Map of Eritrea with location of Bisha Mine.

© 2013 Human Rights Watch

(トロント)-アフリカ・エリトリアで急成長中の鉱物資源セクターに対する外国からの鉱山関連の企業の投資が殺到しているが、強力な予防措置を取らない限り重大な人権侵害にこうした企業が関与する危険性がある。ネブサン・リソーシズ社(本社 カナダ・バンクーバー)がエリトリアにおいて強制労働を利用しないよう確保するのを怠り、また、強制労働の疑惑に適切に対処できなかった実態は、鉱山開発会社がエリトリアで直面するリスクを浮き彫りにしている。

報告書「悪い噂は聞こえない:エリトリア鉱業セクターでの強制労働と企業責任」(全31ページ)は、政府が広範囲に強制労働を行なっているエリトリアで、鉱山関連企業が強制労働による搾取に関与してしまうリスクについて調査・詳述した報告書。また本報告書は、エリトリアで最初に操業を開始した鉱山を開発した企業であるカナダのネブサン社が、こうしたリスクに当初の段階で真摯に取り組まなかった結果、人権侵害疑惑への対処に苦闘した実態も取りまとめている。同社はそののち対策を改善したものの、同社が使う国営の請負業者の強制労働疑惑に対する調査は今もって実現していないとみられる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ上級調査員クリス・アルビン・ラッキーは、「エリトリアに進出しようとしている鉱山関連企業は、自らの活動が強制労働を使うことがないよう徹底的に対応する必要がある」と指摘。「それができないなら、決して進出すべきではない。」

エリトリアは世界の最貧国にして最悪の独裁国のひとつだ。これまで未開発だった豊富な鉱物資源が近年、低迷した経済に対する将来への明るい兆しとなっている。ビシャ(Bisha)鉱山は、エリトリアで最初のプロジェクトにして、現在まで操業している唯一の鉱山プロジェクト。その権益の過半を所有し鉱山を操業しているのがカナダの小さな企業ネブサン・リソーシズ社だ。2011年に金採掘を開始し、初年度に6億1,400万ドル相当の金鉱石を産出した。

しかし、カナダ、オーストラリア、中国の企業が率いるほかの大規模プロジェクトの準備も進行中である。そのほかにも極めて多数の採掘企業が、新規発見の期待をかけてほかのリース鉱区での資源探索を続けている。

エリトリア政府は、国民を強制労働に徴用する「国家奉仕」プログラムを続けている。強制労働は長期かつ無期限で、ひどい環境・条件であることが一般的だ。鉱山企業は、このプログラムを通じて強制労働に関与してしまう直接の危険にさらされている。ヒューマン・ライツ・ウォッチはこれまでに、「国家奉仕」事業に徴用された人びとが拷問などの重大な虐待に日常的に遭っている実態や、人びとが「国民奉仕」の持ち場から脱走した場合に、その家族が受ける政府からの報復の実態を調査して取りまとめてきている。多くのエリトリア人が、徴用労働者として10年以上にわたって働くことを強制されている。

「国家奉仕」に徴用された人びとのほとんどは軍務を割り当てられるが、国営企業で働かされる場合もある。こうした企業の一部は建設会社で、政府は国際企業に対し、そうした会社と契約するよう圧力を掛ける。

ネブサン・リソーシズ社は、エリトリアの国営鉱山企業であるエリトリア国家鉱山社(Eritrea National Mining Corporation、以下ENAMCO)との合弁事業としてビシャ鉱山を運営している。ネブソン社はヒューマン・ライツ・ウォッチに対して、当初、人権リスクを調査する「人権デュー・ディリジェンス(適正評価)」活動を全く行わなかった事実を認めている。政府の強い求めに応じて、同社はセゲン建設会社という国営業者に、鉱山周辺のインフラの建設を請け負わせた。セゲン社はその事業において、強制労働を使っていると長く言われ続けてきた企業だ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、建設初期段階時にビシャ鉱山で働いていた数人のエリトリア人から聞き取り調査を行った。中には、セゲン社によって徴用労働者として、そこに派遣されたと話していた人たちもいた。彼らは生活環境がひどいこと、そして賃金は微々たるものであると、強制労働の実態について詳述してくれた。徴用されたある農民は、親戚の葬式に出るために仕事場を離れたため逮捕され、数カ月間刑務所に入れられたという。

前出のアルビン・ラッキー上級調査員は、「ネブサン社は適切なセーフガードも備えないまま、強制労働に依拠していると長く言われ続けてきた請負業者を雇った」と指摘。「更にひどいことに、請負業者下の労働実態の監視さえ許されないにもかかわらず操業を続け、この請負業者との契約を継続した。」

ネブサン社は、事業の初期段階では事業設立のために強制労働が利用されないようにする適切な手続きを怠ったが、その後対策を強化し、全鉱山労働者が強制ではなく自発的に労働に従事しているかをチェックするスクリーニング・プロセスなどを設けた。現在のこの対策で、強制労働なしでの事業継続を確保できると、ネブサン社はしている。

ビシャ鉱山で現在も強制労働が行われているという情報をヒューマン・ライツ・ウォッチは入手していないものの、独立した立場で人権調査を行うためにエリトリアに入国することは難しいので、監視も極めて困難である。しかし請負業者が人権保護実態をも監視する取り組みに協力するのを拒否している実態に照らせば、本当に強制労働が行われていないかどうか、ネブサン社でさえ定かでないのが実態だ。

セゲン社はビシャ鉱山で強制労働を行わない約束をした、とネブサン社は述べている。労働者が自らの意思でビシャ鉱山で働いているのかを確認するために、セゲン社の労働者に聞き取り調査をしたいとしたネブサン社の要請を、セゲン社は拒否。労働者の居住環境を調査・評価するためにネブサン社が居住区を訪れることさえ許さなかった。労働者が悲惨な生活環境に置かれ、不十分な食事しか摂っていないという複数の申立を受けたネブサン社は2010年、セゲン社の労働者に対する食糧提供を始めた。

ネブサン社が2012年、セゲン社との再契約をしないまま鉱山を拡大しようとしたところ、エリトリア政府がこれに反発し、ネブサン社はセゲン社と寄りを戻すことになった。セゲン社の労働者は今もビシャ鉱山の現場で働いている。

前出のアルビン・ラッキー上級調査員は、「ネブサン社は、エリトリア政府を後ろ盾とする地元の請負業者に脅されるままになっている。こんな状況を受け入れてはならなかったのだ」と指摘した。「エリトリアで活動するすべての企業は、ネブサン社の実態を教訓とすべきだ。エリトリアで企業活動する場合、人権問題が起きてからリスク対処しようとしても遅すぎるのだから。」

残念ながら、他企業もこうしたリスクに対処せず、鉱山事業を押し進めているようだ。エリトリアで10億ドルの炭酸カリウム鉱山の開発に乗り出そうとしているオーストラリアのサウス・ボールダー・マイン(South Boulder Mines)社の最高経営者に聞き取り調査を行ったところ、同社が事業に関連する強制労働などの人権上の潜在的リスクについて、評価を全く行わなかったと認めた。

同じくエリトリアで鉱山開発に向け活動中のカナダ企業サンリッジ・ゴールド(Sunridge Gold)社は、強制労働などの人権問題について話をしたいというヒューマン・ライツ・ウォッチの要請に返答しないままだ。上海に本社を置く中国コングロマリット、中国上海外経集団有限公司(以下SFECO)は、オーストラリア企業のチャリス・ゴールド(Chalice Gold)社からほかの鉱山事業の支配権を最近購入し、エリトリアでの鉱山産業に新規参入した。

ビシャ鉱山での経験に照らせば、人権侵害の最大のリスクは、それらの事業の建設局面で起こる可能性が高い。ネブサン社は、ビシャ鉱区の近くでもうひとつの鉱脈に対する権利も取得しているが、それが商業ベースに乗るようであれば、更なる建設あるいはインフラ工事に関与する可能性もある。

エリトリアに進出したいと考える鉱山企業は、強制労働を使用したことがあるといわれるいかなる会社とも契約をしてはならない。そして自社業務に関係するあらゆる人権侵害疑惑について調査の権利を強力に主張すべきである。

また、エリトリアで活動する全鉱山関連企業は、「人権デュー・ディリジェンス」活動を行い、計画している事業によってもたらされるあらゆるリスクを特定・削減するべきだ。「人権デュー・ディリジェンス」の重要性は、国連が承認し、責任ある企業活動の適正基準として広く受け入れられている「ビジネスと人権に関する指導原則」にも強調されている。

ひとたび事業が開始された後も、強制労働などの権侵害に関与することがないよう、企業は現場を監視しなければならない。企業は、鉱山現場での全労働者に妨害のない独立したアクセスができる権利を強く求めると共に、人権侵害に関与したという信頼できる情報のある地元請負業者との契約を解除する権利も強く求めるべきだ。

多国籍鉱山企業の本社がある国の政府は、自国企業がエリトリアのようなリスクの高い環境で活動する場合、その企業の人権対策を規制・監視すべきである。政府はそれら企業に対し、外国での活動で高い人権保護基準を維持し、人権侵害疑惑が浮上した場合、それを調査するよう働きかけるべきだ。ビルマへの投資などのまれな事情のある場合を除くと、現在のところ、自国企業の自国領土外における人権保護実態を監視している政府はない。

前出のアルビン・ラッキー上級調査員は「エリトリアに間違いなく存在する強制労働のリスクを無視するのは、鉱山関連企業の怠慢・過失である」と述べる。「一方、それら企業の母国政府は、自国企業の海外における人権侵害関与の実態に対して、国内での対処が遅きに失している。」