筆舌に尽くしがたい残虐行為を繰り返してきたウガンダの反政府武装勢力「神の抵抗軍」(LRA)。これまでヒューマン・ライツ・ウォッチは、LRAによる残虐行為をやめさせるために様々な活動をしてきましたが、5月に大きな進展がありました。オバマ政権が積極的に行動をとると約束。「LRAの武装解除とウガンダ北部復興に関する法律」が新たに成立したのです。
今回の新法によって、オバマ政権はLRAの攻撃から一般市民を保護するための包括的戦略を作成することになります。残虐行為に歯止めをかけ、中央アフリカで「法の支配」を確保するために、オバマ政権は、中央アフリカの政府(ウガンダやコンゴ民主共和国、中央アフリカ共和国など)の政府と連携して対処していくことが不可欠です。
この新法により、米国政府は、LRAによる攻撃で被害を受けたすべての国々で、人道的支援を強化していくことになります。また、同法は、米国に対し、LRAの武力活動で荒廃したウガンダ北部での経済復興を支援することを義務付けるとともに、LRAメンバーをウガンダ政府が裁判にかける手助けを米国政府がしなければならないと定めています。
世界の中でも、最も残酷な反政府勢力のひとつ、ウガンダのLRA(神の抵抗軍)。子どもを拉致して強制的に兵士に仕立てあげることで、軍力を維持しています。女性や少女は同じく拉致された後、性奴隷とされています。成人男性の場合は物資移送などの強制労働の犠牲に。国際刑事裁判所(ICC)は、LRA指導部に対し、ウガンダ国内での重大犯罪の犯人であるとして逮捕状を出しています。
今年3月、私たちヒューマン・ライツ・ウォッチは報告書「死の裁判:コンゴ北部におけるLRAの残虐行為」を発表しました。2009年12月に起きた、4日間にわたる凶悪事件の詳細をまとめた報告書です。LRAは当時、一般市民を襲い、少なくとも321人をナタやオノ、またはこん棒で殺害しました。その上、250人を拉致。拉致の被害者には80人もの子どもも含まれていたのです。
すさまじい数の民間人が死亡したにもかかわらず、当初この事件は報道されませんでした。理由のひとつが、現場がかなりの僻地であり、電話や電気、道路さえもなかったこと。しかし理由はそれだけにとどまりません。コンゴ北部から逃れてきた人びとが事件について徐々に語り始めた時、世界中のほとんど誰も、コンゴ北部の人びとの苦しみに注目しなかったのです。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、証言者たちの勇気に応えなくてはと、大規模な調査を開始。虐殺の実態を広く伝えました。報告書は、少なくとも20カ国のメディアで取り上げられました。BBCサイトはもちろん、ニューヨーク・タイムズ紙では一面に掲載されました。
世界中の外交官や、国連高官、各国政府関係者にも調査結果を伝えたところ、米国政府や国連から反応がありました。国連のコンゴ平和維持活動(MONUC)は、この事件について調査し、更なる人権侵害を防ぐための解決案を練るため、独自に人権調査員を派遣。また、国連は、私たちヒューマン・ライツ・ウォッチの提案に従うかたちで、将来の暴力行為を未然に防ぐ対策を講じる新拠点を、タピリに設置しました。タピリは事件の現場となった町の一つです。
また、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、LRAに襲われたコンゴ北部の町ンイアンガラの人権活動家31名が作成したオバマ大統領への公式書簡を翻訳した上、オバマ大統領へ届けました。彼らは書簡のなかで、「私たちは日々、LRAの攻撃を恐れながら暮らしています」と述べています。「誰も私たちの叫びを聞かず、誰も私たちを救いに来ないとしたら、私たちには何が残されているのでしょう? どうか私たちを殺人者の手中に置いてきぼりにしないでください。」
加えて、彼らがオバマ大統領に訴えかけるビデオレターも作成。大統領が「LRAの武装解除とウガンダ北部復興に関する法案」を考慮するタイミングに合わせて、これを発表しました。オバマ政権の主要メンバーがビデオレターを検討した翌日、この法案は署名されました。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは今年8月、LRAが過去18カ月の間に、今度はコンゴに隣接する中央アフリカ共和国で、697人以上の成人と子どもを拉致していたことを公表しました。
拉致被害者のうち3分の1近くが子どもです。拉致された子どもたちは、兵士になるか、兵士たちの性奴隷になることを強制されています。加えて、LRAが子どもたちに他の子どもや大人を殺すよう命じたというケースが、何十件とあります。殺害は、こん棒で頭を殴り殺すという残酷な方法で行なわれることが多いのです。
LRAが現在本拠地とするコンゴ北部と中央アフリカ共和国における状況は、悲惨なものです。だからこそ、今回署名された法案(米議会における近年のアフリカ関連法案の中で、最も広く支持された法案です)は、LRAの虐殺行為から一般市民を保護し、問題を未然に防ぐ恒久的な対策案を練るための、大事な第一歩なのです。