Skip to main content
寄付をする

アフガニスタン:民兵組織と地元警察(ALP)の人権侵害 野放しやめよ

治安権限の移譲に近道なし 人権保障を根本に据えよ

(カブール)-民兵組織及び新たに米国の支援を受けたアフガニスタン地元警察(ALP)の部隊が、重大な人権侵害を行っているにも拘らず、アフガン政府は適切な監督を怠り、法的責任も問うていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。アフガニスタン政府及び米国政府は、非正規の武装集団との関係を断つと共に、適切な訓練と適格審査を経た責任ある治安部隊を創設すべく直ちに措置を講ずるべきである。

報告書(全102ページ)「官製民兵組織はもう御免:民兵組織と『アフガニスタン地元警察(ALP)』に蔓延する不処罰」は、北部クンドゥズ州の非正規武装勢力とバグラン州、ヘラート州、ウルズガン州におけるアフガニスタン地元警察(以下ALP)の部隊による殺人・レイプ・拉致・土地強奪・不法家宅捜査などの実態を取りまとめている。アフガニスタン政府はこれらの部隊の法的責任を問うていないため、将来にわたる人権侵害を助長すると同時に、タリバンやその他の反政府勢力への支持を生みだしている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムスは「アフガニスタン政府は反政府暴動を鎮圧するため、アフガニスタン一般市民の生命を脅かす民兵組織を再結成した。アフガニスタン政府と米国政府は、人権侵害を行う不安定要因である民兵組織の支援からしっかり手を切ることなしに、実現可能かつ長期的な安全保障戦略への希望を持つことは不可能だ」と語る。

米軍は、駐留撤退戦略の一環として、創設1年目のALP部隊を村落レベルで訓練・指導している。2011年3月、当時アフガニスタン国際治安支援部隊司令官だったデービッド・ペトレアス氏は米国上院において、「アフガニスタン自らの治安維持能力の向上を支援する我々の取り組みの中で、ALPはほぼ間違いなく最重要要素である」と述べている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、アフガニスタン政府や諸外国が非正規武装集団に対して武器や資金を提供し、彼らの審査及び法的責任追及を担うという取り組みの前途には重大な問題が立ちはだかっていることを明らかにしている。クンドゥズ州で民兵組織が近年急速に拡大してきたのは、アフガニスタン情報機関である国家保安局(以下NDS)が、意図的にそうした政策を推し進めてきた結果である。シューラ・エ・ナザール(Shura-e-Nazar:北部監督者評議会)とジャミアテ・イ・イスラミイ(Jamiat-i-Islami:イスラム協会)ネットワークを通じ主として民兵組織ネットワークを再活性させ、十分な監督もしないまま資金や武器を供与してきたのだ。

報告書「官製民兵組織はもう御免」は、人権侵害の被害者、家族、村の長老、目撃者、NGO職員、アフガニスタンの治安・人権保護・政府当局者、外国軍当局者、外交官、ジャーナリスト、アフガニスタンアナリストなど120人を越える聞き取り調査に基づいている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがクンドゥズ州において記録したほぼすべての重大な人権侵害事件において、人権侵害の責任者は、何の責任もとわれていなかった。例えば、2009年8月にカナバッド(Khanabad )地区で、1人の民兵が家族間の小競り合いがもとで男性4名を殺害した事件が起きた。この事件に関してNDS当局者は、「人権侵害を行っている民兵組織の司令官は、州警察長官と地方有力者と密接な関係にあるので、警察はその殺人事件に関与した者を誰も逮捕できない」と正式に発表している。殺害された男性のうちの1人の父親でもある検察官はヒューマン・ライツ・ウォッチに、「誰も助けてくれませんでした。政府に勤めている私でさえこうなのですから、一般の人の話など誰が聞くでしょうか。誰も聞いてはくれません」と話した。

「地元の治安部隊の高官や中央政府高官をパトロンとする親政府民兵組織は、政府との密接な関係ゆえに、地域社会を恐怖に陥れる活動をしても処罰されず、野放しにされている」と前出のアダムスは語る。

同時に、拙速に創設されたALPが、そもそも法を順守する部隊となりうるか、という懸念も存在する。米国の強い要請で2010年7月に創設されたこの部隊の目的は、アフガニスタン国軍と国家警察を地域社会と村落レベルで補完することにある。米軍は2014年までのアフガニスタン政府への治安維持権限移譲を睨み、ALPを、移譲を実現するための一つの方策として捉えている。

村の議会がALPの隊員を推薦し審査する任務を負い、その結果は地区の警察責任者に報告される。わずか21日間の訓練しか施されていない部隊が、武装し、アフガニスタン国軍や国家警察がわずかしかいない地域に派遣されている。8月現在、7,000名の隊員が部隊に採用され、今後最大30,000名の隊員が武装訓練を受ける予定だ。

アフガニスタンと米国の高官はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、ALPはいくつかの地域の治安改善に寄与したと述べている。一部の地域社会において、ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じた住民の中には、ALPという新たな部隊を歓迎すると共に、治安の改善に言及する者もいた。しかし一方で、部隊の中に犯罪者や反乱分子が紛れている事実を挙げ、新しい警察は適切な審査を受けていないと指摘する住民もいた。ALPが、他の非正規武装集団と同様、人権侵害を犯しても責任を問われない実態に対し、住民内でも疑問の声が数多く上がっている。

ALPは創設されて間もないにも関わらず、同部隊員による重大な人権侵害が起きていることを、ヒューマン・ライツ・ウォッチは報告書の中で取りまとめている。一例を挙げれば、2月にヘラート州のシンダンド郡において、あるALP部隊が民家を何軒か家宅捜査した際、家人の所有物を盗み、住民に暴行を働き、男性6名を不法に拘束した。また別の事例では、ALPが10代の少年複数を殴った上に、少年の1人の足に釘を打ち込んだとして告訴されたものの、逮捕には至っていない。

バグラン州では、地方有力者ヌール・ウル・ハク(Nur-ul Haq)氏を含む、イスラム教主義のヘジブ・イ・イスラミ(Hezb-i-Islami)に属していた元戦闘員がALPに採用されている。ハク氏とその兵員は、多数の殺人・土地強奪・拉致に関与してきた人物である。しかし警察はその疑惑について捜査することを拒否した上で、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、「疑惑の渦中にあるALP隊員は有力な政府高官や米軍特殊部隊と密接な関係にあるため、警察は彼らを尋問できない」と述べた。4月にはバグラン州の武装したALP隊員4名が、市場から帰宅途中の13歳の少年を拉致し、ALP副司令官の自宅で輪姦した事件があった。少年は翌日逃げ出し、襲った者たちの身元は明らかであるにも拘らず、逮捕された者は一人もいない。

ウルズガン州では2010年12月に、地方有力者のネダ・ムハメド(Neda Muhammed)氏が、6名の高齢者を逮捕している。高齢者たちがALPへ隊員を提供することを拒否した後の事だ。地方高官や住民からの証言によればクハス・ウルズガンのALP隊員の一部は、不法家宅捜査・暴行・非公式の税金の強制徴収に関与していると見られる。

ALPを支持するアフガン内外の人びとは、アフガニスタン内務省がALPを管轄し、村の議会が隊員の審査を行い、米国特殊作戦部隊が訓練と指導を施している事などを挙げ、予防手段の充実を主張している。しかしアフガニスタン国家警察は十分な指揮命令系統に欠けており、しかもALPは活動している地区で国家警察をはるかに凌ぐ隊員を擁することが多い。内務省高官らはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、すでに何度も類似の地域治安構想でこうした予防手段が示されながら、これまで失敗に終わってきたことを渋々認めている。

地方治安部隊創設についてのこれまでのプログラムは、地方有力者や民族的或いは政治的派閥によって乗っ取られてしまい、恐怖を蔓延させ、復讐心を煽る結果となった。中にはタリバーン反乱勢力の支配下に落ちた地域もあった。その一例が2006年に創設されたアフガニスタン国家予備警察(以下ANAP)だった。ANAPはほとんど訓練を施されておらず、最低限の審査しか受けていなかった。さらに交戦規定の定義が曖昧で、敵陣営による内部への潜入を許していた他、汚職にまみれていた。もう一つの失敗例は、ワルダク州の公設防衛軍(以下AP3)である。AP3は地方有力者に乗っ取られた上に、暴行と脅迫に関与するようになってしまった。

「村落レベルでの治安維持強化の必要はあるものの、アフガニスタン政府と米国政府は、過去の民兵組織に関する過ちを繰り返さないよう細心の注意を払うべきだ。早急に軌道修正がされなければ、ALPは治安改善の特効薬どころか、厄介な問題を引き起こす新たな民兵組織に終わってしまうだろう」とアダムスは語る。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはアフガニスタン政府と米国政府に対し、すでに複数の部隊で表面化したように、十分な審査・監督・説明責任の達成メカニズムを欠いたままの状態で、国中に新たなALP部隊の創設を急いではならないと主張している。

さらにヒューマン・ライツ・ウォッチは、アフガニスタン政府に対し、民兵組織とALPによって行われた全ての人権侵害疑惑を捜査すること、告訴された事件を捜査するために必要な証拠を提供すること、ALPや他の警察部隊による人権侵害を報告する外部告訴機関を創設することを強く求めている。

「国際的治安支援部隊の撤退と権限の移譲が急がれるとしても、アフガニスタン国民の権利を犠牲にしてはならない」と前出のアダムスは述べる。「アフガニスタン政府とその支援国政府は、不安定な状態は反政府活動以外からも生ずることを理解する必要がる。お粗末な統治、汚職、人権侵害、政府と手を組む部隊の不処罰特権、それらが全て、反政府活動を推進している。真の安定をアフガニスタンにもたらすつもりなら、これらの問題に取り組むべきだ。」 

GIVING TUESDAY MATCH EXTENDED:

Did you miss Giving Tuesday? Our special 3X match has been EXTENDED through Friday at midnight. Your gift will now go three times further to help HRW investigate violations, expose what's happening on the ground and push for change.