Palestinian Bedouin school children walk towards their tents on September 15, 2010 at their Bedouin camp outside the Israeli West Bank settlement of Ma'ale Adumin. Israel does not recognize the Bedouins’ property claims and has demolished homes and schools in the area.

© 2010 Getty Images

(エルサレム)-ヨルダン川西岸地区で、イスラエル政府はパレスチナ人住民から生活必需品へのアクセスを禁止する一方、ユダヤ人入植者には贅沢な設備を提供するなど、極めて差別的な政策を行っている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。本報告書は、イスラエルの合理的な安全保障上の理由など、何らの正当性のない具体的な差別的施策を指摘するととともに、国際法に従い入植地から撤退しパレスチナ人の権利を侵害する行為を止めるよう求めている。

同報告書「分断と不平等:パレスチナ被占領地におけるパレスチナ人の差別的処遇」(全166ページ)は、イスラエルが排他的に支配権を行使している広大なヨルダン川西岸地域で、2つの民族の住民に対して不平等な制統治政策を行っていることを明らかしている。 イスラエル人入植地の住民と、隣接するパレスチナ人コミュニティの住民への処遇を比較検討する事例研究を基礎に作成された同報告書は、米国やEU加盟国、入植地で活動する企業などに、差別的かつ国際法に違反するイスラエルの入植政策を支援しないよう求めている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの対外関係担当副代表キャロル・ボガートは、「パレスチナ人は、人種・民族・国籍のみを理由に、電気・水・学校も奪われ、道路を利用することも許されないという、制度的差別の下にある。その一方で、近隣に住むユダヤ人入植者は、国からのサービス全てを享受している」と語る。「イスラエル人入植者はますます豊かになり、かたやイスラエルの統治支配の下、パレスチナ人は、分断され不平等な処遇を受けるだけでなく、自分の土地や家から追い出されることもある。」

イスラエル政府は、パレスチナコミュニティを事実上居住出来ないようにして、住民を強制的に追い出すという差別的政策を取ってきた、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。イスラエルの排他的支配にある西岸地区内の「Cエリア」(西岸地区の60%を占める)、及びイスラエルが一方的に併合した東エルサレム、この2つの地域に住む世帯に対し、2009年6月に行われた調査によると、パレスチナ人住民の約31%が2000年以降強制退去させられているという。

ヒューマン・ライツ・ウォッチがCエリアと東エルサレムを調べた結果、いずれの地域においてもイスラエルは二重基準を用いた統治政策を取っていることが明らかとなった。ユダヤ人入植地の住民には生活向上のための金銭的支援とインフラを提供している一方で、パレスチナ人住民には、基本的サービスの供給を意図的に抑え、経済成長を阻害し、コミュニティに苛酷な条件を押し付けているのが実態だ。正当な目標のため特定個人に対してのみ制約を加えるどの対応をとるのではなく、人種・民族・国籍を基にコミュニティ全体の処遇に差異を付けることは、人権法上の差別禁止原則への違反である。

イスラエルの政策は、Cエリアと東エルサレムで暮らすパレスチナ人の日常生活を様々な点で支配している。今回ヒューマン・ライツ・ウォッチが明らかにした、パレスチナ人に対する差別には、例えば、入植事業を目的とした土地接収、道路使用禁止農地までの通行遮断、電気や水の供給拒否、住宅・学校・診療所・インフラの建設の不認可、家屋(コミュニティ全体に至ることもある)の取り壊しなどがある。このような措置はパレスチナ人村落の拡大を抑制するとともに、医療をほとんど受けられないままに住民を放置するなど、パレスチナ住民に大きな苦難を強いてきた。

それと対照的に、イスラエル政府は、パレスチナ人には事実上使用不可能な土地やその他の資源を利用して、Cエリアと東エルサレムのユダヤ人入植地拡大を推進する政策をとっている。イスラエル政府は入植者に対し、住宅・教育・特別道路のようなインフラへの資金援助をするなど、数々の奨励策を施している。こうした政策による便益は、入植地の持続的かつ急速な拡大につながり、入植者人口は東エルサレムを含めて1992年に約241,500人だったものが、2010年にはおよそ490,000人まで増大した。

前出のボガートは、「イスラエル政府は、不法入植地の『自然的拡大』のために奮闘する一方で、古くから存在するパレスチナ人コミュニティでは、自宅の増築を禁じ、そこで住めないようにするなど、生活を抑圧している」と語る。「イスラエルの入植地に関した政策は、平等とはかけ離れ、一般のパレスチナ人の生活に大きな障害をもたらしている。」

同報告書でヒューマン・ライツ・ウォッチが調査したパレスチナ人コミュニティの1つ、ジュベット・アルディブ(Jubbet al-Dhib)は、ベツレヘム南東に位置する人口160人の村で、1929年から存在する。この村には普通徒歩でしか行けない。舗装道路に繋がる唯一の道は、1.5kmの未舗装道路だからだ。また、ジュベット・アルディブには学校がないので、村の子どもは数キロ離れた他の村に歩いて通わなければならない。

この村には電気もない。イスラエルの送電線に繋げて欲しいという要請が多数寄せられてきたにもかかわらず、イスラエル当局はそれを拒んできたからだ。イスラエル当局は、村に太陽光発電による街灯を提供するという海外からの資金援助も拒否した。冷蔵庫がないため肉やミルクはその日の内に消費しなければならず、多くの場合住民は保存食品に頼っている。また、灯りはロウソクや灯油のランタンに頼る状態で、もしガソリンを入れられる余裕がある場合には小さな発電機が使われている。

ジュベット・アルディブからおよそ350m離れたところに、ユダヤ人の村スデ・バル(Sde Bar)がある。1997年に建設された同地区にはおよそ50人の住民のために舗装された道路がある。また、数百万ドルかけて建設された新しい高速道路「リーベルマン道」が、この場所からジュベット・アルディブのようなパレスチナ人の市町村を迂回して、エルサレムに繋がっている。また、スデ・バルには高等学校もあるが、ジュベット・アル-ディブの学生は通うことができない。入植地は閉鎖軍事エリアとして指定されていて、軍の特別許可がなければ立ち入り出来ないのだ。入植地であるスデ・バル村の住民は、冷蔵庫・電灯など通常のイスラエルの町にも設けられている設備を所有しているのに対し、ジュベット・アルディブ村のパレスチナ人が夜間できることといえば、自分の家からスデ・バル村の住民の家の灯りを見ることだけだ。

前出のボガートは、「イスラエル政府の支配下のパレスチナ人の子どもたちは、入植者の家の窓からもれる電気の光を見ながら、ロウソクの光で勉強することを強いられている」と語る。「パレスチナ人の子どもの学校教育を受ける権利を奪い、水や電気を与えないことが、安全保障に関わりがあるようなふりをするのはバカげている。」

パレスチナ人に対する「入植者専用」道路の通行禁止のように、パレスチナ人への差別的な処遇をイスラエル政府が明らかにしている場合もあるが、イスラエル政府は、そのほとんどについてパレスチナ人武装グループによる断続的な攻撃から、ユダヤ人入植者などのイスラエル人を保護するために、必要な手段であると強く主張してきた。しかし、パレスチナ人に対し事実上、家屋・学校・道路・水貯蔵タンクの建設を禁止しているといってよい大規模な不許可処分を、安全保障や治安を根拠に正当化することなどできるはずはない。

さらにイスラエル政府は、安全保障上の懸念への対応をするため、脅威をもたらすと見られる特定個人に対してのみ制約を加えるなどの調整をすることをせず、あたかも全てのパレスチナ人が人種的・民族的・国籍上の理由で、安全保障上の脅威をもたらしているかのような前提を基に対応してきた。しかし法律上の差別禁止は、このような大雑把な制約を禁じている。

前出のボガードは、「人種・民族・国籍のみを理由に、あるグループを他と差別して処遇することを正当化するような誤った理論を、世界は当の昔に捨て去っている」と指摘。「今こそイスラエル政府は、差別政策を終わりにし、同じ地域に住むユダヤ人よりもパレスチナ人を差別して扱うことを止めるべきだ。」

イスラエルの最高裁判所は、イスラエル国籍のパレスチナ人に対するいくつかの措置について、それが差別であることを理由にして違法という判決を出している。しかしながら、これまで西岸地区におけるイスラエルの施策が差別的だという申立ては数多くなされているものの、ヒューマン・ライツ・ウォッチはこの件について判断した裁判所を承知していない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、「イスラエルが露骨な差別的施策を採っている今、同国の入植による国際法違反に加担することを避けることこそが援助国の緊急課題になっている。イスラエルの支援国は、同政府が国際法上の義務を遵守するよう促す実効的手段を講ずるべきだ。」と述べた。

またヒューマン・ライツ・ウォッチは、「米国はイスラエルに年間27億5千万ドルの援助を提供しているが、イスラエルの入植地補助金(2003年に行われた調査で推定14億ドル)に相当する金額をイスラエルへの援助資金から削減するべきである」という勧告を改めて表明した。また今回の報告書は、米国の非課税団体が入植地に相当な寄付をしているという数多くの証拠をもとに、このような非課税措置が、差別禁止など国際法尊重の義務に沿ったものであるのかを検証するよう、米国に強く求めた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、イスラエル入植地生産物の主要市場であるEUに対してもいくつかの点を求めた。具体的には、まず、関税優遇措置を通じて同入植地からの輸出誘導を行わないよう確約すること、そしてパレスチナ人への差別によって商品生産が潤っているケースを特定することだ。例えば今回の報告書は、イスラエルが掘った井戸の水を使って入植地からの輸出農作物を生産してきたことが、近くのパレスチナ人の井戸を枯渇させるに至った実態を取りまとめている。

同報告書はまた、パレスチナ人への差別を助長し、あるいはこのような差別から直接利益を得ている企業についても述べている。例えば入植者の利益のためにパレスチナ人から補償もないまま違法に没収した土地で、商業活動を行っている企業の例などを挙げている。これらの企業は同時に、イスラエル政府から助成金、減税、インフラの特権的利用・許可・輸出経路利用による便益も得ている。ヒューマン・ライツ・ウォッチはこのような企業に、差別的なイスラエルの施策と切り離すことのできないあらゆる経済活動を止めることなど、違法行為の調査、防止、軽減を求めた。

「西岸地区で日常的に行われている差別は、誰がみても常軌を逸したものである。」とボガート述べた。「イスラエルの違法な施策に関与する危険性がある諸外国政府や企業は、差別的な施策を支援している政策や活動を特定し、それを止めるべきである。」