Protestors on July 27, 2004, near the headquarters in Témara (outside Rabat) of the General Direction of the Surveillance of the Territory (DGST), who they accused of allegedly having a secret detention centre and of allegedly torturing persons arrested under the counterterrorism law.

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(ラバト)-ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で、モロッコの対テロ法により逮捕された容疑者たちは、公正な裁判を受ける権利を侵害され、多くが深刻な人権侵害に直面している、と述べた。

報告書「モロッコ:対テロ法のもとでの違法拘禁の実態」(全56ページ)は、モロッコの対テロ法のもとで起きている人権侵害のパターンを実証している。同法は、2003年5月16日のカサブランカで起きた組織的な自爆テロ(45名の犠牲者を出した)の12日後に導入された。報告書で取りまとめた人権侵害の多くは、拷問と違法拘禁を予防すべくモロッコがセーフガードとして導入した先進的な法律に違反しているほか、モロッコが署名している複数の国際条約にも違反している、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べている。

本報告書は、2007年から2010年の間に対テロ法によって拘禁された人びと、および、その親族の証言などに基づいて作成された。また、モロッコ政府からの回答も掲載している(ヒューマン・ライツ・ウォッチは本回答を歓迎する)。

「モロッコは進んだ人権保護法を導入する政治的意思を明らかにした一方、それをテロ容疑者にも適用し施行しようとする政治的意思には欠けている」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東・北アフリカ局長のサラ・リー・ウィットソンは語る。

人権侵害はパターン化している。それは、容疑者の身柄拘束で始まる。私服の機関員は身分を明かさず、逮捕理由も説明しないまま、容疑者を目隠しし、秘密の拘置所に移送する。容疑者は多くの場合、警察留置所(罪状認否手続き前の拘禁施設)に、法で定める最長12日間の拘束期間を越えて拘束される。しかも拘束された者の多くは、拘束中に拷問もしくは虐待を受けたと訴えている。当局は後に容疑者を警察に移送し、そこで警察官が調書に署名を求める。ほとんどの容疑者は、弁護士との最初の面会や、家族への居所に関する告知は、その署名の後だった、とする。こうした告知が、逮捕されて4週間もしくは5週間が経過した後だった場合もある。

逮捕の執行の際、執行担当者が、警察官であるとの身分証明を行わないことは、深刻な問題である。というのも、容疑者やその家族が一様に、逮捕したのは国内情報機関であるDirection Générale de la Surveillance du Territoireの機関員だと、強く主張しているからだ。モロッコ法では、人びとを逮捕し警察留置所に入れる法的権限も持つのは司法警察のみである。

容疑者たちの証言はみな共通している。逮捕を行った機関員に、ナンバープレートのない車に乗せられ、目隠しをされ、ラバト郊外のテマラ(Témara)の情報機関本部内かその近くにあると考えられる拘禁施設に連行された、というのだ。一方で、当局はそのような施設の存在を否定している。

モロッコ法は、司法省の正式な管理下以外の場所(情報機関本部を含む)に、人びとを拘禁することを禁じている。また法律は、警察に、拘束後直ちに家族に通知することを義務付けている。しかし、その義務を当局は組織的に無視している、と容疑者と家族たちは話す。

例えば、ブラヒム・ラージャウリ(Brahim Lahjouli)はヒューマン・ライツ・ウォッチに、機関員が2010年3月30日にカサブランカで、弟のアブデルラヒームが逮捕されたときのことをこう語る。弟は、複数の目撃者がいる前で逮捕されたが、家族は、5月7日に彼が刑務所にいることが判明するまで、彼の居場所は不明だったと語る。アブデルラヒーム・ラージャウリ(Abderrahim Lahjouli)は、正規の警察署に移される前にテマラで4週間過ごしたと、後に家族に話している。

本報告書は、テロリストのネットワークを構成しそれに資金提供するために一般犯罪を行った容疑で、現在長期の刑に服している「ベリラジ(Belliraj)事件」の被告人たちの事案についても詳しく述べている。被告人の男性たちは2008年初めに逮捕され、数週間秘密拘禁された。その家族は当該グループの解体を報じる新聞記事で、彼らの居所をようやく知った。

法律で認められた期限を越えて警察に留置されている依頼人を弁護するモロッコ人弁護士たちは、秘密拘禁に費やした期間を隠すため、警察は逮捕の日付を遅らせて記録することが多い、と語る。これらの手続き違反を弁護側が主張しても、裁判所が、容疑者の「自白」に信頼性はないと判断することはほとんどない。それどころか多くの事件で、こうした「自白」が、容疑者が有罪とされる際の主な証拠になってしまっている。

「モロッコ法は、暴力や強要で得た自白を排除するよう、法廷に義務付けている」とウィットソンは述べる。「しかし、それが対テロ法になると、裁判所は、自白の際の強要の状況や、時に拷問までも、見て見ぬふりをする。」

ヒューマン・ライツ・ウォッチが提起した問題に対するモロッコ政府の回答は以下のとおり(全文は報告書の別表4)。

  • 報告書が取り上げている2010年に逮捕された7人のテロリスト容疑者は、実際には、司法警察によって4月26日に逮捕され、法律で認められている期間内の5月6日に捜査判事に引き渡されている。警察は、警察記録に示しているように、容疑者を検事総長監視下の合法的な場所に拘禁し、期日通りに拘禁の事実をそれぞれの家族に知らせている。
  • 被拘禁者は、警察留置に拘束された4日目以降、弁護士を依頼する法的権利を有してはいるものの、警察には弁護士へのアクセスを提供する義務はない。
  • 警察が作成した供述調書に、何人かのテロリスト容疑者が署名を拒否している事実は、強要がなかったことを示している。また、法律にのっとって、裁判所は警察の調書を、署名されているか否かに関わりなく、証拠ではない単なる「参考文献」として取り扱っている。暴力もしくは強要によって得たれたことが分かれば、それは否認されなければならない。
  • 容疑者がヒューマン・ライツ・ウォッチに述べた、拷問されたという供述は、容疑者が検事総長もしくは捜査判事にそのような異議申し立てを行う機会を有していたにもかかわらず、しなかったものであることから、信頼できないものである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは10月18日に受け取った政府の回答に対する、全面的な反論を準備中であるが、とりいそぎ、以下のように指摘している。

  • 容疑者は正式な拘留日付の数日、ときには数週間前に逮捕されているとの説明は、多くの場合目撃者の証言によって裏付けられており、その一貫性と詳細さから信用できるものである。家族の多くが警察署および検察官事務所を訪れて親族について尋ねたり失踪届けを提出しているにもかかわらず、当局が数日もしくは数週間、自分たちに知らせなかったという家族の主張は、同様に信頼できるものである。
  • 全員ではないにしても、ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書が取り上げている被拘束者のほとんどは、警察調書に署名した後に初めて弁護士に接見している。従って、多くの被拘束者は拘束後、2週間以上たってからの接見である。少なくとも1名の容疑者(弁護士の息子)はヒューマン・ライツ・ウォッチに、警察へ弁護士との接見を要請したが回答は無かった、と述べている。当局が秘密隔離拘置所にいる人びとを尋問するシステムや、大部分の被拘禁者が警察調書に署名して初めて弁護士に接見するシステムは、実務上、容疑者が弁護士に迅速にアクセスする権利を確保するとしている国際基準を満たしていない。
  • 一部の被拘禁者は、調書を読まずに署名をするよう警察は脅迫した、と語っている。選択の余地がないと思ったから、あるいは、疲れ果てたから署名をした、と述べた被拘禁者もいた。更に、容疑者が秘密隔離拘置所に数日あるいは数週間も入れられ、弁護士にも接見せず、拷問若しくは虐待されている可能性がある場合、署名が自主的であるかは疑問が残る。しかも、政府の主張とは裏腹に、これらの調書が主要な証拠を提供し、それに基づいて裁判所は対テロ法のもと多くの容疑者に有罪判決を下している、と被告側弁護士は言っている。
  • ヒューマン・ライツ・ウォッチは、今も捜査判事の手元にある事件に関する裁判書類を入手することができない。これらの書類は、被拘禁者もしくはその弁護士が、取調べの際に拷問や虐待を受けたと訴えたかを知るための資料となるものである。幾つかのケースでは、弁護士がヒューマン・ライツ・ウォッチに、そのような訴えを捜査判事に指摘し、審理記録にはその訴えが記録されている、と述べている。結審された裁判事案のなかで、裁判所が審理記録に記載するにとどまらず、申立について調査したり、被告人の「自白」を排除したという事案は、ヒューマン・ライツ・ウォッチの知るかぎり存在しない。被告側弁護士は、拷問の存否を調べるための医療的検証を申し立てる法的権利は存在するものの、拷問の跡が消えてしまうほど時間が経過してしまうため、そうした申立にはあまり意味がない、と語っていた。

背景

4年近く前、モハメッド6世国王は、過去数十年間に政府が「失踪」や他の重大な人権侵害を行った事実を認めるとともに、補償を行うとする画期的な報告書を出した真実委員会であるモロッコの公平と和解委員会 (Equity and Reconciliation Commission: ERC) の最終報告書を承認。更に注目すべきことに、同委員会は政府に対し、将来の人権侵害を防止し、起きた場合それを処罰するよう勧告した。しかし、その勧告の多くは実行に移されていない。

かつては、国の機関員に拉致された数百名の人びとは、永遠に「失踪」し、死亡したと推測されていた。現在では、「拉致された」人びとは遅くとも数週間以内にその拘束が判明するのがパタンーン化している。

人権侵害そのものは従来ほど深刻ではないかもしれない。しかし、治安部隊による法律の軽視は依然甚だしい。そのような違法行為による被害者の多くが、不公正な裁判を受け、現在、長期刑に服している。モロッコ当局は、容疑者の逮捕と拘禁に関する法律に違反した実務が行われているという信頼性ある申し立てが繰り返し行われてきたにも拘わらず、その捜査をほとんど行っていないほか、こうした行為をなくし、その犯人の責任を問うこともしていない。

「モロッコには人権侵害から守る強力な法律がたくさんある。しかし、こうした法律を、違法逮捕や秘密拘禁を止めさせるために適用していない。その結果、法の支配をないがしろにしているのみならず、公平と和解委員会の貴重な活動も台無しにしている」とウィットソンは語る。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは政府に以下のように勧告した。

  • 国の機関員が人を拘束する場合には、逮捕権限のある機関に属することの証明書を被逮捕者に示すとともに、逮捕の根拠を明らかにすることを徹底すること。
  • 警察などの国家機関関係者が、容疑者を正式な拘禁施設以外に短期間でも拘束した可能性があるという証拠がある場合、秘密に、もしくは違法に警察留置での拘禁を延長した事実を隠ぺいするために逮捕日を意図的に改ざんして記録した証拠がある場合、容疑者の弁護士への接見を拒んだ証拠がある場合、法廷の時間制限内に容疑者を裁判官に面接させなかった証拠がある場合には、必ず調査を開始することとし、もって、警察留置施設に関する全てのモロッコ法の順守を確保すること。
  • 逮捕を執行した当局者が、刑事訴訟手続法第67条の定めに従い家族に逮捕の事実及び容疑者の所在を速やかに通知する義務を怠った場合、責任を問うこと。
  • 国内NGOおよび国際人権NGOに対し、テマラの拘束施設はもちろん、すべての拘束施設に訪問することを認めること。