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(ワシントンDC)-中国政府の初の国家人権保護行動計画(2009年から2010年)は、施行から2年が経ち、行動計画期間は終了した。しかし、この期間中、市民的・政治的権利を保護するという行動計画を中国政府は守らなかった、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日述べた。

報告書「公約不履行:中国の国家人権行動計画に関する評価」(全67ページ)は、2年間の期間中、経済的・社会的権利の一部では進展が見られたものの、表現の自由・結社の自由・集会の自由への制約が強化された結果、国家人権行動計画の目標の多くが達成されなかったと結論づけた。本報告書は、重要な市民的・政治的権利が顕著に後退した実態を明らかにするとともに、行動計画で取り組むとされていた多くの課題について、問題が減るというより増えてしまった実態について詳述している。

「もしこの計画が断固として履行されていたら、そして政府が多数の人権侵害を容認していなかったら、中国の人権状況に真の改善が見られただろう。しかし、中国政府が人権行動計画を軽んじていたことは、中国政府が、この行動計画を中国国民の人権保護を進めるためではなく、PRの手段として使っていたに過ぎなかったことを明らかにした」とヒュー・ライツ・ウォッチのアジア局アドボカシーディレクター ソフィー・リチャードソンは語る。

中国政府は2009年4月、「2009年-10年の人権保護と進展」のための政策として国家人権行動計画を発表。 同計画には、経済的、社会的、文化的、市民的および政治的権利などの分野における政策目標とともに、中国政府の国際人権保護の責務や人権教育イニシアチブなども盛り込まれた。国務院新聞弁公室 (SCIO:State Council Information Office)および外務省は、53の指定政府省庁、政府系NGO、9つの調査研究機関に所属する研究者など、「広範囲の参加」を調整してこの人権行動計画を作ったとしている。

しかし、この2年間の人権行動計画の期間中、中国政府はさまざまな人権侵害をおかした。2009年から2010年にかけて中国政府が行った人権侵害を挙げると:

●  獄中のノーベル平和賞受賞者・劉曉波氏をはじめとする著名な反体制派活動家に、根拠のない国家機密関連法や「国家転覆」関係容疑で、長期の懲役刑を科し続けた
●  メディアやインターネットの自由に対する制約を強化した
●  弁護士、人権活動家、NGOに対する監視を強化した
●  ウィグル族及びチベット族に対する統制を拡大した
●  強制失踪やいわゆる「闇監獄」などの違法な秘密拘禁施設への恣意的拘禁を増大した

前出のリチャードソンは、「中国政府は、批判をかわすための計画ではなく、人権状況を実際に改善するための計画を作り、そして、実行する必要がある」と指摘。「中国政府の国際的な影響力が拡大するなか、国家人権行動計画の掲げた目標を有意義な形で果たすことができなかったことは、中国政府には国際基準を尊重する意思が本当にあるのかという疑念を深めるだけだろう。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチの本人権行動計画の評価の概要は以下のとおり:

国家人権行動計画の進展について

政府統計によると、中国政府は絶対的貧困人口を1978年以降、2億人以上削減。国家人権行動計画は、政府主導で進行中の貧困削減政策の継続も確約している。加えて政府は、経済と社会の発展に向け、来たる第12回5カ年計画の目標として「貧困軽減」を優先課題として明記した。生活水準の改善に向けた中国政府の努力は称賛に値する。しかし、全国総計の数字は現実からかけ離れることがあり、貧困と不平等は依然として中国の重大問題ではあることに変わりはない。

国家人権行動計画のうち達成されなかった事項

拷問
本行動計画は「拷問による自白の強要、並びに脅迫、誘惑、偽りその他違法な手段による証拠の収集を厳しく禁じる」としている。しかし、2009年-10年中、中国内で拘禁施設内の容疑者への拷問は頻繁に行われた。

違法拘禁
中国国家人権行動計画は、「国は法執行要員による違法拘禁を禁ずる。・・・違法拘禁・誤認拘禁・長期にわたる拘禁の責任者は取り調べを受け、責任が明らかになれば処罰される」としている。しかし、違法拘禁は2009年-10年にかけて広く行われた。この2年間、違法拘禁等の被害にあったのは、チベット高原全域で発生した2008年騒乱を受けて行われた恣意的拘禁の対象となった何千人ものチベット族や、2009年7月にウルムチ市で発生した民族暴動の際に強制失踪させられた多数のウィグル族イスラム教徒男性たち(子どもを含む)、いわゆる「闇監獄」(違法拘禁施設)に拘束された何千人もの一般市民など。

死刑
国家人権行動計画は、「死刑は厳しく制約され、慎重に適用されねばならない」としている。しかし、中国政府は処刑に関する年間統計の公表を拒否し続けている。しかし、死刑の乱用の防止メカニズムは十分機能していないことを示す証拠がある。

国際的な人権保護の責務を果たすこと、国際人権保護の分野での交流や協力を行うこと
国家人権保護計画は、中国政府が「加盟した国際人権条約上の責務を果たすとともに、国際人権保護分野での交流や協力に積極的に参加する」としている。しかしながら中国政府は、人権関連の国際機関との協力に依然として非協力的なままである。中国政府は、2008年3月にチベット高原全域で起きた抗議運動に関連した独立国際調査の求めを繰り返し拒否し、国連人権高等弁務官と国連特別報告者6名によるチベット訪問の求めについても承認しなかった。更に、2009年2月、国連人権理事会における初の普遍的定期的審査では、「中国で検閲は行われていない」「意見や見解を述べたことによって処罰された個人やメディアはない」など、事実に反する発言を行っている。

国家人権保護行動計画の怠慢
本人権行動計画は、中国の緊急の人権問題と比べればせいぜい2次的課題としかいえないような課題に多大な関心を払っている。たとえば、「2010年までに1人当たりのスポーツ施設面積を1.4平方メートルに増大する」「全般的な映画・ラジオ・TVのデジタル化促進」など。

その一方で、本人権行動計画は、中国内外の人権保護活動家が最優先で取り組むよう求めてきた重大な人権問題は取り上げていない。重要であるにもかかわらず取り上げられていない課題として、たとえば、中国の戸籍制度である戸口(フーコウ:hukou)問題、増え続ける財産権関連紛争に関係した人権侵害、近年ますます盛んになっている中国政府の発展途上国における外交・開発・投資活動に関係した人権問題などがある。

国家人権行動計画には多くの失敗や問題点があるものの、ヒューマン・ライツ・ウォッチは中国政府に対し、計画作りに関する対話を拡大するよう要請。同時に、目的達成に向け、国連特別報告者たちの専門的知見を活用することも提案した。そのため、まずは、本計画の目標達成の度合いについて評価する独立評価委員会を設立することや、行動計画を改定し、測定可能な基準やタイムラインの設定、計画がしっかり執行されているかどうかを定期的に評価して公表することなどを盛り込むことなどが必要である。

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