King Abdullah and Crown Prince Sultan with Saudi women in the southwestern city of Najran.

© 2010 AFP/Getty Images

(ニューヨーク) -「改革」を遂行中のサウジアラビアのアブドッラー国王は、単なる象徴的な改革ではなく、意味のある制度改革を実行すべきである、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、また、アブドッラー国王は国民の受益を持続的にするためにも約束を法制度化するべきであると述べた。

報告書「サウジアラビア:改革の手綱緩く、不透明な成果」(全52ページ)は、アブドッラー国王が5年間にわたり行なったサウジアラビアでの改革を、人権の観点から検討した報告書。改革は、多様な意見により寛容な社会、そして、女性の社会的役割の拡大をうたっている。しかし、国王の取り組みは概して象徴的なものにとどまっており、具体的な進歩や権利の制度的保証が実現したのはわずかである実態を、この報告書は明らかにしている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの中東上級調査員クリストフ・ヴィルケは「現状では、アブドッラー王の改革に対する熱意が薄れたり後継者がより保守的な道を歩めば、アブドッラー国王の改革は、ただつかの間の新風を吹かせただけだった、制度改革は何ら残っていない、ということになりかねない」と述べる。

米国を標的にした2001年9月11日同時多発攻撃や、2003年と2004年にサウジアラビア国内で欧米人とサウジ人が標的にされた攻撃を受け、サウジアラビア政府が国内問題に目をむけて長年の課題に取り組み改革に乗り出したことは、アブドッラー国王の指導力の賜物である。

アブドッラー王は、サウジアラビアの国家機構をより効率化するとともに、ある程度透明化させるための改革を行なうという考え方を推進。女性や宗教的少数派が置かれた従属的な地位について、一定程度、公けの再検討を行なうことを奨励するとともに、メディアによる活発な議論や討議を容認し、司法の公平性を促進してきた。しかし、これらの措置は変化を促す雰囲気を生み出してはきたものの、法制化や執行を伴っていないほか、不履行に対する責任追及(説明責任)も伴っていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘する。

サウジアラビアで新たに認められた自由のほとんどは、広範囲ではないし、また、確固たる基盤もない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは語る。宗教権威者は保守的な立場にたっており、エリート層はまだ試みを続けている状態で、目指すべき政府や社会の形を定められていない。

改革について、そのペースと範囲についての議論が繰り返されているとヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。リベラルな改革派は、憲法、選挙に基づく議会、女性と宗教的少数派の平等、表現の自由を求めている。保守派(主に聖職者や宗教関係者)は、司法、教育、イスラム実務、公衆道徳の取締りへの自らの影響力を維持するため現状維持を求めている。

政党、集会、組織的ストライキの禁止を執行する治安当局も改革に対する抵抗勢力となっている。また、治安当局は、人権侵害を犯した身内の治安機関関係者に対する責任追及を阻んでいる。

アブドッラー国王は、女性と宗教的少数派に対する差別を根絶するために法整備を主導し、言論の自由を制度化する必要がある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。重要な最初のステップは、(この国にはない)刑法を制定するとともに、その刑法に人権保護条項も組み入れるよう確保することだ。

本報告書はまた、アブドッラー国王の支配下のサウジアラビア人女性たちにとってささやかではあるが最も具体的な成果として、女性が男性の後見人なしにホテルに滞在できるよう許可した2008年の政策変更と、女性が「彼女たちの特徴に適した」すべての分野で職業に就けるとした2005年の労働法改正などを挙げている。一方、今や女性は大学で法律を学べるようになったものの、未だに法曹として裁判所で実務を行なうことはできないなどの制限がある。

サウジアラビアでは女性に対する構造的な差別が存続しているとヒューマン・ライツ・ウォッチは語る。後見制度の下、女性には未だ成年としての法的地位が与えられておらず、結婚、教育、雇用、医療行為の一部、旅行などについて男性後見人の同意なしに基本的な意思決定をすることが許されていない。サウジアラビア政府は、この後見制度を廃止すると約束したのに、これを果たしていない。

「働きに出る女性が増えている」と、前出のヴィルケは語る。「しかし、彼女たちは、未だに男性親族の同意なしには働くことが許されていない。」

サウジアラビア当局は政府に対する公の批判により寛容になってきているものの、表現の自由を保証する制度改革は全く行なわれていない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。サウジアラビアのメディアは、宗教警察による人権侵害について報道し、以前はタブー視されてきた家庭内暴力などの話題についても報道をし始めている。しかし、未だに越えられない一線は残っている。政府は編集者の任命権を握っており、王室や政府の政策、高位の聖職者を批判する人びとへの弾圧を続けている。

サウジアラビア政府は2007年に司法改革を開始。専門裁判所の設置を義務付けたり、法律家の研修に数十億リヤルの予算を割り当てる法律の導入などが内容だ。しかし、設立が予定されていた専門裁判所のうち、商業裁判所、労働裁判所、家庭裁判所、犯罪裁判所、交通裁判所はまだ設立されていない。そして、性急な訓練を受けただけの新任裁判官は批判の対象となっており、経験を積んだサウジアラビアの裁判官さえも批判を浴びせている。

また、サウジアラビアにはまだ刑法がないため、何が犯罪を構成する行為に当たるかの決定権がほぼすべて裁判官にゆだねられている。たとえば、裁判官たちは、「魔術」を理由に人びとを投獄する判断を続けてきた。

宗教的寛容の制度化についてはまったく成果が上がっていないと、ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べる。国王は2003年、宗教的過激主義と宗教的寛容などのセンシティブな問題に関し、様々な意見を持つサウジアラビア人を集めて議論する国民対話シリーズを開始。2008年には、国王の奨励に応じてムスリム世界連盟が、メッカで諸宗教間対話会議を開始し、この会議はスペイン、国連、スイスにて継続された。いずれの対話においても、サウジアラビア王国内の宗教的少数派の権利を向上させるための解決策は示されなかった。

「国王がスペインのマドリードでラビたちを迎えている間にも、サウジアラビアの地元当局は家でお祈りをしているシーア派サウジアラビア人たちを逮捕している」と前出のヴィルケは語る。

サウジアラビアの人口の約3分の1を占める移住労働者たちは、在留資格の保持が、保証人たる雇用者に雇用される場合に制限される「保証人」制度のため、自由の束縛に苦しみ続けている。2007年の労働規則は、移民に対し、1年の経過の後、新しい雇用者に転職することを認めたものの、雇用者がこれに同意することが条件とされていた。そして2010年、政府は、その期間を2年間に延長。移民たちは保証人の同意なしにはサウジアラビアを離国できない。

1980年代、サウジアラビア社会では反動的措置が取られ、政府の同意の下、権利の享受に影響を及ぼしてきた。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、この時代は、将来の政府が限られた国民の権利を容易に無に帰することができないようにするため、法改正と制度改革を行う政治的意思が不可欠であることを改めて想起させる時代であった、と語る。

「サウジアラビア政府は、国民より政府のほうが進歩的であると繰り返し主張しているが、それが政府の怠惰の言い訳であってはならない」と、前出のヴィルケは述べる。 「政府の役割は、保守側の人びとだけでなくすべての国民の権利を守るために、国民を導いていくことにある。」

アブドッラー王に対するヒューマン・ライツ・ウォッチの主な提言・勧告

法制定の提言・勧告
・女性に対する男性後見人制度を廃止し、労働の問題を含め、男女平等を積極的に認めて定着させる法律の導入

・移民労働者に対する保証人制度、特に転職と出国ビザを得るために雇用主の同意が必要であるという条件を廃止する法律の導入

・予見可能かつ非恣意的であることを義務付ける国際人権法に基づき、刑法および身分法を成文化すること

・早期結婚などジェンダーによる暴力から少女・女性を保護する法律の導入

・国際人権法に基づき、市民社会組織の設立に関する法制度をつくること

・家庭内労働者にも平等に労働者保護を拡大する法律の導入

法の執行に関する提言・勧告
・すべての関係団体に、自動車の運転や雇用を含め、成人女性は男性の後見人を必要としないと指導して女性の平等権を実現すること

・過日可決された刑事被告人に対する無償の弁護に関する条項を含む刑事訴訟法と弁護士法における公平な裁判に関する条項の執行

・女性本人が法廷に立つ権利を保証するとともに女性に対しても無償の弁護を確保し、もって、女性の司法及び裁判所へのアクセスを確保すること

・特にシーア派の人口が多い地域で、イスラム教礼拝施設モスクとhusseiniyyas(シーア派宗教センター)の建設および維持の自由、宗教文書の印刷・輸入・配布の自由、そして宗教的祝典の公の場での開催の自由など、シーア派の人びとの礼拝の自由の実現
・治安機関・閣僚・地方及びシューラー評議会・陸軍士官学校などにおけるシーア派の人びとの雇用の平等と、高等教育機関へのアクセスの平等の実現

責任追及(アカウンタビリティ)に関する提言・勧告
・表現の自由などの保護された権利を行使しただけの人びとに対し恣意的逮捕や拘束を命じた治安機関関係者及び拘禁施設で虐待を行なった治安機関関係者に対する責任追及

・適正手続きの権利と表現・集会・結社および宗教の自由の権利の行使に関するサウジアラビア法および国際人権法を無視した裁判官に対する責任追及

・ジェンダー、宗教、国籍、社会的出自による差別を行なった政府当局者に対する責任追及

・移民労働者のパスポートを没収し、給料を支払わず、家庭内労働者を閉じ込めるなど、サウジアラビア法に違反した雇用主の責任追及