日に受けたインタビューで、ハマド・ビン・イーサ・ハリーファ国王は「バーレーンに政治犯は存在しない。国民が自身の意見を表明しただけで逮捕されることはない。我々が捕らえているのは犯罪者だけだ。」と述べた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書は、被告人、被告人の弁護士、裁判傍聴者、50人以上に対する聞き取り調査と、入手可能な判決文その他裁判記録の総合的な分析を基に作られている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、2010年11月にバーレーン検事総長あてに、2011年12月には司法大臣宛に、不公正な裁判への懸念を表明する書簡を送っているが、未だ返答はない。
ハマド国王が設立した、国際的な法律家と人権保護専門家5人で構成された「バーレーン独立調査委員会」が11月に公表した報告書によれば、2011年3月に始まった非暴力的な抗議運動に政府が弾圧を加え、拷問により拘束中に少なくとも5人が死亡している。過去数年にわたり、バーレーン治安当局者による国民に対する拷問と虐待が行われている実態を、ヒューマン・ライツ・ウォッチは調査により明らかにしてきた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イブラヒム・シャリフ、アブダル・ハディ・ハワジャ、ハッサン・ムシャイマ、アブダル・ワハブ・フセインなど政府に対する抗議運動の指導者に対する有罪判決を取り消し、刑務所から釈放するよう求めている。
ある裁判では、首相の写真の上に立ったという疑いをかけられた看護師が、「憎しみを煽り、政府を侮辱すると共に、テロ活動を推進する目的で器物を損壊した」という理由で有罪判決を受けている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは米国、英国、フランスなどの各国政府に、バーレーン政府が非暴力デモへの弾圧と不公正な裁判から生じた重大な人権侵害に対処するまで、バーレーン政府に対するあらゆる軍事及び治安関係物資の輸出や援助を停止するよう求めた。
ハマド国王は2011年3月15日、緊急事態宣言と同等の、3ヶ月間の「国家安全事態」を宣言する布告を出した。同布告はバーレーン防衛軍司令官ハリファ・ビン・アフマド・アル・ハリファに、公共の秩序を維持するための全面的な規制を発令する権限と、この全面的な規制と現行法の順守を国民に強制する広範な権限を与えた。また「国家安全事態をもたらし」、同布告の「手続きを無視した」犯罪を訴追するため、国家安全裁判所と呼ばれる特別軍事裁判所も設立した。
4月4日に設立して10月初旬に活動の全盛を迎えるまで、同特別裁判所は、「国家の安全」を目的に敷かれた捜査網にかかったバーレーン国民数百人を裁いた。アル・リファにある軍施設で開かれた同裁判所の審理には、常に武装軍司令官が指名した軍将校である裁判長と、通常裁判官2人があたった。
10月7日以後、それ以前に発生した政治混乱に関係した容疑をかけられた人びとに対する、あらゆる起訴や控訴は通常の刑事裁判所で行われるようになった。
2011年2月以前に通常の刑事裁判所が行った、幾つかの公安関係裁判での手続きにも、現実に行われた犯罪行為ではなく、人びとの言動に起因する、政治的動機に基づいた訴追であること、弁護を依頼する権利などの基本的な適正手続きの保障を否定していること、取り調べ中に拷問や虐待を受けたという主張があることなど、本質的には軍事裁判所における審理と同様の問題があったことを、ヒューマン・ライツ・ウォッチは明らかにしている。
「ハマド国王はバーレーンに政治犯は存在しないなどと言う前に、自身の布告で設立した特別軍事裁判所を調査するべきだ。皇太子がバーレーン憲法で保護されていると公式に表明していた、個人の政治信条、スローガンの唱和、そして大規模な非暴力的な集会への参加などを理由に、次から次へと裁判で人びとに有罪判決が下されているのだ」と前出のストークは語っている。