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ネパール:10年間の内戦中に起きた犯罪 裁きを拒否する司法

司法動かず、治安悪化

(カトマンズ)-ネパール政府は、2006年まで10年間続いた毛沢東主義派との内戦中におきた数千もの超法規的処刑、拷問、強制失踪に関して無為無策のままである、とヒューマン・ライツ・ウォッチとアドボカシー・フォーラム(Advocacy Forum)は本日発表した共同報告書で述べた。こうしたアカウンタビリティ(法の裁き)の欠如は、同国の多くの地方で、法と秩序が崩壊している一因となっている、と両団体は述べた。

報告書「ネパール:犯罪処罰への無関心の現状」(全41ページ)は、内戦時の犯罪責任者の捜査と訴追を改めて政府に求めるとともに、内戦終結以降に起きた3件の代表的事件を取り上げ、内戦後の犯罪についても同様に捜査・訴追が行なわれていない実態について明らかにしている。政治的意思とコンセンサスの欠如、広がる政治不安、遅々として進まない和平プロセス。これらが総じて、内戦時の犯罪を訴追するとした2006年の和平協定の公約の不履行に帰結している、とヒューマン・ライツ・ウォッチとアドボカシー・フォーラムは指摘。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理エレイン・ピアソンは「ネパール政府の怠慢は、殺人、拷問、失踪の犯人が法の裁きを逃れ、時に裁判所の命令を無視することを可能にしている」と指摘。「過去の人権侵害者が責任を問われないならば、これは、犯罪者に対し、『罪を犯しても処罰されない』というメッセージを出すことになってしまう。」

今回の報告書は、2008年の「正義を待ちわびて:放置されたままのネパール内戦中の残虐行為に関する報告」と 2009年の「法の正義は未だ訪れぬ:内戦後のネパールで続く不処罰」という2つの報告書の続編である。ヒューマン・ライツ・ウォッチとアドボカシー・フォーラムが調査して取りまとめた、2002年から2006年までの間の62件の殺人、失踪、拷問事件をアップデートしてまとめている。これらの報告書に取り上げられた人権侵害の殆どは、政府の治安部隊によって実行されたものだが、幾つかの事件は反政府勢力・毛沢東主義派が関与した事件である。殺害されたり失踪させられた被害者の家族は、刑事捜査を求めて警察に詳細な告訴状を提出している。しかし、現在まで、ネパールの司法は、その告訴に対して情けないほどに無為無策だ、と両団体は指摘している。

これらの事件について最後のアップデートを行なってから1年が経過しているものの、重大な人権侵害の犯人は1人も一般の文民法廷の裁判にかけられていないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチとアドボカシー・フォーラムは述べる。62の事件のうち13件については、警察はいまだにその刑事告訴状の受理さえ拒否。一部の事件については、裁判所の命令も無視して告訴状の受理を拒否している。告訴状が受理された事件でも、しっかりした捜査を行った兆候は殆どない。政党は警察に捜査をしないよう圧力をかけ、警察と検察は裁判を妨害し進行を遅らせ、アカウンタビリティを果たすことに長く反対してきた機関(特に顕著なのはネパール国軍)は、自分たちの主張に固執するとともに警察捜査への協力を断固として拒否している。

国内外の団体による持続的な圧力の結果、ほんのわずかとはいえ、進展も見られた。しかし、進展のあった事件は一部であり、殆どの事件で、警察はいまだに容疑者の尋問すらしておらず、かわりに、ネパール国軍や警察に情報を求める書簡を送付しただけで「捜査」を続行している、と主張している。最高裁判所が関係当局に事件を捜査するよう命令している事件もあるが、ほとんどが無視されている。

政治的圧力がかけられたり、世論の大きな怒りをかった事件もある。こうした事件については、政府当局は、怒りを鎮めるために調査委員会を設立した。しかし、調査の結果は相変わらず問題も多く、有意義な勧告・提言が出された場合でも、政府当局はその勧告・提言を無視している。

「被害者の家族は、法の裁きを求めて闘っている。しかし、あらゆる局面で妨害に遭っている」と、アドボカシー・フォーラムの代表であるマンディラ・シャルマ(Mandira Sharma)は語る。「ネパール政府の無為無策の結果、約束された平和による恩恵が、最も苦しんできた人びとの手には届いていない。」

ネパール内戦時の犯罪に法の裁きを求める国際的圧力もあったとはいえ、限られたものに過ぎなかった。オーストラリアと米国は、人権侵害に関与したと見なされている毛沢東主義派指導者に対するビザの発給をしなかった。国軍による拘束中に15歳の少女マイナ・スヌワル(Maina Sunuwar)が殺害された著名な事件で、彼女の殺害に関与したと見られているニランジャン・バスネット(Niranjan Basnet)少佐は、国連からの要請に基づき、チャドでのPKO任務を解かれて本国に送還された。警察はバスネット少佐を少女の殺害容疑で立件したものの、帰国時に逮捕することはしなかった。そればかりか、バスネット少佐の有罪を示す証拠は現在行なわれている文民法廷の裁判に多数提出されているにもかかわらず、軍事法廷におけるうわべだけの裁判が行なわれ、彼は無罪となってしまった。他にも、重大な犯罪に関与したことを示す強力な証拠がある人物が、軍に勤務し続けており、中には昇進している者もいる。

アドボカシー・フォーラムは、2008年10月に報告書「正義を待ちわびて:放置されたままのネパール内戦中の残虐行為に関する報告」を公表して以降、何十もの家族が新たに告訴を行なう支援をしてきた。新たに30件の刑事告訴(その大部分が内戦時のものだが、幾つかは最近起きたもの。被害者数は合計51名にのぼる)のうち、正式に受理されたのは10件だけ。2009年12月10日の世界人権デーに、被害者の家族と弁護士は、12の地方の警察当局に28件の告発を試みた。しかし、警察は、 「より高位の当局」とまず協議しなければならないと述べ、受理を全て拒否した。

「何カ国かが人権侵害を行った容疑者へのビザの発給を拒否し、国連は殺人事件に関与したと思われる少佐を本国に返した。 しかしなお、ネパール政府は容疑者に責任を問わないままだ」と前出のシャルマは語る。「警察は、容疑者を捜査しないどころか、刑事告発の受理をも拒否している。ネパール政府は、こうした捜査機関を改革し、国民からの信頼回復をはかる必要がある。」

ネパールが過去と現在の人権侵害に対処しないままでいることを考慮すると、政府は総合的な行動計画を立てるべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチとアドボカシー・フォーラムは述べた。その計画は、過去の犯罪を対処する効果的な暫定司法制度を直ちに設立するとともに、過去と将来の犯罪への政府の対応を改善する国の法律と制度への総合的改革を含んでいなければならない。

2011年1月、ネパール政府に対する初めての国連人権理事会(ジュネーブ)の普遍的定期的審査(UPR)が行なわれる予定である。このUPRにおける議論でも、1月中旬に予定されている国連安全保障理事会での国連ネパール政治支援団(UNMIN) の終結に関する議論でも、上記のようなネパールにおける不処罰問題にいかに対処すべきかが議論されるべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチとアドボカシー・フォーラムは述べた。

当面、ネパール政府に対する主要なODA提供国や周辺諸国は、重大な犯罪を行ったという信頼性の高い証拠がある人物に対するビザ発給を拒否するべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチとアドボカシー・フォーラムは指摘。国連平和維持活動局(DPKO)も、重大な人権侵害の容疑者が平和維持活動に参加することのないよう、より徹底した身元調査手続きを導入すべきである。

「ネパールは、国連のUPRを機会に行動計画を実行し、こうした不処罰問題を一掃するべきである」と、前出のピアソンは語る。「国連ネパール政治支援団が間もなく任務を終える以上、政府が人権侵害の被害者に対する法の裁きを拒絶し続ければ、治安がさらに悪化する危険がある。」

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