(原文英語)                                                          

2015年6月24日

東京都千代田区二番町5-25  二番町センタービル

独立行政法人 国際協力機構

理事長 田中明彦 殿

 

Re: JICAの人権に関する方針と実際の取り組みについて

 

田中明彦 理事長

ヒューマン・ライツ・ウォッチを代表して申し上げます。この1年間、貴殿をはじめJICA職員の方々が、私を含む当団体の多くのスタッフとの面談に時間を割き、人権にかかわるJICAの方針と実際の取り組みについて協議いただいたことに感謝いたします。私たちは1年を通じてJICAに対して情報提供を求める書簡を数多く送付しました。貴団体の職員の皆様が、忙しい合間を縫って私たちの問い合わせに回答をお寄せいただいたことに感謝いたします。私たちはまた、ヒューマン・ライツ・ウォッチ・アジア局所属スタッフらと2014年11月に東京のJICA事務所で、JICA職員と協議する時間をいただいたことにも深く感謝申し上げます。アフガニスタン、パキスタン、インド、スリランカ、ネパール、バングラデシュ、ビルマ、タイ、カンボジア、ベトナム、インドネシア、フィリピン、ウズベキスタンに関して詳細な意見交換を行うことができました。またそれ以外の話題についてもJICA職員の皆様と広く協議を行いました。

ご承知のようにヒューマン・ライツ・ウォッチは日本を含む90ヶ国以上の人権状況のモニタリングと報告を行う非政府組織です。私たちは、土地への権利、子どもの搾取、女性の不当な扱い、難民や民族的少数者、障がい者など弱い立場にある人びとの権利を保護する政府の責任についての調査も手がけています。とくに私たちは、人権侵害行為の責任者の責任追及を粘り強く求め、企業に対して人権擁護を強く働きかけ、また民間人に不均衡な被害をもたらす武器の使用禁止の実現に向けた活動を行っています。

私たちは東京事務所と日本が大使館を置く各国のスタッフを通じて、外務省を中心として日本政府と人権問題に関する意見交換を定期的に行っています。例えば、北朝鮮拉致被害者や北朝鮮の過酷な人権状況全般に関して日本政府と緊密に協力してきました。インドネシア、フィリピン、ベトナム、ビルマ、カンボジアなど多くの国の日本大使館とさまざまな分野で関係を築いています。

私たちは、日本政府がJICAを通じて発展途上国に多額の援助を行ってきたことを評価します。日本の援助は、緊急食糧援助など短期的なニーズとともに、農業技術支援を通じた食糧安全保障の強化など、多くの発展途上国で長期的な目標にも対応してきました。[1]JICAは構造改革の支援にも取り組んでいます。最近では、ネパール大地震発生後の2015年5月に、震災復興に関する日本の経験と知識を共有する試みとして、ネパールの首都カトマンズで“Build Back Better Reconstruction Seminar for Nepal”を開催しました。[2]ヒューマン・ライツ・ウォッチはJICAがジェンダーと開発に留意していることを歓迎します。政府とコミュニティ指導者に対する男女共同参画をテーマとした特別研修事業の実施、人身売買被害者への技術支援、女性センターや女性起業家、その他関係する事業への経済支援などが行われています。 

ドナー国として、日本は1991年に政府開発援助(ODA)大綱を定め、人権を原則の一つとしました。ODA大綱の原則部分には次の表現があります。「開発途上国における民主化の促進、市場指向型経済導入の努力並びに基本的人権及び自由の保障状況に十分注意を払う。」[3]

こうした取り組みの鍵は、援助を通じて人権保護と両立する長期的な発展がどの程度もたらされるかです。例えば、JICAは環境社会配慮ガイドラインを定め、人権保護を目指しています。2010年に改訂されたガイドラインは、JICAの事業の透明性とアカウンタビリティの改善、地域住民の生活水準の向上を目標としています。[4]しかし現場レベルでの大きな変化はまだないようです。JICAと仕事をする開発コンサルタントのあいだには、環境社会配慮ガイドラインについて、実際には関連する人権問題についての慎重な検討抜きでの事業開始を目的とした情報提供にもっぱら用いられているとの指摘があります。こうした指摘が誤りであることを示唆する実質的な情報を、私たちは現時点でJICAから受け取っていません。

2015年2月に閣議決定された開発協力大綱も、基本方針の一つに「日本は女性の権利を含む基本的人権の促進に積極的に貢献する」と明記されています。[5]

私たちはこの大綱が効果を発揮することを期待しています。しかし、人権に関する政府の巧みな言葉づかいと現実の運用とのあいだには激しい落差が長年存在してきました。私たちの調査とJICAとの対話から、JICAは人権に関する積極的かつ重要なアクターとならないことを選んできたことが明らかになりました。独裁的、抑圧的、または人権侵害が頻発する国々や、日本が主要なドナーである国々についてすらこの態度は変わりませんでした。

人権を優先事項に

経済大国であり強い影響力を持つドナーとして、日本は人権の尊重と保護に関して、方針と現場双方のレベルで今よりはるかに大きな役割を果たす力があります。[6]例えばインドのデリーの地下鉄建設事業に際してJICAが労働安全衛生基準を引き上げたことで、以前より多くの労働者が安全ベルトやヘルメットを装着したことを、ヒューマン・ライツ・ウォッチは確認しています。

しかし日本は、開発の方針と実際の取り組みで人権を考慮するという点に関しては、他の2国間および多国間ドナーに遅れを取ってきました。例えば、人権はJICA(あるいは外務省)内部で主要な関心事とされてはいません。人権外交が行われることはほとんどなく、特定の人権問題について懸念が表明されることはめったにありません。JICA(および外務省)での人権研修はせいぜい表面的なものです。外務省とJICAは、ODA対象国を含む現地での人権の擁護と保護に向けた日本政府の活動を主導する役職を置いていません。JICA(および外務省)は個々の国、または各国の大使館に人権担当職員を配置していません。確かにJICAは人権問題を扱う専門家を配置していますが、敏感と見なされる問題については関与を避けているように思われます。

残念ながら、私たちがJICAと昨年行った協議と情報のやりとりからは、人権状況の改善と保護はJICAの活動で高い優先順位を与えられていないことが明らかになりました。人権侵害を頻発する政府からの脅迫や暴力、法的措置、または政府が関心を示さない社会的経済的権利への脅威にさらされたコミュニティや個人のために介入する取り組みがほとんど行われていないことがはっきりしました。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの2014年12月22日付書簡に対する2015年2月13日の回答で、JICAは人権上の懸念に対処する責任は援助対象国が負うもので、JICAに責任はないと述べました。そして「事業のもたらす環境社会的配慮についての最終責任は援助対象国を含めた事業提案者にある」とし、「JICAは、援助対象国・地域の所有権がJICAの援助の前提であるため、援助対象国に環境社会的配慮についての最終責任があることを強調している」と述べています。[7]この回答は、JICAの事業に関連する人権侵害についてJICAが対処の責任を逃れようとしているものだと思われます。JICAは援助先政府へのアプローチと協力のあり方を見直し、人権上の懸念を防ぎ、解決する必要があります。またJICAはこうした事例に関して公的な場ですすんで発言すべきです。当該国政府に注意喚起し、世論を含めたすべての人びとに、JICAは自らの事業に関連した人権侵害を認めないことをはっきり明らかにすべきです。 

人権状況理解への時間投入を

JICA職員はきわめて熱心で優秀にもかかわらず、東京のJICA職員がJICAの事業に関連する人権問題のことを往々にして知らなかったことに私たちは大きな驚きはもちろん、ショックすら覚えました。私たちが協議の場で提起した問題に関心を抱いてくださっていることは素晴らしいことです。しかしある国の全般的な人権状況と政治状況、また特定の事業に関連する人権侵害について、世界銀行やアジア開発銀行や二国間援助の実施国がそうであるように、職員の方々は基本的な知識を持つべきです。

私たちは、JICAが自ら手がける事業について人権状況改善を行う多くのステップを取っており、私たちが知らないそうした対策を報告できると期待していました。JICAへの書簡で、ヒューマン・ライツ・ウォッチは人権関連の多くの疑問点について具体的な情報を照会しました。[8]直接的な回答が得られたケースが少なかったので、私たちは二度、三度と同じ質問を(書面で、または会合の場で)行いました。残念ながら、こうした質問の多くにはいまだ回答がありません。JICAは求められた情報を単に持っていないだけだと説明されることもありました。それ以外にも、具体的事項の質問に一般的な回答が返ってくるだけで、こちらが求めた情報が提供されなかったことも多くありました。

私たちが理解した重要なことの1つは、JICA職員は自分たちが活動している国の人権状況や政治状況全般をあまりわかっていないことが多いということです。例えば、インドネシアのアチェ州で活動している職員は、いわゆるシャリーア法がアチェで施行されており、それが原因で女性と宗教的少数者の言動が大きく制約され、深刻な人権侵害が生じていることを知りませんでした。アチェでは女性がオートバイにまたがることが禁止されています。政府は夜11時以降の女性の外出を法令で禁止しています。アチェではアフマーディヤ教団やシーア派ムスリムなどの16の宗教団体が禁止されています。キリスト教もキリスト教会を維持するのが次第に難しくなっています。私たちは、日本政府が2004年のスマトラ沖地震とインド洋大津波後の援助活動の成果を記念する計画についての話をするなかで、JICA職員がこうした事実を知らないことに気づきました。援助の取り組みは大いに歓迎すべきことですが、物事を記念する際には必ず問題点を指摘すべきです。例えば復興の過程で、アチェでは20以上のキリスト教会が閉鎖されています。

バングラデシュで活動する職員は、マスコミの検閲、反体制派の超法規的処刑、活動家の強制失踪など私たちが示した人権上の懸念事項を1つも知りませんでした。

スリランカの事業にたずさわる職員は、JICAの事業を地図でわかりやすく説明してくれました。しかし事業が行われている地域で、タミル人が軍による人権侵害や組織的な脅迫、活動家への弾圧の被害を受けていることを知りませんでした。弾圧は内戦後の復興事業について市民の一部が反発したことに対しても行われました。たしかにJICAは地域の懸念に応えて高速道路1本のルートを変更したことがあります。しかし地域の見解が考慮された事例として示しうるのはこれだけです。  

パキスタンのクエッタにあるバルチスタン情報技術大学でJICAの資金で行われる研修プログラムが話題になった際、私たちはハザラ人がクェッタに通えなくなっていることを指摘しました。通学経路が宗派間暴力で多数の人びとが殺害された場所にあたるためです。公共交通機関の運転手はハザラ人学生のバス乗車を拒否しています。もし乗せればバス全体がテロ攻撃の標的になりかねないと思っているからです。JICAにはバルチスタン大学と州政府に対し、少数民族ハザラ人学生がJICAの研修プログラムにアクセスできる措置を講じるよう求める責任があることを強調しました。もしそうしなければ、JICAは軽率にもハザラ人差別を助長することになるからです。この問題は有名ですが、JICA職員は知りませんでした。

政府だけでなく民間との関係構築を

JICA職員と話をするなかで、援助対象国との関係の大半が援助国政府とのものであることが明らかになりました。もちろん、中央政府や地方政府との協議やODA合意は不可欠です。しかしJICAの場合、政府が示す見解や懸念の処理に費やす時間が不均衡なほどに長いのです。一方で現地のコミュニティや専門家、より広範な社会との協議に掛ける時間はごくわずかです。JICAや日本政府は、コミュニティに対して、援助対象国の人びとよりも人権侵害を行いがちな政府の利益に与し、その利害を優先させるという印象を(公正かどうかは別として)与えることがあるため、日本の「白紙委任型」と評されることも多い援助プログラムについて、日本は評価よりも軽蔑の対象となることが多いのです。

JICA幹部は、援助対象国政府について、事業遂行能力がないためにJICAなどドナー側の支援が必要だというだけでなく、影響を受けるコミュニティが十分な協議を行う政治的意志を持たず、開発事業に反発する個人やコミュニティへの報復を行いうることも多いことを理解しているのか不明です。

その原因は、受益者と主な対話相手をもっぱら援助対象国の中央政府または地方政府とみなす、JICAの文化にあるのではないでしょうか。JICA職員は政府職員との対話や関係構築に多くの時間を割いています。つまりJICA職員は事業や問題の一面しか見ていないことが多いのです。

これは時代遅れのアプローチです。他のドナーは、インフラ整備事業などの各種事業について、開始前、実施中、実施後に時間を割いて、全国的及びその地域の状況を理解することの重要性をかなり以前から理解していました。これは人権状況と政治的側面を理解するということです。例えば現地住民が抗議行動を行ったり、不満を述べたりできるかどうか、電話や電子メールを利用できるか、JICA事務所や日本大使館と近しい関係にあるか、読み書きができるかといったことです。こうした問題がJICAに懸念を伝える障害になりうることを理解していないJICA職員がいることに私たちは衝撃を受けました。現地住民に大使館の電話番号を伝え、何かあれば言ってくださいとすれば十分だと考えていると見受けられるJICA職員もいました。 

残念なことに、JICAが活動しているアジアの多くの国では、政府が人権を尊重しておらず、政府に不満を述べる人びとが暴力や法的措置などの標的となっています。ベトナムなど政府に反対意見を述べることを人びとが極端に恐れる国々では、JICAは人びとが窮地に立たされないように意思疎通を図る安全な方策を見出すことが求められます。苦情を申し立てた人の氏名を地方政府に明らかにする場合には、しっかりと説明した上で同意を得て、開示しても危害が及ばないとの評価をしたことを条件としなければなりません。「損害を与えない (“Do No Harm”)」アプローチに沿って成功したプロジェクトにするため、こうしたことは鍵となる要素です。

下請け契約者のモニタリング基準の策定を

JICAは契約者と同じ基準を下請け契約者にも課すべきです。企業や政府が行う開発事業や経済活動で起きる人権侵害の多くは、下請け契約者によるものです。民間セクターでは、契約者は下請け契約者の起こした問題だからと責任を逃れることはできません。

JICAとの協議を通じて、私たちは下請け契約者がJICAの基準を遵守し、人権侵害の発生を防ぐようにする標準化された実践をJICAが行っていないことを知りました。

JICAは、JICAが資金を拠出する下請け契約者すべてについて(きわめて小規模のものをのぞき)、その下請け契約者が政府が民間かによらず、活動を特定、モニタリングする新たな政策を実施するべきです。 

契約を交わす前に、JICAは下請け契約者についての詳細な背景情報の提供を、とくに人権侵害や汚職への関与の有無を重点的に求めるべきです。こうした取り組みは、パキスタンのカイバル・パクトゥクワ州やバルチスタン州など対立や紛争がある地域では重要です。

このことは政府軍とタミル・イーラム・解放のトラ(LTTE)の紛争が2009年に終結して以来、JICAが存在感を示すスリランカ北部と東部でも大切なことでした。これらの地域では軍が様々なエリアに入りこみ、通常は文民政府の領域に属すさまざまな事業を展開しています。農場、養魚場、店舗、学校、開発事業、コミュニティ間での和解の取り組みなどを、地方の文民政府ではなく、軍が運営するのが常態化しています。結果として、現地住民の日常生活は軍に対する恐怖と隣り合わせです。軍は戦時中にタミル人の一般市民に重大な人権侵害を行ったからです。同時に軍はこうした事業から経済的な利益を得ています。しかし地域住民の大半はそこから排除されているため、JICA及び他のドナーへの怒りが生じています。JICAとの協議で、JICAは資金提供中の事業の大半に関して、下請け契約者名を把握していないことが明らかになりました。結果的に人権侵害を行った軍人が利益を得ている可能性があります。 

勧告/提言

この1年間、JICAとさまざまな問題について対話を重ねた結果を踏まえ、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、JICAが事業に際して人権を促進・保護し、活動する国に住む人びとにとって有益であるため、活動と方針を見直す方策として、以下を勧告/提言いたします。

  • JICAにとり人権が優先事項であることを援助対象国政府および一般市民に明示すること
  • 私的にも公にも人権上の懸念事項を政府に提起すること
  • 人権侵害が起きたときには、その停止ならびに責任者への対処、被害者への適切な補償・救済を行うよう、政府に強く働きかけること
  • 人権に関する文言と最低基準の遵守を関係国政府との合意の前提条件に加えること
  • 人権配慮義務を事業準備プロセスに統合すること。例えば、計画中の活動に関連する人権上の被害が発生するリスクを見極め、そのリスクを軽減し、必要なあらゆる手段を講じて人権侵害を回避すること。起きる問題を把握し、適切に対応できるよう、こうした分析は事業の実施期間全体とその後も継続されなければならない
  • 事業の実施前、実施中、実施後に現地のコミュニティと誠実に協議すること
  • 少数者集団、周辺化された集団、地元および国際的な人権団体と積極的に接触し、状況を理解し、すべての意見をしっかり聴くこと
  • 既存のやり方を改め、事業の策定と実施にあたっては、現地のコミュニティ、弱い立場にある人びと、その他の非政府アクターの見解にしかるべき重要性を与えること
  • とくに独裁的であったり、人権侵害が多発する国や状況では、主な情報源を政府に頼らないこと。そうした政府は苦情がJICAに届くのを防ぎたいという利害関係にある
  • 事業終了後により強力な評価プロセスを実施し、地域のニーズが満たされ、事業によって地元住民が被害を受けないよう確保すること
  • 地域社会の住民がJICAに接触し、提案や苦情、人権侵害行為の報告を簡単に行えるよう、現実的かつ利用可能な方法を確立すること。そうした苦情に迅速に、また必要であれば建設的に対応するよう、職員研修を行うとともに職員に義務づけること
  • 苦情を訴える人の氏名などの個人情報を地方政府に明らかにする場合には、しっかりと説明した上で同意を得て、開示しても危険が及ばないと判断した場合のみとすること
  • 身の安全確保のため必要である場合は、現地住民と対話する際に日本からの通訳者を介して行なうこと
  • ジェンダー、マイノリティ、障がいへの配慮を、すべての技術協力事業、コミュニティ・ベース事業、インフラ整備事業などに織り込むこと。女性の地位や民族性などを理由に周辺化されたグループの地位向上を目的とする事業を、各国でのそうしたプログラムのニーズに関する分析に基づいて展開すること。目的が達成されたかをアセスメントするためのモニタリングと評価を実施すること
  •  JICAが資金を拠出することになる下請け契約者すべてについて(きわめて小規模のものをのぞき)、政府系か民間系かにかかわらず、下請け契約者を特定した上でモニタリングすること。下請け契約者にも元請け契約者と同じ基準を適用すること。契約締結前に、JICAは下請け契約者について更に詳細な背景情報の提供、特に人権侵害や汚職への関与の有無についての情報提供を求めること

結論

JICAとの書面と口頭によるやりとりで得られた回答は、限定的で不完全なものでした。よって残念ながら、JICAが以下の領域などにおいて、組織の規模と経験にふさわしい配慮義務を満たしていないとの結論に達しました。これらの領域は、苦情への対応、コミュニティとの協議、現地の状況に関する情報収集、問題が発生した場合に独裁的な政府といかに対応するかなどの重要分野です。知識の欠如と不十分な協議は、JICAの事業が支援対象と意図する住民自身に危害をもたらします。

世界最大級のドナー国である日本は、多くの場合JICAを通じて、世界の人権を促進、保護する上で今以上に重要な役割を果たす能力と責任があります。これまで以上に人権に着目し、コミットすれば、JICAはできるはずです。上記の勧告/提案が実施されれば、JICAのインクルーシブ性、透明性、アカウンタビリティは強化され、最終的には事業実施のさらなる円滑化が促されることでしょう。こうした措置を講じれば、問題を発生前の段階で特定することができるようになるからです。

今後もJICAとの継続的な対話を行なえますことを期待しております。田中理事長および職員の皆様とお目にかかり、これらの問題について協議をさせて頂けましたら幸いです。

敬具

 

ブラッド・アダムス

ヒューマン・ライツ・ウォッチ

アジア局 局長

 

cc:      安倍晋三内閣総理大臣、岸田文雄外務大臣

 

 

[1] “世界の食料の安全保障を支え、さらにその先へ” JICA, December 25, 2014,  http://www.jica.go.jp/topics/news/2014/20141225_02.html  (accessed June 14, 2015)

[2] “Build Back Better Reconstruction Seminar for Nepalの実施について” JICA, May 27, 2015, http://www.jica.go.jp/topics/news/2015/20150527_03.html (accessed June 14, 2015)

[3] “政府開発援助大綱” Ministry of Foreign Affairs, August 29, 2003,  http://www.mofa.go.jp/policy/oda/reform/revision0308.pdf   (accessed June 14, 2015)

[4] “国際協力機構 環境社会配慮ガイドライン” JICA, April 2010, http://www.jica.go.jp/english/our_work/social_environmental/guideline/pd... (accessed June 14, 2015)

[5] “開発協力大綱について” Ministry of Foreign Affairs, February 10, 2015, http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000067701.pdf (accessed June 14, 2015)

[6]  DACによると、日本はインド、カンボジア、スリランカ、ブータン、ベトナム、ビルマ、ラオスなどの国の最大援助国だった(2012年)  “2014年版ODA白書” Ministry of Foreign Affairs, March 2015,  http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shiryo/hakusyo/14_hakusho_pdf/pdfs... (accessed June 14, 2015)

[7] JICAからHuman Rights Watchへの書簡 “Reply to the Question from Human Rights Watch regarding Human Rights Policies and Practices on December 22nd 2014,” February 13, 2015, on file with Human Rights Watch.