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イエメン:アラブ連合軍による居住区への空爆は明らかな戦争犯罪

不当な攻撃に対し求められる国連の調査

(サヌア)— 2015年7月24日にイエメンの港町モカで、サウジアラビアが主導するアラブ連合の空爆により、10人の子どもを含む少なくとも65人が犠牲となり、数十人が負傷した。この空爆は明らかな戦争犯罪だ、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。空爆は夜9時半〜10時の間に始まり、モカ蒸気発電所にある集合住宅2棟が繰りかえし攻撃された。2棟は発電所の従業員やその家族が住む社宅だった。

イエメンでの空爆は明らかに不当であるにもかかわらず、サウジアラビアほか連合国は調査を怠っており、よって国連人権理事会による調査委員会設置の必要性は明らかだ。この調査委員会は、連合軍およびイスラム系反政府武装勢力フーシ派ほか、紛争当事者による武力紛争法違反の疑惑を調べる必要があるだろう。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ緊急対応部門の上級調査員ウレ・ソルバンは、「サウジ主導の連合軍は、何十人もの死傷者を出すことになった集合住宅への空爆を繰り返した」と述べる。「軍事目標があるとの証拠が全く存在せず、これは明らかな戦争犯罪だ。」



ヒューマン・ライツ・ウォッチは、空爆から1日半後に現場に入った。爆撃でできた穴や建物の損傷は、6発の爆弾が発電所の社宅である集合住宅に直撃したことを物語っている。集合住宅には少なくとも200世帯が住んでいたと発電所の責任者たちは証言する。これらの建物から北に1キロほど離れたところにある短期労働者用の集合住宅1棟にも、爆弾1発が直撃して貯水タンクを破壊。付近の浜辺や交差点にも2発が着弾している。

爆弾は集合住宅2棟に直撃し、天井の一部が崩壊した。メインの中庭など、建物と建物の間で爆発したものもあり、何十もの部屋の外壁が崩れ、柱を残すのみになっている。

集合住宅に住む従業員および家族はヒューマン・ライツ・ウォッチに、1、2機の爆撃機が数分間おきにやってきて、9発の爆弾を落としていったと証言する。すべてが集合住宅を標的にしたものとみられ、そのほかの爆撃目標はなかった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの検証では、当該の発電所社宅2棟に軍事利用の形跡は発見されなかった。数十人の従業員や家族が、フーシ派などの軍隊はいなかったと話している。発電所と集合住宅は1986年に建設されたものだ。

7月25日の早朝、サウジアラビアが出資するテレビ局アルアラビーヤのニュース速報が、モカの空軍基地をアラブ連合軍が攻撃したと報じた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、モカ蒸気発電所から南東約800メートルに位置する軍事施設を特定。発電所従業員も、その施設が空軍基地だったと話していた。従業員たちは施設が何カ月も無人状態だったとも話しており、ヒューマン・ライツ・ウォッチが外部から確認した限り、2人の警備員以外、人の姿も活動もみられなかった。

発電所のバジル・ジャファル・カシム所長は、ヒューマン・ライツ・ウォッチに子ども10人を含む65人の犠牲者名簿を提供。名簿には行方不明者2人も含まれるが、がれきの下で死亡しているとカシム所長はみている。ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、空爆で負傷した42人が搬送された港街ホデイダの病院3軒を訪問。11歳の少女を含む数人が重体であることを確認した。

集合住宅の住民で、夫が発電所の従業員であるワジーダ・アーメド・ナジードさん(37歳)は、最初の直撃の際、子どもを抱き寄せ、危険が去るのを祈りながら身を寄せ合っていたと話す:

3発目直撃の後、建物全体が頭上で崩壊し始めました。そこにいるのは危険なことは分かっていたので、娘たちをつかむと浜辺の方に向かって走り出しました。けれど、鉄片があちこちに飛び散るなか、1片が9歳の娘マラクに当たってしまったのです。今は彼女が回復していることを、神に感謝しています。。。逃げている最中だけでも、7人の遺体をみました。地面にバラバラになって転がっていました。

病院のある医師は、マラクちゃんの腹部から鉄片1片を取り除いたと証言している。

発電所にある診療所の看護師ハリル・アブドラ・エイドレスさん(35歳)は、攻撃のニュースを聞いたとき、モカのアルサラム診療所に駆けつけたと話す。そこで彼をはじめとする医療従事者が負傷者に応急処置を施し、ホデイダの病院に送った。空爆から1時間以内に、少なくとも負傷者30人と犠牲者8人が移送されたという。翌午前1時に彼は現場の集合住宅に行った:

門をくぐったところで、友人の技術者がみえました。アブドゥ・サミド・アルスバイさんです。彼のアパートのすぐ外に横たわっていました。腰のところが大きく裂け、大量出血で死亡していたのです。横で2人の子どもが泣き叫んでいました。もう手遅れでした。同時に上空をまだ旋回している飛行機がみえました。その後それは何時間も続いたのです。

集合住宅内の店で働いていたロアイ・ナビールさん(20歳)は、攻撃が始まると家族の住むアパートへ急いだ。しかし、到着前に2発目の爆弾がアパートを直撃し、屋根が崩れた。玄関のそばで母親と弟を発見して浜辺まで運ぶと、今度は姉妹のハディールさん(12歳)とタグリードさん(17歳)を探しに戻った:

真っ暗でした。ハディールをがれきの下から見つけ出すのに10分かかってしまいました。爆弾が彼女の寝室があるあたりの屋根を直撃したため、頭にひどい傷を負っていました。タグリードは別の部屋で軽傷を頭に負いました。ハディールは今も昏睡状態です。

イエメンとサウジアラビアにおける継続的な交戦は、国際人道法(武力紛争法)の管轄下にある。武力紛争法は一般市民に対する意図的かつ無差別な攻撃を禁じている。無差別とは、軍事目標と一般市民または民用物を区別しない攻撃をさす。特定の軍事目標を定めていない攻撃は無差別と考えられるのだ。

犯意をもって武力紛争法の重大違反を犯した個人、つまり意図的あるいは無謀な違反行為は、戦争犯罪に該当するとして訴追される可能性がある。加えて、戦争犯罪を犯そうとした、同様にそれを支援・促進・助長・教唆した刑事責任を問われる可能性もある。武力紛争の当事国政府は、自国軍関係者の戦争犯罪疑惑を捜査する責任を負っている。

アラブ首長国連邦やバーレーン、エジプト、ヨルダン、クエート、モロッコ、カタール、スーダンなどが参加するサウジ主導のアラブ連合軍は、3月26日以来イエメン全土でフーシ派(アンサール・アッラー)の軍隊に対し、空爆攻撃をおこなっている。フーシ派は1月に事実上、アブドラボ・マンスール・ハディ大統領を政権の座から追放した。

米国は連合軍に参加していないが、兵站および諜報支援を行っていると公言している。英国もまた、「既存の取り決めにしたがって、サウジ軍と情報交換を行ったり、技術的支援や精密誘導兵器を提供している」と表明。標的に関する情報といった軍事作戦の直接的支援を行っている米国および英国は、紛争の当事国にあたり、よって武力紛争法が同様に適用されねばならない。

連合軍は首都サヌアほかサアダ、ホデイダ、タイズ、イッブ、ラヘジ、アルダレア、シャブワ、マーリブ、ハッジャ、アデンをふくむ都市で、フーシ派を空爆してきた。これら攻撃の大半で一般市民の死傷者が出ている。7月21日の時点で、イエメンでの戦闘による一般市民の犠牲者数は少なくとも1,693人にのぼる。国連人権高等弁務官事務所によると、そのほとんどが空爆によるものだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、違法と考えられる一連の空爆をこれまで調査してきた。たとえば3月31日にはホデイダにある酪農工場に複数の爆弾が投下され、少なくとも31人の一般市民が犠牲になった。工場はのちに攻撃を受けたふたつの軍事基地の近くにあった。

フーシ派ほか武装勢力も武力紛争法違反をおかしている。親フーシ派部隊や反政府民兵組織は、アデンやタイズほかの地域で軍事作戦を展開しており、繰り返し市民や病院といった民用物を不必要な危険にさらしている。

国連人権高等弁務官は、イエメンにおける一般市民の犠牲者数の多さに深い憂慮を示しており、即時かつ徹底した調査を要請した。国連人権理事会は、イエメン紛争が始まって以来の国際人道法の違反疑惑すべてを調査するため、国際調査委員会を設置する決議案を採択すべきだ。

前出のソルバン上級調査員は、「連合軍の空爆により、多くの一般市民の殺害が続いている。それなのに、戦争犯罪疑惑を調査する動きは一向にみられない」と指摘する。「連合軍の参加国が調査しないのであれば、今こそ国連の出番だ。」

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