(ニューヨーク) - カンボジア政府は、野党指導者サム・ランシー氏に対するカンボジア帰国禁止命令をすみやかに取り消すべきだ、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。フン・セン首相率いる政府は10月12日、カンボジア路線を持つ全航空会社に対し、ランシー氏を入国させないよう指示を出した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局局長ブラッド・アダムズは、「野党指導者サム・ランシー氏の公式な国外追放は、次期国政選挙に勝つために、選挙戦を事実上なくしてしまおうとする、与党の一連の試みの一環だ」と指摘する。「カンボジアのドナーおよびASEAN諸国はフン・セン首相に対し、野党勢力の政治的迫害をやめるよう即時かつ公に強く求めるべきだ。」

出入国管理最高総局(Supreme Directorate of Immigration)が発表した命令の概要は以下のとおり。

  • いかなる航空会社もカンボジア行きのフライトにサム・ランシー氏を搭乗させてはならない
  • サム・ランシー氏がカンボジア行きフライトに搭乗している場合、飛行機は離陸地に戻るよう命じられる
  • サム・ランシー氏がカンボジア行きフライトに搭乗してプノンペン又はシェムリアップに到着した場合、飛行機は離陸地に戻される
  • サム・ランシー氏が搭乗に成功してプノンペンかシェムリアップに到着し、かつ飛行機を降りた場合、出入国管理警察は必要なすべての措置を講じて同氏を逮捕する

政府はまた関係当局者に対し、「空港ターミナルやそのほかの国境検問所を注意深くチェックし、サム・ランシー氏が通過したら報告すること。そして法的手続きにそって帰国を阻止すること。それらの行動は高度に効果的であること」と命じている。

この命令は国際人権法の下でカンボジア政府が負う義務に違反し、カンボジア憲法とも矛盾する。カンボジアは、移動の自由の権利を保障する市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)の締約国だ。第12条(4)は、「何人も、自国に戻る権利を恣意的に奪われない」と定めている。世界人権宣言第13条(2)は、「何人も、自国その他いずれの国をも立ち去り、及び自国に帰る権利を有する」とし、カンボジア憲法第33条は、「クメール国民は、国籍の剥奪又は国外追放をされることはなく、外国との身柄引き渡しに関する相互協力がない限り、その身柄拘束をし、いかなる外国にも引き渡されることがない」と定める。

前出のアダムズ局長は、「カンボジアを、批判の一切許されない事実上の一党独裁国に戻したいというフン・セン首相の意図が、サム・ランシー氏に対する今回の措置でまたもあらわになった」と述べる。

長きにわたって野党カンボジア救国党(CNRP)党首を務めてきたランシー氏は、政治的動機に基づく一連の刑事事件のため、投獄を回避するべく国外滞在を余儀なくされている。政府はまた、カンボジア国民議会および上院の野党議員、野党関係の活動家市民社会団体のメンバー(国際的に著名なカンボジア人権開発協会(ADHOC)の職員を含む)など多くの人びとを恣意的に逮捕、拘禁している。

2018年の国政選挙で勝利すると公言している救国党に反応し、フン・セン首相をはじめとする与党カンボジア人民党(CPP)幹部(軍や警察も含む)は、過去12カ月の間、反体制派に対しますますひどい脅迫行為を公に繰り広げている。同時に、救国党党首代行で国民議会副議長のケム・ソカ氏をその座からひきずり降ろすための一連のキャンペーンも行われている。2015年10月には、CPPが仕掛けた暴徒が2人の野党議員をひどく暴行する事件が発生。その後、ソカ氏の国民議会における主導的地位を投票により剥奪した。現在同氏は、今年9月9日に政治的動機に基づいた事件で下された有罪判決により投獄される危機に直面している。

アダムズ局長は、「一党支配に終止符を打つはずだったパリ和平協定の25周年というタイミングで、野党党首を国外追放したことはとりわけ腹立たしい」と述べる。「多くのカンボジア人は、パリ協定が多元的民主主義の到来を告げるものであることを望んできた。しかしフン・セン首相には、過去25年間の全ての前進を水泡に帰すつもりとみえる。」