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自宅の庭を歩く、2歳半のインターセックスの子どもと両親。子どもが自分で決められる年齢になるまで、医療的に必須ではない手術を先送りにした。 © 2017 Human Rights Watch

(シカゴ) ― 米国の医師は、インターセックス(半陰陽)の子どもに永続的な害を及ぼしかねない医学上不要な外科手術を続けている、とヒューマン・ライツ・ウォッチおよびインターアクトが本日発表の報告書内で述べた。施術については何十年もの間論争が続いているが、子どもの意思を確認するにはまだ小さすぎるうちに、医師が生殖腺、内性器、外性器を手術してしまう。こうした外科手術は延期しても体に害はないにもかかわらずである。

報告書「『生まれたままの姿でいたい』:米国でインターセックスの子どもに行われている医学上不要な外科手術」(全160ページ)は、社会で典型的に男の子や女の子と見られているものと異なる染色体、生殖腺、生殖器官、性器などを持って生まれたインターセックスの人びとへの、医学的に必要のない外科手術によって引き起こされる身体的・心理的ダメージについて詳述したもの。医学界の当該施術に関する論争、手術の選択に関する親への圧力などについても調査・検証している。

かつては「hermaphrodite(両性具有)」(現在は軽蔑的で古い言葉とされている)と呼ばれたインターセックスはけっして珍しいものではないが、誤解は広がっている。1960年代に普及した医学理論に基づいて、医師は「正常」に成長できるようにという主張に基づき、インターセックスの子ども(しばしば乳児)に外科手術を行う。結果は極めて有害であることが多く、 あるとされる利点の大半は証明されていない。かつインターセックスに関し、迅速で不可逆的な医療介入を必要とする緊急の健康問題はほとんどない。

インターセックス女性で、インターアクト代表のキンバリー・ジゼルマンは、「インターセックスの乳児に対する医学上不要な外科手術の破壊力は、身体的かつ心理的なものだ」と指摘する。「患者側の政策提言者たちが何十年にもわたって、これらの施術の害について医学界に警告してきたにもかかわらず、多くの医師が外科手術をよいオプションだと親に伝え続けている。」

新生児の1.7%は、典型的に男の子や女の子と呼ばれる状態と異なる。こうした子どもの染色体、生殖腺、内性器または外性器は、社会が一般に考えるものとは違う。また非定型外性器などインターセックスの特性の一部は、出生時に明らかだ。 しかし、出生時に割り当てられた性と一致しない生殖腺や染色体などは、のちに、場合によっては思春期になってわかることもある。子どもは手術をすることなしに、いずれかの性別として育てることができる。一方で、自らの性自認を宣言するには年少すぎるインターセックスの子どもに、外性器または生殖腺の手術をすることは、誤った性を外科的に与えてしまうリスクを伴う。

生殖腺を除去する手術は、患者の同意なき断種に該当する可能性があるうえ、その後、生涯にわたるホルモン補充療法が必要となる。子どもの外性器の大きさや外見を変える手術は、失禁、傷あと、感覚の麻痺、および心理的外傷のリスクがある。施術は不可逆的であり、切断された神経は再生できず、瘢痕組織が将来の手術の選択肢を狭める可能性もある。

医療プロトコルは進化している。特に「性分化の違い(Differences of Sex Development)」のケースに取り組む複数の専門分野からなる医療チームが、ますます普及してきた。今やほとんどの医療従事者が、親は子どもの体をそのまま残したいと考えている可能性を認める。このようなチームで活動するある医師はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、「私たちは大人になった患者から、虐待され骨抜きにされたように感じるという声を聞いています。それは非常にパワフルなメッセージです」と話す。

しかし医療現場には、不十分で断片的なケアの基準が残っており、医療関係者の間でも、インターセックス患者の権利を尊重・保護するのに最善な方法とは何か、意見が一致してない状態だ。インターセックスの子どもにとって、特定の外科的介入が医学的に明らかに必要不可欠なケースもあるが、米国内の外科医の一部は、しばしばまだ話すこともできない子どもに、危険性のある医学上不要な美容外科手術を行っているのである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査員で本報告書の執筆者カイル・ナイトは、「医学界はここ数十年の間に、インターセックス医療の分野で進歩を遂げてきたが、子どもや乳児への医学上不要で不可逆的な手術はいまだ普通に行われている」と指摘する。 「『正常な』人生に合わせて生きることへのプレッシャーは現実にあるが、外科手術がそれを容易にする確実な証拠はなく、一方、不可逆的な被害を一生背負うことになるリスクの証拠は多く存在する。」

国連の人権機関は近年、インターセックスの子どもへの医学上不要な外科手術を禁じていないとして、世界の国々を非難してきた。拷問に関する国連特別報告者は2013年の報告書で、「非定型の性的特性をもって生まれた子どもは、しばしば不可逆的な性別割り当て処置や非自発的断種、非自発的生殖器正常化手術の対象となっており[中略]永久的かつ不可逆的な不妊症を残され、深刻な精神的苦しみをこうむっている」と記した

2017年7月、3人の米公衆衛生局元長官が、「非定型の生殖器を持ち成長することが心理社会的苦痛をもたらすという証拠は不十分」であり、「心理的ダメージを減らすために、乳児に美容外科的生殖器形成手術が必要であるという証拠はほとんどない一方で、手術そのものが深刻で不可逆的な身体的害と精神的苦痛の原因となる可能性は明らかだ」とする論文を発表した

A poster by intersex activist Pidgeon Pagonis

For decades, parents of intersex babies have been pressured into consenting to medically unnecessary and irreversible surgery to make their children appear ‘normal.’ 

Essential Reading

本報告書は、ヒューマン・ライツ・ウォッチ調査員のカイル・ナイトとヒューマン・ライツ・ウォッチ調査コンサルタントの医師スージー・タマル=マティス博士による聞き取り調査に基づくもの。内訳はインターセックスの成人30人および子ども2人、インターセックスの子どもの親17人、インターセックスの人びとにかかわってきた婦人科医・内分泌科医・泌尿器科医・心理学者ほか、精神保健医療従事者21人。また本報告書には、幅広い文献レビューや当該外科手術に関して入手可能なデータも併せて掲載されている。

数人の医師がヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、親にこれらの外科手術を選択するようアドバイスすることへの抵抗感は強まっているものの、まだクリニックでは手術が行われていると語った。親たちもこれらの手術を選択するというプレッシャーを医師から感じると話す。

ある内分泌医の医学教授は、「支配権は小児科医の側にあります。だから親が恐れている場合、解決しなければならない問題はその恐れです。手術をするかしないかの問題ではない。何の意味もなく、何も解決しません」と述べた。「性分化の違い」のための医療チームに所属する婦人科医は、「文化規範的、ヘテロ規範的な状況を押し付けようとする時は、大きな間違いをおかしたり、人びとを回復不能なまで傷つけてしまうものです」と語った。

非定型の生殖器で生まれた8歳の子どもを持つ両親は、「医師たちは、他の子と違うことでトラウマにならないよう、すぐに手術をすることが大事だと言いました。いったいどちらがよりトラウマになるというのでしょう? この種の手術を受けるのと、ちょっと違うまま成長するのと」と話す。

この両親をはじめとする親たちは、インターセックスの子どもを育てるのにもっとも役立つリソースは、支援グループを通じて他の親やインターセックスの成人に会うことだと口をそろえた。

医療倫理の原則に沿って、手術を受けた人びとの経験からわかったことは、乳幼児に対する特定の外科的処置から得られる医学上の利益が、潜在的な害を上回ることを立証するデータがない限り、あるいはそれらが出るまでは、こうした手術はすべきではないということだ。数十年もこうした手術が行われてきたにもかかわらず、現時点ではそのような証拠は存在しないのが現実である。

米政府および医療機関は、意思決定に加わるには年齢が低すぎる非定型の性的特性を持つ子どもの生殖腺や外性器、または内性器を変更する目的の全外科的処置を停止すべきだ。これらの手術は重大な害をおよぼす危険がある一方で、先送りしても全く問題はない。

前出のジゼルマン代表は、「インターセックスの子どもの親は、子どもを負の烙印から守る最善の方法についてしばしば恐れ混乱している」と指摘する。 「我が子と同じ性的特性を持ちながら、健康かつ幸せに成長した人びとと出会うことが、親に最大の救いをもたらす。」

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