Protesters run for cover from riot police during an anti-government demonstration in Teheran on February 14, 2011.

© 2011 AFP/Getty Images

(ニューヨーク) - イラン治安部隊は、エジプトやチュニジアでの民衆運動を支持する人びとによる国内での非暴力デモを解散させる目的で、催涙ガスや棍棒を使用するのを停止すべきだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日こう述べるとともに、当局は恣意的に拘禁された反政府勢力指導者や活動家を釈放し、通信の自由への妨害を止めるべきだと述べた。

2011年2月14日にイラン全土で抗議行動が起きたが、当局は事前に反政府活動家を大量逮捕し、指導者のミール・ホセイン・ムーサヴィーとメフディー・キャッルービーを自宅軟禁とした。また電話回線と衛星通信、インターネットを遮断した。テヘランをはじめ各地の都市から最初に入ってきた情報によれば、警察と機動隊、私服部隊が抗議行動参加者を襲撃して暴行を加えたほか、催涙ガスや棍棒を用いてデモを解散させ、反体制スローガンを唱えるのを止めさせ、写真を撮るのを妨害しようとした。ヒューマン・ライツ・ウォッチへの目撃証言によれば参加者多数が負傷した。このほかにも大量逮捕の情報がある。

「ほんの数日前にイラン政府は、独裁政権の終結を要求するチュニジアやエジプトでの数百万人規模の大衆運動を支持すると主張していた」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東局長サラ・リー・ウィットソンは指摘する。「だが治安部隊は、棍棒や催涙ガスを使い、他のアラブ諸国の動きを支持する非暴力のデモ隊を解散させようとしている。」

2月14日には首都テヘランのほかエスファハーン、シラーズ、マシュハド、ケルマーンシャー、ラシュトなど複数の大都市で、ムーサヴィーとキャッルービー両氏の呼びかけに応じて数千人が集まり、エジプトとチュニジアでの大衆的な運動を支持して非暴力のデモを実施した。

2月14日朝、イラン国外のペルシャ語メディアは、テヘラン市内に厳重な警戒態勢が敷かれており、予定されていたデモコースと集合地点には自動車の進入がブロックされていると報じた。だがテヘランでは数千人がアサディー広場などの集合地点に歩道を使って向かった。治安部隊は大規模な隊列を分散させるために、脇道に押し込んでデモ行進のルートを歩かせないようにしたと複数のメディアが報じた。

テヘランのエンゲラーブ広場近くで行われたデモへの参加者はヒューマン・ライツ・ウォッチにこう述べた。「治安部隊は早朝からデモコースを封鎖していたが、午後3時を過ぎると部隊が大幅に増えた。(......)3時30分頃、私たちはエンゲラーブ広場近くに着いた。500人くらいが集まっていた。10分ほど穏健なスローガンを唱えていると、機動隊の襲撃が始まり、アヴェスター公園の方に押しやられた。公園に入ると機動隊は私たちめがけて催涙ガスを撃ってきた。」 この男性はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、多くの参加者が手足を負傷したのを目撃したとも話している。大半は、棍棒や棒を手にした機動隊や民兵組織バスィージによる襲撃によるもので、自身も少なくとも一回は棍棒で叩かれたという。また隊列から外れた10人ほどの参加者がどこかに連れて行かれるのも目撃したと述べた。

政府系の準公式メディア・ファールス通信社は少なくとも1人が死亡したと報じたが、ヒューマン・ライツ・ウォッチはこの情報を独自に確認できていない。全国での逮捕者数は不明だ。

エスファハーンで抗議行動に参加した女性はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、エンゲラーブ広場に行こうとすると治安部隊がいて、道路で立ち止まったり、集まったりすることを禁じられたという。日暮れの祈りが始まるちょうどその時間に広場に到着すると、治安部隊と私服の公安が祈っていた。祈りが終わるとすぐに、デモ参加者は「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」と繰り返し唱え始めた。すると治安部隊が襲いかかってきたという。

この女性によれば機動隊と私服公安が人びとを棍棒で叩き、催涙ガスを発射した。そしてある一団が駐車場に逃げようとすると、治安部隊が追いかけてきて棍棒で殴り始めたという。

治安部隊は、反体制運動である「グリーン・ムーブメント」(緑は改革派のシンボルカラー)を支持して、緑のリボンが掛けてある車を攻撃したともこの女性は話す。「エスファハーンには、広場内や周りに駐車してあるものも含めて、たくさんの自動車に緑のリボンが結んであったり、フロントガラスや車のボディが緑に塗ってあったりする。治安部隊はこうした車を壊し、ナンバープレートを外していた」。これは車の持ち主を特定するためだと思われる。

反政府指導者は抗議行動の許可を求めたが、申請は拒否された。2月5日付の公開書簡で、ムーサヴィーとキャッルービーは内務省に対し、イラン憲法27条に基づき許可を求めた。条文によれば集会や行進は「武器を携行しない」限り「自由に実施する」ことができる。

内務省は許可を出さないと発表したが、これは結果が争いを呼んでいる2009年6月の大統領選挙以来行われる反政府デモへのいつもの対応だ。許可を出す代わり、当局や政府派メディア、たとえばケイハーン紙はムーサヴィーとキャッルービーを「クーデターの首謀者」と呼び、外国政府と結んでイスラーム共和国の打倒を計画していると批難した。また治安部隊司令官筋は、集会はすべて力で解散させると述べた。

法執行職員による強制力及び武器の使用についての国連基本原則は、法執行職員はできるかぎり、実力行使に訴える前に非暴力的な手段を使用するべきとし、また実力行使は「他の手段が依然として有効でないか、意図された効果が達成できる見込みがない場合にのみ」実施することができると規定している。

嫌がらせを受け、拘束される反政府勢力指導者

ムーサヴィーとキャッルービーは、2月5日にエジプトとチュニジアでの大衆運動を支持するデモを呼びかけたが、政府の初動対応は迅速で厳しいものだった。治安部隊は2月8日夕方から反体制活動家とジャーナリスト30人以上の身柄を続々と拘束した。イラン国外のペルシャ語メディアによれば、モハンマド・ホセイン・シャリーフザーデガーン(モハンマド・ハータミー政権で官僚を務めたムーサヴィーの義理の兄弟)、タギー・ラフマーニー(改革派組織「国民=宗教派」メンバー)、ヤドッラー・エスラーミー(改革派の前議員)、クーロシュ・ザイーム(改革派組織「国民戦線」メンバー)らも逮捕された。BBCペルシャ語放送によれば、直近の著名人の逮捕は2月13日夕方のことで、ハータミーの側近で改革派組織「イスラーム革命聖戦士機構」の有名幹部アブドッラー・ナーセリーが拘束された。

マフムード・アフマディーネジャード政権下で、内務省第10条委員会(政党登録を担当)は改革派政党の解散を狙って一連の訴訟を提起した。例えば2010年9月27日に検事長と司法権報道官はイスラーム・イラン参加戦線とイスラーム革命聖戦士機構の解散を命じる裁判所の命令を発表した。この2党は活動を再開しているものの、活動が法的に非合法となるのかは不明だ。両党は2月14日のデモを支持する声明を発表しており、このほかにも多くの野党、学生団体、聖職者団体がウェブサイトを通じてデモへの参加を公式に表明していた。

Sahamnews.org(キャッルービーの改革派政党「エッテマーデ・メッリー」のウェブサイト)は2月11日に、治安部隊がキャッルービーを自宅軟禁に置いて妻以外との面会を禁じるとともに、息子に対してこの措置は2月14日まで続くと通知したと報じた。また、当局がキャッルービーと家族の電話回線を有線・携帯共に不通にしたことを明らかにした。

2月13日、ムーサヴィーの側近はBBCペルシャ語TV放送に対し、同氏は電話回線が切断されており、治安部隊によって自宅監禁に置かれたと思うと述べた。Kaleme.org(ムーサヴィー派のサイト)は、治安部隊が氏の自宅を包囲し、氏や妻が抗議行動に参加できないようにしたと述べた。

2009年大統領選挙以来、当局はキャッルービーとムーサヴィー両氏の運動を厳しく監視・制限しており、治安部隊の私服隊員がこれまで何度もキャッルービーの自宅や車列を襲撃し、息子を拘束したとキャッルービー派の複数のサイトは伝える。2010年8月にイスラーム文化・指導省は報道機関に対し、最も著名な3人の反政府勢力指導者ムーサヴィー、キャッルービーとハータミーに関する記事を発表しないよう命じた。

情報の自由な流通への妨害

2月14日の抗議行動に至る反政府勢力への弾圧の一方で、国内では情報の自由な流通が大きく妨害されていた。2月10日夕方、BBCは自社ペルシャ語TV放送がイラン国内から政府による通信妨害を受けていると報じた。2月11日に、BBCペルシャ語TVは声明を発表し、イラン国内の視聴者は番組を再び視聴できるようになっており、妨害は止んだと思われると述べた。

国連や欧州連合(EU)などの国際組織は、ペルシャ語放送が用いる衛星信号に対してイラン政府が行う度重なる通信妨害を非難してきた。たとえば2010年には、フランスの通信衛星運営企業ユーテルサット社は、イラン政府による度重なる妨害行為があったため、自社の有名な衛星ホットバード8でのペルシャ語放送を中断した。ヒューマン・ライツ・ウォッチによる接触を受け、ユ社は別の2つの衛星で電波送信を続行したが、うち一つは引き続き妨害を受けたため、国際電気通信連合に正式な抗議を提出した。

ここ数日で、反政府系ウェブサイトや多数のメディアは反政府系ウェブサイトへのフィルタリングや閉鎖措置のほか、ラジオ放送の中断、イラン全土でのインターネット回線速度の低下などを報告している。2月14日にsahamnews.orgとkaleme.netには技術上の問題が生じ、アクセス不能になった。

国外からペルシャ語ウェブサイトにアクセスした複数の証言によれば、政府は携帯電話のショートメッセージ機能をテヘランの一部地域で停止したと見られるが、それは事前に発表されたデモコースと一致する。

「当局は、抗議行動参加者が基本的な権利を行使し、テヘランや諸都市などイラン全土で非暴力的な集会を実施することを許可すべきだ」と前出のウィットソンは述べた。「当局はまた恣意的な身柄拘束を受けた反体制活動家を釈放するともに、携帯電話とインターネットによる自由な情報の流通を妨害するのを止めるべきだ。」