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インド:人権問題でビルマ軍政トップに圧力を

タンシュエのインド公式訪問は、失敗した外交アプローチを見直す機会

(ニューヨーク) - 今回のビルマのタンシュエ上級将軍のインド公式訪問に際し、インド政府は人権尊重を強調すべきだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日こう述べた。経済・安全保障面での利害を、ビルマ国民の基本的自由への懸念に優先させるべきではない。

ビルマ軍事政権(国家平和発展評議会=SPDC)トップのタンシュエ上級将軍は、2010年7月25日~29日にインドを公式訪問し、同国のシン首相ら政府首脳と高級会合を行う。今回の訪問は、今年後半に控える総選挙準備期間中に行われる。選挙に関する動きでこれまでのところ特徴的なのは、反対勢力への継続的な弾圧だ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長代理エレーン・ピアソンは「インドにおける民主主義の長い伝統を踏まえれば、インド政府首脳は、ビルマでの自由で公正な選挙の実施を強く求める力をもっと強く発揮すべきだ」と述べる。「インド政府は、今回のタンシュエ上級将軍の訪問に際して、人権侵害を続けて真の民主主義の確立もしないことは、ビルマの発展を遅らせると共に、インドなど域内諸国にとって政治的に難しい状況を作り出すとのメッセージをはっきりと表明するべきだ。」

インド政府は、残念ながら、反対勢力指導者アウンサンスーチー氏らビルマ民主化勢力への支持を控えている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。スーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)は1990年総選挙に勝利したものの政権に就くことはなく、2010年3月にはきわめて過酷な選挙関連法に基づき政党登録を解除された。

ビルマの選挙プロセスについて、インド政府からの正式な形での批判はほぼ存在しない。現在ビルマには2,100人以上の政治囚がおり、この中には2007年の非暴力抗議行動後に逮捕された民主化活動家も多く含まれる。選挙日程はまだ公表されていない。ビルマ政府は集会、表現、移動に関する基本的な自由を制限し、選挙運動への深刻な障害を設けている。

数週間前、ビルマ国軍が主導して新党「連邦団結発展党(USDP。連邦連帯開発党とも)」が結成された。同党はテインセイン首相ら最近退役した軍政幹部の指揮下にある。さらに国軍は同党と、公称会員数2,500万人の政府系社会福祉団体・連邦団結発展協会(USDA。連邦連帯開発協会とも)との統合を暗に承認した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、予定されている選挙について、「現行の条件に基づく限り自由で公正なものにはなりえないし、新政権が現軍政からきっぱり決別することもない」と述べた。現行憲法には上下両院の一定議席と主要閣僚ポストに軍人を割り当てる規定があり、現役または退役軍人が新政権を確実に統制下に置くことを目的としている。

「政党を突然あつらえて、選挙で勝つように仕組む一方で、反体制派を投獄し、発言の機会を奪うことを民主主義とは言わない」と前出のピアソンは述べる。「インド政府は、自由で公平な選挙に関して自国で適用するのと同じ基準を、ビルマでも適用するように求めるべきだ。」

背景

インドは、ビルマの人権侵害に関して強い方針をとる他の民主主義国と、協調してはいない。米国は軍政に対して貿易と金融に関する一連の制裁措置を講じており、欧州連合(EU)は共通外交方針(コモン・ポジション)を継続し、軍政幹部と家族への制裁や旅券発給拒否のほか、軍事物資の輸出禁止措置を行っている。

インドは1990年代半ばから経済・軍事の両面でビルマに接近した。その理由の1つに中国のあからさまな影響力の増大がある。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは各国に対し、ビルマの石油・天然ガスセクターへの新規投資について対象限定型制裁を実施し、ビルマ軍政が所有するか、管理下に置いているか、またはその収入の大部分が軍事活動への資金に用いられている組織との金融取引を禁止することを求めている。こうした実体の1つに、ビルマ・エネルギー省管轄下の国営企業で、収益が国軍の資金源となっているミャンマー石油ガス公社(MOGE)がある。

インドは、ビルマの成長部門であるエネルギー・セクターへの主要な投資国だ。例えばインドの国有企業、石油天然ガス企業(ONGC。海外事業子会社ONGC Videshが参加)とインドガス公社(GAIL)の2社は、ビルマ西部アラカン(ヤカイン)州沖合のシュエ・ガス田の主要鉱区から現在天然ガスを生産しているコンソーシアム(韓国の大宇インターナショナルが主導)について、計25.5%の権益(各17%と8.5%)を有する。2007年以来、ヒューマン・ライツ・ウォッチはビルマのエネルギー・セクターへの対象限定型制裁を行うべきと主張している。同セクターは単一のセクターとしては軍政最大の外貨収入源であり、軍政の存続に貢献している。

インドは製造業やインフラ整備などの他のセクターにも関与している。例えば、ビルマとインドとの海上・河川交通量を劇的に拡大させるカラダン川整備計画や、ビルマ西部での水力開発や道路建設事業に巨額の投資を行っている。両国の貿易量も増加中だ。インドはビルマにとってタイ、中国、シンガポールに次ぐ4番目の貿易相手国だ。しかし中国と同等、またはそれ以上の影響力を行使しようとするインドの期待は誤ったものだ。このことはシュエ田からの天然ガスの輸出契約が、インドが巨額の応札をしたにもかかわらず、中国との間で結ばれたことにはっきりと現れていた。

「中国の浸透に対抗する努力が失敗に終わったのに、インドはビルマの政治や人権に関わる問題についての発言をいまだ犠牲にしている」とピアソンは述べた。「タンシュエは、今回のインドへの公式訪問がビジネスと軍事関係の話題に終始すると考えているかもしれない。だからこそインドのシン首相は、ビルマの不当な選挙関連法や基本的自由への継続的な制限に関し、プリンシプルにのっとった批判を公の場であえて行うべきだ。」

インドは、ビルマ国境地帯でのゲリラ活動に対する戦略上の懸念も表明した。インド国軍は、アッサム州マニプールなどインド北東部の一部地域で活動する、ビルマを拠点とする武装組織に対して、ビルマ国軍と協力としてゲリラ掃討作戦での攻勢を強めている。インドは長年にわたり大型の火器や洋上偵察機などの武器をビルマ国軍に提供してきた。しかし、2007年に仏教僧が主導するデモをビルマ軍政が暴力的に鎮圧して以来、非公式には武器の提供を見合わせていた。2010年3月に、インドはビルマに対して、インドと接するビルマ西部国境地帯の安全保障を担当するビルマ軍第1特別作戦局(BSO-1)局長ターエイ中将の訪問に先立ち、湾岸警備艇を売却する計画があるとの報道があった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、インド政府に対し、ビルマへの武器およびその他の軍事援助の提供を完全に停止し、国連安全保障理事会による同国への包括的な武器禁輸措置の発動を支持するよう求めた。

「インド政府首脳は、ビルマに武器を供与する北朝鮮や中国のような常習的な人権侵害国家と同列に並べられることに心から不快感を覚えるべきだ」と前出のピアソンは述べる。「ビルマ国内の真の民主主義の実現と人権尊重を支持することで、インド政府は、現に失敗した欠陥だらけのシニカルな関与政策を撤回すべきだ。」

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