(東京) – 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、「東京2020組織委員会」)は、性的指向・性自認に基づく差別を禁止する法律の制定を支持すべきだと、同委員会が設置する人権労働・参加協働ワーキンググループの委員7人は本書簡で述べた。
新たに東京2020組織委員会の会長に就任した橋本聖子氏に宛てた2021年2月26日付の書簡で上記ワーキンググループのメンバーのうち7人は、同組織委員会ならびに日本オリンピック委員会(JOC)と日本パラリンピック委員会(JPC)に対し、今夏に開催予定の東京五輪大会に先立つ今国会での差別禁止法の成立を促すよう要請した。
「オリンピック憲章は性的指向を含む『いかなる種類の差別』も明示的に禁じている。日本政府はこの規定に沿った差別禁止法を制定すべきだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表で東京2020組織委員会の人権労働・参加協働ワーキンググループの委員を務める土井香苗は述べた。「人権労働・参加協働ワーキンググループの専門家メンバーらが東京2020組織委員会の橋本新会長に対し、東京2020大会前にLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)平等法を成立させようという動きを支持し、日本法を国際的な基準に合わせるよう要請している。」
東京は2020年夏季五輪のホストだが、新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の感染拡大を受けて、国際オリンピック委員会と日本政府は1年延期を決定した。東京2020大会は「多様性と調和」と「未来への継承」などを基本コンセプトとする。その実現に向け、日本政府には、国際人権基準を満たす内容の、LGBT等の人びとを差別から守る法律を制定することが求められる。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、人権とLGBT等にかかわる内外の計115団体とともに、2021年1月25日に菅首相宛に書簡を送付している。
橋本聖子氏は、森喜朗前会長が2月上旬の女性差別発言により辞任したのを受けて、2月18日に東京2020組織委員会の会長に選出された。橋本新会長は2月24日、東京2020組織委員会に新たにジェンダー平等推進チームを発足させることを明らかにし、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの推進をしたいとした。
OECD(経済協力開発機構)の2020年の調査によると、日本はLGBTに関する法整備が加盟国中でトルコに次いで2番目に低い。この調査は「LGBTI(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・インターセックス)を包摂する(インクルーシヴ)法律は、LGBTIの人びとを平等に取り扱う文化を作りだす上でとくに不可欠なものだ。まず法律が、こうした人びとを人権侵害から守り、社会制度から排除しないものにならなければ、セクシュアル・マイノリティやジェンダー・マイノリティの置かれた現状が改善されることはありえない」と指摘する。
東京都は2018年10月、オリンピック憲章に沿って、LGBT等の人びとへの差別を禁止する条例(「東京都オリンピック憲章にうたわれる人権尊重の理念の実現を目指す条例」)を制定した。しかしマラソン、競歩、ゴルフ、フェンシング、サーフィンなどいくつもの競技が、北海道、埼玉、千葉、静岡、神奈川、宮城、福島、茨城など東京都外で開催される。内外のLGBT等のアスリート、大会関係者、労働者、ファンなどに、東京都の差別禁止条例の保護の効力は及ばない。
LGBT等の権利の啓発・支援を担うプライドハウス東京レガシーが2020年10月にオープンした際、トーマス・バッハIOC会長は「活動が成功し、東京大会のレガシーとなることを願う」との祝辞を寄せている。
「東京オリンピック・パラリンピック競技大会は、差別禁止に関する国際基準に日本法を適合させるまたとない機会だ」と、前出の土井は指摘する。「東京2020組織委員会、日本オリンピック委員会、日本パラリンピック委員会は一丸となって、日本政府に対し、LGBT平等法を成立させることで国際オリンピック委員会及び大会を訪れる多数のアスリートやファンの期待にこたえるよう促してほしい。」