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麻生太郎総理大臣あてのヒューマン・ライツ・ウォッチの書簡:人権保護を日本外交の柱に

内閣総理大臣 麻生太郎 殿

人権保護を日本外交の柱に

                                                                                                                           

内閣総理大臣 麻生太郎殿

ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日4月9日、東京事務所を開設いたします。そのご案内をさせていただくと共に、貴国政府に対し、人権保護を日本外交の主要な柱に据えるよう要請すべく、この書簡を差し上げております。

貴殿は外務大臣在任中の2006年、今後の日本外交については、人権を、民主主義や法の支配とともに、日本外交の四本柱のひとつとすると発表されました。この発表は、重要かつ歓迎すべきものでした。しかしそれから現在に至るまで、歴代三政権は、この重要なビジョンを、意味のある形で実行に移すための施策をとっておりません。

日本政府は、人権侵害の犠牲者を代弁して、人権実現のために、時には力強く発言し、国際的なリーダーシップを発揮する、ということをほとんど行わず、静かな外交を好んでいます。例外は北朝鮮で、日本は同国の劣悪な人権状況を批判するにあたって、国際社会の取り組みをリードしてきました。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、北朝鮮の劣悪な人権状況を批判し、その改善を求める上で貴国が果たしている役割を歓迎します。しかし残念なのは、帰国のイニシアチブは、日本人拉致被害者の権利問題におおむね焦点が絞られており、北朝鮮に住むあらゆる人々のために広範な人権状況改善の取り組みについては後手に回っていることです。

北朝鮮以外の国については、日本政府は人権問題に対して主として静かな外交で対処しており、抑圧政権への表立った批判を避ける傾向があります。こうしたアプローチは、有効ではないと私どもは思料いたします。日本政府が、静かな外交だけでなく声をあげる外交も行うこと、そして、必要に応じて公式の場で率直に発言する外交を展開することは極めて重要であると存じます。

アジアの大国であり、また多くのアジア諸国などに対する最大の援助提供国である日本は、援助供与の相手国に対して、国際人権基準と国際人道法を順守するよう、影響力を行使できる格好の立場にあります。しかし、例えばスリランカで起きている紛争での日本の対応に見られるように、この重要な潜在的な力が、人権侵害の被害者に意味のある形で用いられることは、あまりありませんでした。

今こそ新しいアプローチが必要ではないでしょうか。人権状況の改善することは日本外交の主要な目的である--日本政府はこう明言すべきです。貴政府は、人権の国際的な尊重と擁護に向けた、より強固で実効性を備えた政策と実務に向けた改革を行うため、議論を始めるべきではないでしょうか。たとえば、援助を人権状況の改善の度合いと結びつけることや、人権状況の実際の状況に応じて制裁を科すといった手法などが、考えられるでしょう。公けに声をあげる外交と非公開の場での静かな外交を戦略的に組み合わせることで、日本政府は、国際社会での地位をより高めることができると共に、人権や良い統治、法の支配の改善を約束しながらこれを無視し、日本政府の寛大な巨額の開発援助を受け取り続けている抑圧政権のふるまいをただすことができるのです。

この新しい方針をとるべき国として、例えば、対ビルマ政策があげられます。1962年以来軍事政権が続く同国は、日本からの対外援助に強く依存してきました。日本からの援助は、1990年代半ばの段階で、OECD開発援助委員会(OECD-DAC)メンバー国による対ビルマ援助のうち9割以上を構成しており、二国間貿易も拡大していました。経済状況とビルマ軍事政権への厳しい評価により、日本からの対外援助と投資は確かに減少しましたが、日本は今もなおビルマにとって主要な援助供与国です。

2008年には形ばかりの制憲国民投票が行われたことで、軍政のいう「民主化への7段階行程表」の第4段階が完了したことになっています。また軍政は2010年に複数政党制に基づく総選挙を行うと発表しています。こうした状況下、ビルマ国内の声なき声を支援する上では、日本政府が強いリーダーシップを発揮する必要性がかつてないほど高まっています。わたしたちは貴国政府に対し、他国と協調し、以下の事項の実現をビルマ政府に求めるよう要請します。

  • ノーベル平和賞受賞者アウンサンスーチー氏など、推計約2,100人の政治囚を即時無条件で解放し、政治活動への自由で無制限な参加を許可すること
  • 表現・集会・結社の自由に関する権利についての制限を解くこと
  • ビルマ反政府勢力および民族集団の代表と、政治改革に関する真の包括的で参加型の対話を開始すること
  • 民族的少数者に対する軍事的な攻撃を停止すること、また戦争犯罪、ならびに人道に対する罪を侵した治安部隊の全員の責任を追及すること

私たちは貴国政府に対し、他国と共に、これらの条件(またその他の条件も)が満たされるまで、ビルマ政府に対する制裁措置を行うことを求めます。こうした制裁措置の例は具体的には以下の通りです。

  • 武器・弾薬に関する義務的な禁輸措置の完全な履行
  • 特定のビルマ国民と企業に対する対象限定型の制裁措置。一例として、人権侵害の責任者である国軍または民間の有力者や、軍政支配に荷担または共謀しているか継続的な軍政支配から直接利益を得ている可能性のある人々への金融制裁がある。
  • 軍政を財政的に潤し、かつ/または深刻な人権侵害行為と関わっているセクターについての輸出入と新規投資に関する対象限定型制裁。例えば、石油業(石油と天然ガス)、鉱業(宝石、金属、鉱物)と林業(丸太、材木)のほか、水力やその他の大規模インフラ整備事業など。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、貴国政府がアジア地域の主要な民主主義国家として、ビルマ政府への圧力をより協調的で様々な国が加わるものとするために、中国、インド、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国など近隣諸国にはたらきかけることも求めます。

以上のことにつきまして、ご検討くださいますよう要請いたします。私どもは、現在進行中の人権侵害、そして将来おきる人権問題を解決するために、貴国政府との間に、息の長い建設的な関係を築いていきたいと考えております。

敬具

ヒューマン・ライツ・ウォッチ

エグゼクティブ・ディレクター

ケネス・ロス

皆様のあたたかなご支援で、世界各地の人権を守る活動を続けることができます。

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