(ニューヨーク)-2003年以降、違法な拘禁施設「裏監獄(black jails)」で、多くの中国人たちが秘密拘禁されている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表したレポートで明らかにした。「裏監獄(black jails)」での拘禁は、数日で終わる例もあれば数ヶ月も続いた例もあった。「裏監獄」は、被拘禁者の人権を侵害する違法施設であるが、こうした「裏監獄」を利用する政府関係者は、責任を問われることもない。

53ページの報告書「地獄の路地:中国の裏監獄の実態」は、政府当局や治安部隊要員やその関係者が、北京などの都市の街頭で、人々を日常的に拉致し、所持品を強奪し、投獄している実態を調査して取りまとめた報告書。これらの裏監獄は、国営ホテルや介護施設、精神病院などにおかれる場合が多い。

「北京の中心部に裏監獄がある。人権状況を改善して法の支配を尊重しているという中国政府の説明に、真っ向から反するものだ」とヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア アドボカシーディレクター、ソフィー・リチャードソンは語った。「中国政府は、こうした裏監獄を閉鎖し、施設の責任者たちに捜査のメスをいれ、裏監獄でひどい目にあった人々に支援の手を差し伸べるべきである。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、裏監獄に拘束されるのは、通常、陳情者たちであることを明らかにした。違法な土地の接収や政府の汚職から警察の拷問まで、さまざまな権利侵害の被害者たちが、法的な救済を得たいと、田舎から北京などの省都に陳情しにくるのだ。地方役人たちは、自分の担当地域から多くの陳情者が出た場合、官僚組織内での不利益を受けることになる。そこで、こうした不利益を避けるため、治安機関の暗黙の了解のもと、地方役人たちが裏監獄を作り、陳情のために上京してきた市民たちを裏監獄に投獄して懲らしめ、故郷に送り返している。

中国政府は、裏監獄の存在を断固否定してきている。2009年4月、中国の外交部(外務省、MOFA)の記者会見で、裏監獄についてアルジャジーラが質問。これに対し、外交部は、「そのようなことは中国に存在しない」と断言した。2009年6月、国連人権理事会での中国の人権状況に関する普遍的定期的審査の結果報告書でも、中国政府は「中国に裏監獄はない」と断言している。

裏監獄の看守たちは、獄中の人びとを日常的に虐待。暴力、盗み、恐喝、脅迫、食事を与えない、眠らせない、医療を受けさせないなど、様々な虐待を加えている。

江蘇省(Jiangsu province)出身の46歳のある女性は、1ヶ月以上裏監獄に拘束された。彼女は、拉致された時のことを思い出すと、怒りと恐怖から嗚咽した。「[私を拉致した者たちは] 非人間的で、2人で私の髪を持って引き摺り、車に放り込んだの。両手は縛り上げられ動くことも出来なかった。[江蘇省に戻された後]ある部屋に連れて行かれ、そこで2人の女が私の着ている物を脱がした・・・それから、頭を殴り、[そして]足で私の体を踏みつけたの。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査に応じた裏監獄経験者の多くは、拘束を法的に正当化する書類を示されることもなく、どこに連れていかれるのか、どのくらい拘束されるのかも知らされることなく拉致された、と語った。遼寧(Liaoning)省出身の52歳のある陳情者は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに、「[私の故郷の]遼寧省の回収人に捕まった。彼らは私服で、何の身分証明書も見せなかった。[正式な]身分証明書を所持していたのかも疑わしいね。なぜ私を拘束するのかの理由も全く何も言わなかったし、だいたい何もしゃべらなかった。いつまで拘束するのかも、何も話さなかったんだ。」

裏監獄に拘束された人の中には、性的な暴行を加えると精神的に虐待された例もあった。四川(sichuan)省出身で42歳の女性は、裏監獄で、看守に、もし逃げようとしたら「男の刑務所に連れて行き、[囚人に]輪姦させる」と言われた。ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、裏監獄の看守たちが、食事や睡眠を取らせず、必要な医療を拒絶した事例も明らかにした。懲罰や囚人のコントロール、あるいは、情報を引き出す目的である。湖北省(Hubei province)出身で70歳の女性は、医者の治療を受けさせてもらえるまで、3日間のハンストを決行しなければならなかった。

18歳未満の未成年者も、例外ではない。未成年の子どもの裏監獄への投獄は、子どもの権利を尊重するという中国政府の誓約に真っ向から反する行為である。ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じたある15歳の少女は、北京の街頭で拉致され、裏監獄に投獄された。彼女の手足の不自由な父親が、甘粛省(Gansu province)の介護施設に2ヶ月以上も拘禁されて激しい暴行にさらされていたので、その救済を求める陳情のために北京に上京した際のできごとである。

「法制度から繰り返し見捨てられて救済を求める中国の国民に、さらなる虐待を加える裏監獄は、偽善の極みだ」とリチャードソンは述べた。

中国には、以前、都市の居住者でない者や路上生活者を恣意的に拘束できると定める法律があった。この法律が廃止されて以降、この裏監獄は出現した模様である。恣意的拘束を行う警察の権限を制限する中国政府の決定は歓迎すべき進展だった。しかし、今度は、裏監獄が、都市に「好ましくない者」を超法規的に拘束する施設として機能している。裏監獄は、郷・県・省レベルの政府役人たちの出世のために陳情者を拘束する違法システムを存続させている。北京などの大都市にやってくる地方からの陳情者の数を減らさないと、地方の役人たちは、給料や昇進上の不利益をこうむることとなるからだ。地方政府の複数の非公開文書には、担当者の管轄地域からの陳情者が省都や北京に上京して法的救済を求めた場合、断固とした措置をとらなければ課される不利益が明らかにされている。しかも、裏監獄の管理者たちは、こうした地方政府から、1日あたり1人150元(22米ドル)から200元(29米ドル)の現金支給を受けている。この現金支給も、違法拘束を助長する理由のひとつとなっている。

陳情をしようとする者を拘束することは、表現の自由を保障する国際法に違反する。また、陳情行動について定める中国政府自身の「書簡と訪問に関する規則」(Regulations on Letters and Visits)にも違反する。司法審査も経ないまま、司法機関に異議申立の道も閉ざしたまま人を拘束することは(仮に犯罪容疑者の拘束であった場合でさえ)、多くの国際法はもちろん、中国憲法などの多くの中国の国内法にも大きく違反する。政府の関係者が人を拘束しているにも拘わらず、拘束の事実を否定したり拘束場所を明らかにしない場合を、国際法上、国家による「強制失踪」とよぶ。

「中国には、逮捕・拘束の方法を定める法律がある。しかし、中国政府は、裏監獄については、これを完全に無視している。」とリチャードソンは語った。「国際的な基準はもちろんのこと、自国の法律も無視する行為は、到底、世界の尊敬を集めようとする政府の行動とはいえない。」

中国の裏監獄に拘束されていた人の証言の抜粋

「[看守は] 何も言わないで入ってきて、私を捕まえると・・・胸にヒザでのしかかり、私が気を失うまで下腹部をコブシで殴った。それが終わった後も痛かったけれど、奴らは体にアザは残さないようにしていた」

-裏監獄の経験者。ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に答えて。

「 [看守の] 集団が入ってきて、殴られたり蹴られたりしていた時、なんで私を拘束しているのか聞いて、あんたたち私を殺そうとしてるのかって言ったんだ。助けを求めて大声で叫んだらやつら止めたよ。でもそれから後は[また暴行を受けるような危険な行動は]やめたね」

-裏監獄の経験者。ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に答えて。

「[裏監獄には]医療ってものはなかった。もともと健康とはいえなかったし、[施設の]中のひどい環境もあいまって、毎日具合が悪かった。でも治療は受けさせてもらえなかったし、医者の所にも行かせてもらえなかった。 ‘ここで死にたくないだろ、なにせ、お前さんの命なんて[俺たちにとっては]一文の価値もないんだからな。[もし]オレがお前さんを殺したいと思ったら、お前さんは[ここで]アリみたいに簡単に死ぬんだ'って[ある看守は]言ったんだ。」

-裏監獄の経験者。ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に答えて。

「毎日3時間しか眠れなかった。逃げられないように、いつも寝かさないでおくんだ。毎日空腹だったけど、十分な食事はもらえなかった。2回目の投獄のときは37日間拘束されて・・・20kg体重が減ったよ。」

-裏監獄の経験者。ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に答えて。