(ニューヨーク) – シリア政府軍がここ数カ月間に少なくとも4回、神経ガスを使用したという結論を新たな証拠が裏づけた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。2017年4月4日にイドリブ県ハンシャイフンであった化学兵器による攻撃で、少なくとも92人が犠牲になった。ほか2016年12月と2017年3月にも、3回神経ガスが使用されている。
これらの攻撃は、シリア政府軍による化学兵器使用の幅広いパターンの一環だ。 攻撃は広範かつ組織的であり、一般市民が標的にされているケースもある。この2点を踏まえると、一連の攻撃を人道に対する罪とみなすのに必要な法的基準を満たしている可能性がある。攻撃が広範かつ組織的であることを示す証拠の一部として、報告書「化学物質による死:シリア政府による広範かつ組織的な化学兵器の使用」(全48ページ)は、化学兵器による攻撃に使用された異なる3つのシステムを特定した。
• 政府軍の軍用機が、昨年12月12日以降少なくとも4回、神経ガスを装填した爆弾を投下したとみられる。
• 政府軍のヘリコプターから塩素ガスを装填した爆弾を投下する攻撃が、より組織的に行われるようになっている。
• 政府軍や親政府系地上部隊は、塩素ガスを装填した即席の 地対地ロケット弾の使用を開始した。
少なくとも一部の攻撃に関しては、その意図が一般市民に深刻な苦しみを与えることにあるとみられる。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのケネス・ロス代表は、「シリア政府による近時の神経ガス使用は致命的なエスカレーションであり、明らかなパターンの一環だ」と指摘する。「政府軍はこの6カ月間に、ダマスカス、ハマ、イドリブ、アレッポで、軍用機やヘリコプター、地上軍を用いて、塩素ガスおよびサリンを使用してきた。これは広範かつ組織的な化学兵器の使用にほかならない。」
繰り返し神経ガスが使用されたとみられることから、ハンシャイフンでの化学物質暴露は、従来型の爆弾が地上にあった有害な化学物質を直撃したためという、シリアとロシア当局の主張と相容れない。従来型の爆弾が、全国各地で再三にわたって化学物質の貯蔵庫を直撃したとは考えにくい。
4月4日にハンシャイフンを攻撃した兵器の遺留物の写真・動画には、サリン用の旧ソ連製爆弾の特徴がみてとれる。
国連安全保障理事会は全当事者に対し、化学兵器禁止機関が派遣した捜査官への全面的な協力と、捜査官がシリアで今回または過去に起きた化学兵器による攻撃の責任者とみられる個人に対する制裁措置の発動を要請する決議案を、即時採択すべきだ。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、化学兵器による攻撃とその直後の状況を直接目撃した60人に聞き取り調査を行い、かつインターネットに投稿されたり、地元住民から直接受け取った現場および被害者に関する数十の写真や動画を検証した。
ハンシャイフンの住民からの情報によると、4月4日午前6時45分ごろ、軍用機が町の上空を2回飛んでいたという。住民の1人は、最初の飛行中に町北部にある中央パン屋付近に軍用機が爆弾を投下したと話す。爆弾投下を目撃したこの人物を含む数人が爆発音を聞いておらず、煙や埃が着弾エリアから上がるのをみた。これは、化学爆弾には比較的少量の爆発物が装填される事実と一致する。また数名が、1回目の爆撃直後に負傷者あるいは負傷者情報を確かに見聞したと証言。数分後に軍用機1機が3、4発の高性能爆弾を町に投下していったという。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、地元住民や活動家が、攻撃による化学物質暴露で死亡したとしている子ども30人を含む92人を特定した。医療関係者によると、この襲撃により数百人が負傷している。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、最初の爆弾の影響でできた穴周辺の住民たちが提供した数十の写真や動画を検証。穴の周辺に住んでいた人びとが犠牲になったことや、緊急救援隊員など、現場に近寄った人びとにもっとも強い化学物質暴露の症状が出たことから、地元住民はこの穴を化学物質の発生源と確信している。緊急救援隊員が最初に撮影した穴の写真の1枚には、アスファルト上に液体のようなものが写っていた。これは、室温で液状になるサリンが装填された爆弾の使用と一致する可能性が高い。
穴の写真や動画には、使用された化学兵器の遺留物2点が写っている。緑色のペンキがついた細く曲がった鉄片と、小さい円形の鉄の物体だ。緑色は、工場で生産された兵器が化学物質仕様であることを示すために広く用いられている。たとえば、軍用機からサリンを使用するために設計された旧ソ連製の2種類の爆弾のうち、KhAB-250型には緑色の帯が2本入っている。穴に残っていた円形の物体は、KhAB-250型の装填穴を覆うキャップに類似していた。
これら留意物と証言者の報告内容、被害者の症状およびフランス政府・トルコ政府・化学兵器禁止機関が攻撃に使用された化学物質をサリンと特定したことが示すのは、シリア軍軍用機による工場製サリン爆弾の投下である。公開資料によると、KhAB-250型爆弾とそのより大きなバージョンのKhAB-500型爆弾は、サリンを使用するために特別に設計された旧ソ連製の爆弾だ。
シリア政府の軍用機がここ数カ月間に神経ガス爆弾を投下したのは、ハンシャイフンが初めてではないという証拠がある。2016年12月11日・12日にハマ県東部で、そして2017年3月30日にハンシャイフン近くのハマ県北部で、それぞれ軍用機による攻撃の後に、神経ガス暴露に合致する症状を被害者らがヒューマン・ライツ・ウォッチに詳しく訴えている。
12月の攻撃は、交信や連絡を厳格に監視しているイスラミックステート(ISIS)の支配地域で起きたため、目撃者との接触が困難な状態にある。しかし、電話で聞き取り調査を行った4人の目撃者と、仲介者を通じてテキストメッセージで聞き取り調査を行った2人の医療関係者が、攻撃に関して一貫した証言をしている。反体制派のある活動家や地元住民たちが、12月の攻撃による化学物質暴露で犠牲になった64人の名簿も提供した。
3月30日にハマ県北部で起きた疑いのある神経ガス攻撃では、犠牲者こそ出なかったが、地元住民や医療関係者、緊急救援隊員によると、一般市民と戦闘員で数十人の負傷者が出た。
神経ガスによる攻撃の疑いがある4つの攻撃すべては、反体制派武装勢力による攻撃が政府の空軍基地を脅かしている地域で起きている。
政府軍の塩素ガス兵器の使用も、より広範かつ組織的になっている。12月15日に終了したアレッポ市街における戦闘の最後の1カ月間に、ヘリコプターが数発の即席塩素ガス爆弾を投下したが、アレッポ市を奪還するための総合的な軍事戦略の一環であったことをその攻撃パターンが示している。こうした攻撃は、近時でもたとえばハマ県北部のアル・ラタミナで続いている。
反体制派武装勢力が掌握する首都ダマスカス近郊地域を攻撃するために、政府軍あるいは親政府系部隊が、塩素ガスを装填した即席の地対地ロケット弾を2013年8月以来初めて使用したことについて、ヒューマン・ライツ・ウォッチは2017年1月から調査・検証してきた。