(ニューヨーク)国連が報告したコンゴ民主共和国での重大な人権侵害に対し、司法捜査開始と責任追及を行うよう、国連加盟国は国際的に協調して取り組むべきである、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
2010年10月1日、国連人権高等弁務官事務所はコンゴの人権侵害事件を調査した報告書を公表。同報告書は、1993年3月から2003年6月までにコンゴで発生した最も重大な人権法及び国際人道法違反を取りまとめている。
「この報告書はコンゴにおける犯罪と衝撃的な法の裁きの欠如を詳細かつ徹底的に記している。」とヒューマン・ライツ・ウォッチのエグゼクティブ・ディレクターであるケネス・ロスは語っている。「これらの事件は隠蔽し続けられるものではない。今後、周辺各国と国際社会がこの状況に対して積極的に対処していくことになれば、アフリカ大湖地域における残虐行為の連鎖の背景にある不処罰の終焉のために、この報告書が果たした役割は大きいと言えるだろう。」
報告書はコンゴ全国で起こった617件の暴力事件を記録し、事件の責任を負っているコンゴ、ルワンダ、ウガンダ、ブルンジ、アンゴラの政府軍や武装勢力が関与した犯罪について詳述している。
同報告書は発表前の8月、報道機関にリークされた。その中でルワンダ政府軍が最も重大な犯罪に関与していたと非難されていたために、ルワンダ政府は怒りをあらわにし、報告書を公表するならば国連平和維持活動軍(PKO)から自国の要員を撤退させると脅していた。
「国連がそのような脅迫に屈することなく報告書を公表したのは正しかった。」と前出のロスは述べる。「この情報は余りにも長く圧殺され続けて来た。世界は何が起きたのかを知る権利があり、犠牲者は法の正義が実現するのを目にする権利がある。」
国連は報告書で報じられている事件の一部に対する調査を、とりわけ1997年と1998年に試みている。ジョセフ・カビラ(Joseph Kabila)現大統領の父親であるローレンデジル・カビラ(Laurent-Desire Kabila)が当時率いていたコンゴ政府は、それを繰り返し妨害した。にもかかわらず国連や人権保護団体は、1990年後半におけるルワンダ難民とコンゴ民間人に対する大量殺害・レイプやその他の人権侵害を、その時明らかにした。しかし一方で、犯罪を行った者に責任を問う行動は取られなかった。
「指揮系統を登り詰め、このような残虐行為を実行・命令した者たちを特定し訴追する時が来たのである。」とロスは述べる。「世界各国政府はコンゴで民間人数十万人も殺害されている時に沈黙を守っていた。彼らには法の正義実現を確約する責任がある。」
報告書が最も論争を呼んだ記述の一つは、ルワンダ政府軍が行なった犯罪に関係している。国連報告書はその幾つかが「ジェノサイド罪」に分類される可能性についての問題を呈している。ルワンダ軍の行動を言い表すのに「ジェノサイド」という言葉を使用する可能性があるということが、リークされた報告書に関するメディア報道の大半を占めていた。
「用語の問題は重要であるが、犯罪がどのように表現されるのかに関わらず、報告書の内容に関して行動を起こす必要性が脇に追いやられるべきではない。」とロスは語る。「どう控え目に言っても、ルワンダ政府軍と、その同盟関係にあったコンゴ武装勢力が戦争犯罪と人道に反する罪を犯し、膨大な数の民間人が不処罰のまま殺害されている。その事実を私たちは忘れてはならない。 それに対して行動を起こすことを求めている。」
220ものコンゴの団体が報告書を歓迎し、法の裁きを行なうための様々な制度を求める声明に署名するなど、コンゴの市民運動から広い支持を集めている。
報告書は1993年から1997年にかけてコンゴで行なわれた犯罪に対して、国連が初期に行なった調査に由来している。コンゴでのPKOであるMONUCが、1996年と1997年に発生した犯罪に関係する大規模な集団埋葬地3か所を2005年9月に発見した。そのおぞましい発見が調査を再開するきっかけとなった。国連人権高等弁務官事務所は国連事務総長の支援を受け、調査を開始し、1998年から2003年までの第2次コンゴ戦争の際に行なわれた犯罪も含むよう、マンデイトを拡大した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチによると、報告書はコンゴ政府の協力を得て行なわれたものの、コンゴ司法制度は犯罪への法の裁きを適切に確約する能力も、十分な中立性の保証も持ち得ていない。報告書はそれ故に、コンゴ、外国そして国際的な司法権のコンビネーションを取込んだ、別の選択肢を示唆している。
それらは普遍的な司法権に基礎を置き、コンゴ国民と外国人両者の要員で構成される法廷に加え、他の国々による訴追を含むこともありうる。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、コンゴで過去と現在に発生した戦争犯罪及び人道に反する罪に司法権を持つ、混成司法機関の設立を支持している。
報告書で軍の関与が指摘された大湖地域の各国は、独自の調査を行い、犯罪者の個人的責任を問う措置を取るべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
過去において法の裁きが為されなかった事件に光を当てていること、そして現在のコンゴの状況に関連していることで、今回の報告書は重要である、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
「これは歴史的な報告書以上のものである。」とロスは語る。「国連チームが取りまとめた、不処罰文化に煽られた民間人への人権侵害のパターンの多くは、現在もコンゴで継続中である。過去と現在の犯罪に対処する司法制度を創設することは、不処罰と暴力の連鎖を終わらせるのに非常に重大となるだろう。」