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(ベンガジ)リビア政府軍による西部の都市ミスラタでの攻撃は、民間人を危険にさらすとともに、医療機関を攻撃の標的としており、国際法に違反する、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。リビア軍政府は、ミスラタを外界から隔離しているため、本発表はミスラタに現在も残る医師2人及び、ミスラタから避難してきた民間人負傷者17人に対する聞き取り調査に基づく。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはリビア政府に対し、陸路と海路による定期的人道支援の許可、ならびに、避難を希望する民間人に対する安全な避難路の確保を求めた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東・北アフリカ局局長サラ・リー・ウィットソンは「リビア政府は、深刻な人権侵害を隠すためにミスラタをほぼ完全包囲して攻撃している。しかし、情報が外部に出ることを完全に防ぐことはできない」と指摘。「病院と居住地域で砲撃と発砲が行なわれ、戦闘などない地域の民間人が殺害されているという証言がもたらされている。」

ミスラタ病院に勤務するムハマド・エル・フォルティア(Muhammad el-Fortia)医師によると、2011年2月19日以降、医療機関の記録に掲載されているのは、死亡者257人及び負傷により治療を受けた949人。負傷者の中には女性22人と子ども8人も含まれている。

別の医師によると、ミスラタにある病院におけるここ1カ月の死者は約250人。そのほとんどが民間人だったという。しかし、多くの人びとは医療機関にたどり着く前に亡くなっているとみられ、実際の死者数はさらに多いとその医師は見ている。

その医師は「兵士たちは自分の身の守り方を知っている。でも民間人は、攻撃を前になすすべもなく傷ついている」と指摘した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、これらの医師の挙げる数字を独自に検証できてはおらず、民間人に死傷者が生じている事態に対し、リビア政府軍又は反政府武装勢力がどの程度責任を負うのかについても判断はできない。

4月3日と4日、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ベンガジで、負傷した民間人17人から聞き取り調査を行った。これらの民間人は、小型船でミスラタから避難してきていた際、銃、戦車、迫撃砲の砲撃によって負傷した。中には、当時の状況は民間人への意図的かつ無差別な攻撃だったとして傷跡を見せる人びともいた。但し、ヒューマン・ライツ・ウォッチはその証言を確認できてはいない。

リビア第3の都市で、30万人が暮らすミスラタは、リビア政府が陸路でのアクセスを1カ月以上にわたって遮断しており、3月下旬までは海路でのアクセスも断たれていた。そのため、ミスラタでの戦闘に関する情報は限られたままである。

リビアで適用される国際人道法によると、すべての紛争当事者は、民間人と民間施設を標的にしてはならず、また、民間人と戦闘員とを区別せずに攻撃することは許されない。兵士たちは、民間人の犠牲を最小限にとどめるために、居住地域を攻撃しないことや標的を軍事施設に絞ることを含め、実行可能なすべての予防措置を取る義務がある。

3月23日、政府軍が迫撃砲を発砲し、狙撃兵にミスラタ総合病院を標的とさせたため、医師らは避難を余儀なくされた。病院への2回にわたる攻撃のうちの1つに居合わせたエル・フォルティア(el-Fortia)医師は次のように語る(フォルティア医師の証言は、別の医師及びミスラタ市議会議員2人の証言により裏付けがとれた)。

その日、狙撃兵たちが総合病院に入る人びとを手当たり次第に撃ち殺していったんです。その時は、負傷者は何人か出たものの殺された人はでなかった。それからリビア保険(the Libyan Insurance Company)の建物から2回の迫撃があった。総合病院を直撃はしなかったものの、一発は病院のすぐ外、モスクから20メートルのところに、もう一発は病院のすぐ後ろに命中した。2発目の迫撃砲の破片で病院に食糧を運搬していたNoureddin Elgallyが死亡した。我々は総合病院から患者を避難させ、ミスラタの中心部から離れた場所に移したんです。

4月7日には総合病院に2発の迫撃砲が撃ち込まれ、そのうち1発が建物自体に命中。1発目は駐車場を直撃し、その破片が人びとが待っていた緊急外来玄関を破壊した。2発目は総合病院の建物に命中し、その破片で移動手術室が破壊されてしまった。当時避難後の診療所を警備していたMohamed el-Mugasabi(普段は病院の食堂に勤務していた)がこの攻撃により死亡した。

別の医師によると、4月7日の攻撃で病院に勤務していた約15人が負傷したとのことだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、病院は国際人道法(戦争法)で保護の対象とされており、意図的な攻撃は戦争犯罪に当たると指摘。たとえ病院が攻撃的軍事活動に利用されていたとしても、事前通告なしに標的にはできない。

2人の医師によれば、ミスラタ最大の病院はここ2年間工事中であったことから、ミスラタ総合病院ならびに他の私立病院が負傷者の治療にあたっている、という。

17人の民間人負傷者が、ヒューマン・ライツ・ウォッチに、自分が負傷した状況について語った。Abdullah Abushofer(26歳)によると、3月16日、リビア政府軍の戦車が近所のミスラタ地区ズワビで迫撃砲を発砲。彼は、近所に反政府兵士たちがいるとは思わない、と言う。弾丸と大口径の迫撃砲が自宅の裏に命中した。何事かと外に出た途端、砲弾の破片が彼の目を突き刺した。

Muhammad Bashir(42歳)がヒューマン・ライツ・ウォッチに語ったところによると、3月25日、政府軍の発砲と思われる迫撃砲が、ミスラタのアルジャジーラ地区の彼の自宅近くを直撃。自宅外にいた彼は、脚に重傷を負った。そこで戦闘は行なわれていなかった。Bashirは警察官で、戦闘に参加していなかった。彼は、小型船で避難する前に、脚の下部を切断した。

Khalid Ali(32歳)は3月29日、当時戦闘地域ではなかったガジーラ(Gzeer) 近隣の通りを歩いていた時、2発の銃弾を脚に受けた。

「病院に搬送してくれた人が僕に言っていたんだ。僕が歩いていた近くのサヌワヤット・エル・ヤルムク(Thanuwayat El-Yarmuk) 学校に、狙撃兵が待ち伏せしていたって。」

Jamal Muhammad Suaib(35歳)は、政府軍兵士の攻撃で家族3人を失ったと語る。3月17日、制服姿の兵士が家になだれ込んできて貴重品を盗み、また戻ると脅した。兵士が去った直後、Suaibの家族は街のより安全な地域に避難することを決めた。家族は3台の車に分かれて乗車。しかし、近所の通りを兵士がふさいでいる場所に突き当たった。兵士らは警告なしに3台の車に発砲を開始。Jamalの甥にあたるAisha Misbah Suaib(4歳)、弟のHamza Muhammad Suaib(22歳)、そして父Muhammad Suaib(63歳)の3人が殺された、という。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが生き残った家族たちの傷を見たところ、Jamalは脚を負傷し、妻のHanan Omar Suaib(21歳)は腕を負傷していた。そしてまだ8カ月の息子Muhammadは、顎が外れて金属の補助器具が必要な状態だった。

「妻は息子を抱いていました。弾丸は妻の腕に命中し、その後跳ね返って息子の顔にあたったんです。我々家族は武器など持っていませんでした。ただ安全な場所を探し求めていただけなのに。」

政府軍はミスラタにて、国際人権法に違反する行為を犯している。国際人権法は、戦闘中であっても適用されるとヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。

Hazma Muhammad Kariat(32歳)がヒューマン・ライツ・ウォッチに語ったことによれば、3月19日、彼は政府軍の戦車と兵士がミスラタに駐留する中、デモに参加していた。市民たちが「ムアンマルはいらない!」とリビアのムアンマル・カダフィ大佐の名前を出して合唱しながら、市の中心部に集まっていた。その時、トリポリ通りのデモ隊に向かって政府軍の戦車が突入し、戦車と兵士が発砲するのを見たとKariatは語る。

「それは悲惨な光景だった。僕は背後から狙撃兵に撃たれた。他の5人の負傷者と一緒に、救急車で搬送された。」Kariatはこの負傷ゆえ、下半身不随になっている。

Alnoman el-Fezzani(33歳)は3月21日、ミスラタの中心部のホールで行なわれた抗議集会に参加していた。「カダフィの軍が中心街に到着し、(リビア政府の)緑の旗を掲げた時、デモ隊みんながノーと叫んだ。ある青年がホールに独立旗を掲げると、狙撃兵が彼を撃ったんだ。」その直後、彼自身も脚を撃たれたと言う。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが行った聞き取り調査では、家族が行方不明になったと言う人びともおり、その中にはリビア政府に拘束されていると見られる事案もあった。ベンガジで聞き取り調査に応じたミスラタ地方議会議員の2人によると、政府軍が多くのミスラタ住民を拘束し、その多くが「行方不明」状態に置かれている、という。彼らは、地方議会は、この1ヶ月で約千人にのぼる行方不明者の氏名を記録しており、その大部分が若者だ、という。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、行方不明者の数やそのおかれた状況について確認をとるには至っていない。

地方議会の議員Muhammad el-Montaserは、3月15日前後、政府軍がミスラタで最も有名な医師Hussein Sherkisi氏を逮捕し、Sherkisi医師はその後音信不通状態に置かれている、と言う。

脚を一部切断したMuhammad Bashirがヒューマン・ライツ・ウォッチに語ったところによると、彼のいとこであるHani MuhammadとKhairy Muftahは、3月13日から行方不明になっている。政府がミスラタの電話網を切断する前の3月16日、Muhammadは母に電話をかけてきて、どこかは分からないが政府軍に拘束されていると告げた。その後家族は何の情報も得られていない。

脚を撃たれたKhalid Aliによると、彼の兄弟であるAbdusalam、Jabar、そして名前不明の3人は、3月24日以降行方不明となっている。彼らは午後1時にそろって自宅を出発したものの、以来音沙汰がない。

ミスラタ住民ではない人びとも、ミスラタ出身の男たちと一緒に、シルテの町で政府に拘束されていた、とヒューマン・ライツ・ウォッチに語った。シルテで11日間政府に拘束されていたある反政府軍の男性は、ミスラタ出身の男性13人とともに、3月21日政府の委員会によって拘束を解かれた、と語る。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ミスラタに届いている人道援助が非常に限られている実態についても懸念を表明。2月の第3週、ミスラタでデモ隊が政府治安部隊を排除し、これに対し政府軍が反政府勢力から都市奪還のために攻撃を加え始めた直後から、ミスラタへの救済支援が非常に制限されている。

リビア政府は、陸路による人道支援をすべてブロックしている。さらに、リビア政府海軍艦艇の港湾封鎖に対する多国籍軍の空爆があった3月下旬以降、海路でミスラタに届く人道支援物資も限られている。4月7日、世界食糧計画(WFP)のチャーター船が、800トンの人道支援物資を乗せて到着。4月9日には、赤十字国際委員会(ICRC)の救援物資をのせた船舶がミスラタに到着した。

国際人道法の下、紛争当事者は、中立な人道団体による民間人への人道支援を迅速かつ支障なく通過させることを許可し支援する義務を負う。

負傷者などの治療を必要とする民間人が、ミスラタから陸路で脱出できない状態が続いている。戦闘の継続や避難民を政府軍が拘束しているという情報が広がっているためである。緊急の医療を必要としている数百人が、国境なき医師団とトルコの組織IHHの用意した船で避難できたに留まっている。

ミスラタ地方議会の議員らによると、戦闘のためミスラタから脱出できないリビアの民間人に加え、推定6千人にのぼるエジプトおよびサハラ以南出身の出稼ぎ労働者たちが、3月初旬からミスラタ東岸に足止めされている、という。こうした移民たちにはいくつかのテントがあるものの、衛生状態が悪く水もない状態で、避難を渇望している。

「リビア政府は、出稼ぎ移民を含むミスラタ脱出を希望する民間人に対して、安全な脱出を許可すべきである。緊急の人道支援を必要とする人びとに、陸路および水路で人道支援を頻繁に届けることがきわめて重要である」と前出のウィットソンは述べた。

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