ヨルダン空軍パイロットのモアズ・カサスベ中尉が、イスラム国(ISIS)の手で残虐にも焼殺されたことで、同国は怒りと悲しみに包まれました。そして街頭の人びとやメディアは今、復讐を口々に叫んでいます。

ヨルダン政府の反応も素早いもので、軍が「流されたカサスベ中尉の血に誓ってかたきを討つ。殺害の悲劇と同規模の報復となるだろう」と宣言。政府報道官は、「迅速」に「[イスラム国の]戦闘部隊を壊滅する」旨を誓いました

イスラム国がカサスベ中尉の殺害動画をインターネット上に投稿してからわずか数時間後の2月4日午前5時ごろ、死刑判決を受けて長らく収監されていた2人のイラク人に対し、ヨルダンが刑を執行。両者ともイスラム国の前身「イラクのアルカイダ」(AQI)のメンバーでした。サジダ・リシャウィ死刑囚は、60人が犠牲になった2005年のアンマンのホテル同時爆撃事件に関与したかどで、またジャド・カルブリ死刑囚は2007年にイラクでヨルダン人運転手を殺害したかどで死刑判決を受けていました。カルブリ死刑囚はAQIの元最高指導者アブ・ムサブ・ザルカウィ容疑者の側近だったとされています。

憤怒する世論、そしてそれに応えたいという政府の望みはとても理解できます。しかし、死刑囚の刑執行はイスラム国にとって打撃にはなりません。ヨルダンは最近まで中東地域において、死刑執行に反対する動きを先導してき国です。昨年12月21日に殺人罪で死刑判決を受けていた囚人11人を絞首刑に処するまでの8年間、事実上処刑を見合わせていました。この際も当局は、死刑執行の背景に国民感情を挙げていました。過去2カ月で2度目となる刑執行で、死刑反対の動きを更に後退させてしまいました。

リシャウィ死刑囚とカルブリ死刑囚の刑執行は、控訴手続きを含む公判に続いて行なわれました。しかし、両死刑囚は、全く関係のないカサスベ中尉殺害事件の直後に、死刑囚監房から絞首台に送り込まれたのです。政府関係者が中尉の死に復讐を誓うなかのできごとで、両死刑囚の命が絶たれた理由が報復措置だったことを物語っています。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、残酷でかつ取り返しのつかない刑罰である死刑を、いかなる状況下においても反対します。今回、外的要素に対応するかたちで死刑が執行されました。個々人の罪だけに基づいた公平な法の裁きではなく、第三者への報復措置が方針決定の原動力になった、ということに私たちは注意しなければなりません。