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ロシア/グルジア:南オセチア紛争の全当事者による戦争法規違反

両国政府は、事実調査及び責任追及、そして、避難民たちの自発的帰還の確保を

(ニューヨーク)-グルジア軍、ロシア軍、そして南オセチア兵は、2008年8月の南オセチアを巡る紛争の最中そして停戦後も、多数の戦争法規違反を犯し、民間人の死傷者を多数出したほか、民間財産を広く破壊した、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した南オセチア紛争に関する包括的調査報告書の中で述べた。

200ページの調査報告書「焼け落ちた村落:南オセチア紛争における国際人道法違反」は、グルジア軍とロシア軍双方が、無差別かつ均衡を欠く過度な攻撃を行った実態や、南オセチア兵が南オセチア内のグルジア系村落に対し意図的かつ組織的な破壊行為を行なった実態を詳述。また、本報告書は、ロシア軍が、グルジア領の一部をその実効支配下におきながら、公共の秩序と安全を確保しなかった実態についても取り上げている。本報告書は、数ヶ月に及ぶ現地調査及びその間実施した460件を超える聞き取り調査に基づいて作成された。

「確かに、南オセチア戦争は、僅か1週間で終わった。しかし、住民には、今後何世代にもわたって、極めて深刻な影響を残すだろう」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチの欧州・中央アジア局長レイチェル・デンバーは述べた。「一部の評者たちが、『どちらが戦争を始めたか』、とか、『どちらのほうがもっと悪質な残虐行為を働いたか』などを議論しているが、これは、緊急に取り組まねばならない問題の核心から外れている。事実を調査し、残虐行為を行なったすべての責任者の責任を追及すること、そして、故郷を捨てて逃げざるをえなかった住民たちが安全に帰還できるようにすることこそが、緊急の課題である。」

グルジアの自治州南オセチアは、国境を接するロシアと極めて親密な関係にある。武力紛争は2008年8月7日に始まり、8月15日の停戦まで続いた。停戦の結果、グルジア軍が南オセチアから撤退し、ロシア軍の南オセチア及びグルジアに領有権があることについて争いのないグルジア領の一部の一時的占領という事態に帰結した。1週間にわたる激しい戦闘と、ロシア政府の実効支配下におかれた地域におけるその後何週間にもわたる激しい暴力と不安定な状況の中で、数百人もの民間人が殺害されたほか、数万人が、故郷から避難せざるを得なくなった。避難民の多くは、今も帰郷できないままである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、グルジア軍が、南オセチアで無差別かつ均衡性を欠く過度な砲撃を行なった事例を数多く明らかにしたほか、地上戦闘で予期された軍事的利益と比べて民間人に過度の危害を与える攻撃を実行した事例なども明らかにしている。特に、グルジア軍は、多連装ロケットシステムを民間人地域で広範に使用して、無差別攻撃を実行。多連装ロケットは、そもそも、民間施設と軍事目標を区別できない兵器である。このロケット砲はグラッド・ロケットと呼ばれ、ロシア軍も使用したと考えられている。

「本質的に無差別兵器であるグラッド・ロケットをグルジア軍が戦闘に使用した事実は、南オセチア攻撃の際、民間人の安全などグルジア軍の念頭に全くなかったことを示す」とデンバーは述べた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査の結果、南オセチア内及び領有権に争いのないグルジア領の一部で、ロシア軍が、空襲・地上砲撃・戦車砲撃などの形で、多数の無差別攻撃を行い、民間人が多数死傷したことも明らかになった。また、グルジアのゴリ地域を占領していたロシア軍が民間人の自動車に向かって発砲し、民間人を多数死傷させる事件が数多く起きたことも明らかになった。

グルジア軍が8月10日に南オセチアから撤退すると、南オセチア兵は、それまでグルジア政府統治下にあった南オセチア内のグルジア系村落を、その後数週間にわたり意図的かつ組織的に破壊。オセット人らは、多くのグルジア系住民たちを、グルジア民族であることや自分たちに反対する政治的意見の持ち主と決めつけた上で、迫害。具体的には、略奪、暴行、脅迫、違法な拘禁などを行い、幾人ものグルジア系住民を殺害した。こうした残虐行為は明白な目的を持って行なわれた。まだ南オセチア内の村落に残っている住民たちを追い出し、そして、避難した住民たちが二度と戻って来ないようにするためである。

占領軍たるロシア軍は、実効支配する地域で、公共の秩序・安全を可能な限り確保するという国際人道法上の義務を負う。しかし、ロシア軍はこの義務を果たさなかった。

「ロシア軍は、民間人を保護するどころか、侵攻するロシア軍の後ろをついてきた南オセチアの兵士たちが、グルジア系住民に理不尽かつ大規模な略奪を行なった上で家を焼きはらい、民間人に殺害・暴行・レイプ・脅迫などの暴力の限りをつくすことを許した」とデンバーは述べた。「このような意図的な攻撃は、戦争犯罪である。また、こうした民間人への攻撃が、広範又は組織的なものの一部として行なわれたのであれば、責任者を、人道に対する罪で訴追することができる。」

南オセチア紛争を逃れた2万人を超えるグルジア系住民は、今も避難生活を余儀なくされている。現在、ロシア軍占領下の南オセチア東部奥地にあるアカールゴリ地域のグルジア系住民たちは、今も、オセット人民兵からの脅迫と嫌がらせにさらされている上に、グルジアの他の地域との境界が閉鎖されるのではないかとの不安に直面している。こうした暴力と不安のため、極めて多数の住民が、故郷を捨て、領有権争いのないグルジア領側に避難している。

「何千もの人びとが、追放されたまま永続的に避難民生活を強いられる事態が固定化することは、許されない」とデンバーは述べた。「紛争の結果故郷を離れて避難民となった全ての人びとには、故郷に帰還して、安全に尊厳をもって生活する権利がある。ロシア政府は、避難民のこうした権利を公けに宣言し、その実現に向けて努力し、権利がしっかり確保されているか監視しなくてはならない。そして、ロシア軍占領下の住民に対し、いかなる民族に属するかにかかわらず、安全を確保しなくてはならない。」

この報告書は、ロシア軍が南オセチアと隣接するグルジア領を占領していた期間に、オセット人民兵が、多くの家屋を広範囲に略奪し、破壊し、焼きはらった実態や、少なくとも9名の民間人を意図的に殺害し、少なくとも2名をレイプした実態についても、調査結果を取りまとめている。ロシア軍も、多くの場合、オセット人民兵の略奪と破壊に関与した。受動的な傍観者的立場として関与した場合もあるが、積極的な実行者であったケースもあったほか、攻撃対象の村への輸送手段を民兵に提供するなどの援助を与えて、略奪と破壊に関与したこともあった。

本報告書は、南オセチア兵が(時にはロシア軍とともに)少なくとも159名のグルジア系住民を恣意的に拘束した実態についても調査して詳細に報告。南オセチア兵らは、拘束した人びとのうち、少なくとも1名を殺害したほか、ほとんどの人びとを非人道的かつ品位を傷つけるような取り扱いや拘禁状態にさらした。また、南オセチア兵は、少なくとも4名のグルジア系戦争捕虜を拷問し、少なくとも3名を処刑。一方、グルジア軍は、8月、武力紛争下で拘束した32名のオセット人のうち少なくとも5名に暴行と虐待を加えた。

「グルジア政府もロシア政府も、自国軍が行なった人権侵害について、公平で徹底した調査を行なうべきである」とデンバーは述べた。「南オセチアを実効支配するロシアは、南オセチア兵が行った犯罪も調査すべきである。ロシア政府とグルジア政府は、こうした犯罪を行なった者たちを法の下に裁判にかけ、多くの紛争の犠牲者たちが適切な救済措置を受けられるよう確保しなければならない。」

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