(ニューヨーク)エジプト内閣は2011年3月24日、公共機関の機能を妨害するストライキやデモを禁止した新たな法律を公布したが、この法律は、集会の自由を保障する国際法に違反している。エジプト内閣はこの法律をただちに撤回すべきである。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日こう述べた。

エジプト内閣は、この法律は現在も続く非常事態令の下の例外的な措置であることを強調しているが、だからこそ非常事態令を無効にする必要性が高い、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。非常事態令を終らせることはタハリール広場に集まったデモ隊が最も重要視していた要求の一つであった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東・北アフリカ局長のサラ・リー・ウィットソンは「ストライキとデモの事実上の全面禁止は、自由なエジプトを求めたタハリール広場のデモ隊の要求​を裏切り、自由のために命を落としたデモ参加者の家族や愛する者の顔に平手打ちを加えたのと同じだ」述べる。「集会の自由などの基本的人権の尊重が基底になければ、民主主義へ真に移行したとは言えない。」

政府の公式ウェブサイトで公開された3月24日の閣議3回目の議事録によれば、エジプト内閣は、ストライキ及びデモに対し犯罪として罰金を課す法律を発表した。この新法はすでに軍最高評議会で審議され、承認されようとしているという。新法は、国家機関や公的機関の機能を妨げるデモやストライキ、座り込み、集会等を呼び掛けること、あるいは参加することにさえ「拘禁あるいは50,000エジプトポンド(8,400米ドル)から100,000エジプトポンド(16,806米ドル)の罰金刑」を定めている。

同法はまたデモやストライキの扇動、呼びかけの電話、告知文、その他一切の広告に対して拘禁または罰金刑を科している。罰金の額は30,000エジプトポンド(5,040米ドル)~50,000エジプトポンド(8,400米ドル)にのぼる。デモやストライキで暴力を用いた者や、デモまたはストライキの結果、「国民の団結、社会の平和、公の秩序を害し」または「公的資金、建物、公有私有財産」などいかなる財産をも破壊した者は、少なくとも1年の拘禁が科される。

新法に規定されている国家機関の「妨害」、「社会の平穏の侵害」といった広汎で曖昧な規定は、国際法が定めた公の集会の自由の制限に関する厳密な条件を満たしていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。国際法の下では、「国の安全」、「公の安全」などの用語は、国民に対する切迫した暴力的な脅威を構成する状況でなくてはならない。市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)と経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)の締約国として、エジプトはこれらの規約を尊重し、ストライキ権と共に集会の自由の権利を確保することを義務づけられている。

この法はデモを呼び掛ける演説すら犯罪としうるのであり、国際法で認められた表現の自由を違法に制限している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

過去数週間にわたって、公の秩序又は公的資金を害した容疑でデモ隊が一斉に検挙された事実からも、公の秩序及び公の財産を害するデモを犯罪とする規定は特に懸念される、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。 2月25日、3月6日、9日に平和的なデモ参加者を軍及び軍警察が逮捕あるいは拘束し、中には拷問したケースもあった。最小限の法の適正手続の基準さえ満たさずに軍事法廷での審理を行っている。

軍は2月25日に起きたデモ隊に対する過度の武力使用について謝罪したが、他のデモ隊に対する人権侵害については謝罪していない。それどころか、これらの逮捕に関連する拷問の事件も捜査していない。少なくとも100人のデモ参加者が、新しく設立された暫定政府下の軍事法廷で実刑判決を受けたまま今も拘禁されている。軍は公共の秩序を破壊した「悪党」を取り締まるため必要である、という明文化された根拠に基づいて、これらの所業を正当化している。

3月24日の閣議の議事録が公開され、内閣は「適法なチャンネルを通じて」受け付けられた多くの要請に基づいて、閣議で法律を通過させたことを正当化した。

この議事録によれば、政府が過去数週間以上にわたり、経済の多方面で進行中のストライキに言及し、「賃金と労働条件に関する要求に応えるため」最善の方法を模索していたという。続けて「社会の様々な分野から出された要求のすべてを受け止めた」ことを述べ、「国家は、現在の危機を克服し社会の多方面からの正当な要求に対応するために、操作から経済と治安を守らなければならない重大な時代に直面している」と述べている。

「経済や治安への懸念では、抑圧的な法律を正当化することはできず、責任ある政治や健全な経済政策の代わりとならない」と前出のウィットソンは言った。 「経済上の問題があるからといって、人びとの権利を制限するための言い訳にもならない。」

1981年以来、エジプトは非常事態令下にあり、何千もの人びとが起訴や裁判もなされないまま無期限拘留されている。 2010年5月、当時のムバラク大統領は、2005年に非常事態を終結させると約束したにもかかわらず、さらに2年間更新した。

エジプトの人権団体も国際人権団体も、非常事態令を廃止するよう前政権に長年求めてきた。エジプトでは非常事態令の宣言された状態は、国際法が要求する極めて例外的な状況を満たしていない。それらは自由権規約第4条に定められた「国民の生存を脅かす公の緊急時」にのみ許可されるのである。

人権とテロ対策に関する国連特別報告者マーティン・シャイニンは、2009年エジプトを訪れた際の報告において、「50年以上施行され続けている非常事態令は例外的な状態とは言えず、緊急事態の目的とはなりえない規範となってしまっている」と指摘した。

エジプト内閣と軍最高評議会は、エジプト国民の人権を尊重する兆しを見せるのであれば、以下の行動を起こすべきである。ヒューマン・ライツ・ウォッチはエジプト内閣に以下のとおり提言する:

  • ストライキやデモの禁止を撤回すること
  • 平和的なストライキとデモの権利の尊重を再確認する声明を発表すること
  • ただちに、緊急事態を終了し、非常事態令を取り消し、同法に基づいて拘束されたすべての人を解放すること

「公共機関の機能や、社会の平穏を害するデモを犯罪とするこの法律は、ムバラク政権下で実施された、過度に広範で制限の濫用に寛容な規定を含んでいる」と前出のウィットソンは述べる。「現在の暫定政権は、言論と集会の自由を尊重せずにその座を追われた政府にとって代わろうとするにも拘わらず、今や自身が言論と集会の自由を制限していること、その衝撃は計り知れない。」