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イスラエル/ガザ地区:ガザ紛争の調査 不十分

各国政府と国連は、法の裁きの実現への支持を

(ニュ-ヨーク)-過去18カ月間で行なわれたイスラエル軍によるガザ紛争調査は、一定の成果を上げたものの、戦時中における広範囲に及ぶ重大な違法行為疑惑の解明にはほど遠いと、本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。一方で、ハマスは、しっかりした調査を何ら行っていないとも指摘した。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、各国政府と国連に対し、ガザ侵攻に関する信頼に足る独立した調査の実施に向けたイスラエル政府とハマスへの圧力をさらに強めるよう求めた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東・北アフリカ局長のサラ・リー・ウィットソンは、「調査を求める国際圧力の結果、ハマスはともかくとして、イスラエル政府にある程度の対応をとらせるに至った。しかし、国際的圧力を減じてはならない」と述べる。「紛争の双方の被害者に、法の正義が保障されるべきである。」

2010年7月、イスラエル政府は最新のガザ調査報告を潘基文国連事務総長に提出、「大きな成果を上げた」と主張した。ヨルダン川西岸当局(ファタハ)もまた、事務総長に報告書を提出したが、その内容は現在も公表されていない。ハマスについても自ら実施した調査報告を準備したとの情報があるが、報告書を発表してはいない。国連事務総長は、イスラエル政府と西岸当局からの報告書を、数週間内に国連総会に提出する見込み。

前出のウィットソンは、「潘事務総長は、両陣営の報告書の内容をしっかり査定すべきだ。単に報告書を国連総会に回付するだけでは不十分だ」と述べる。

南アフリカのリチャード・ゴールドストーン判事率いる「ガザ紛争に関する国連事実調査団」が調査して取りまとめた、国際人権/人道法に対する重大な違反に関し、国連総会は、今年2月、再度、イスラエルとハマスに徹底的かつ公平な調査を行うよう求めた。ゴールドストン報告書は、イスラエル政府とハマス双方が、戦争犯罪を犯したと結論づけるとともに、人道に対する罪に該当する可能性もあると指摘している。

2008年12月~2009年1月に行なわれたガザ侵攻の際、ハマスは、イスラエルの都市や町に対し、無差別のロケット弾攻撃を何百回ともなく意図的に行った。こうした攻撃は戦争犯罪に当たるが、ハマス当局はそれを指示または実行した個人の捜査を全く行っておらず、結果として一人も処罰されていない。ガザ地区で5月14日に行われたヒューマン・ライツ・ウォッチとの会談で、ハマスは、紛争時の人権侵害について調査中であると語ったが、詳細は明らかにしていない。

その時の会談でヒューマン・ライツ・ウォッチは、戦時国際法(戦争法)違反及び人権法違反に関する調査をハマスが行なっていないことに対する懸念を改めて表明。イスラエルの人口密集地域へのロケット弾攻撃や、イスラエル兵捕虜ギルアド・シャリート軍曹の隔離拘禁の継続、刑務所におけるガザ住民に対する虐待疑惑などを指摘した。ハマスは、ヒューマン・ライツ・ウォッチによるガザ中央刑務所のパレスチナ人被拘禁者への訪問は認めたものの、シャリート軍曹への面会や、拷問疑惑のある収容施設への立入りは拒否した。

7月21日、イスラエル政府は国連事務総長に提出したガザ紛争に関する調査の報告書を公表。調査はすべてイスラエル軍(IDF)によって行なわれており、国際社会の要求した独立した調査とはなっていない。

イスラエル軍による調査報告には、深刻な人権侵害のケースの多くや、一般市民の犠牲者を出す原因となった政策・戦略に関する調査が欠落している。

今日に至るまで、イスラエル軍事法廷が有罪判決を下したのはたった1名の兵士にすぎず、その容疑はクレジットカード窃盗。その他には、兵士2名が、爆発物の仕込まれた疑いのあるバッグを子どもに開けさせた容疑で裁判中だ。最近になって3番目の兵士が、白旗を掲げながら歩いていたグループ内の一般市民1名を射殺した容疑で起訴されている。

イスラエル政府は、軍は150件以上を調査したというが、そのうち100件以上の調査が「作戦任務報告」(ヘブライ語でtahkir mivza'i)にすぎなかった。つまり、犯罪捜査というよりはむしろ、指揮官がイスラエル軍兵士から作戦に関する事後の聞き取り調査を行ったという類のもので、パレスチナ人被害者や目撃者の証言の聞き取りは行われていない。

「作戦任務報告」は、軍戦略には有意義かもしれないが、刑事犯罪に対する公正かつ徹底的な調査の代わりにはならない。

イスラエル軍の軍事法務官(military advocate general)もまた、47つの事件について刑事捜査を実施。この捜査では、軍事捜査官が証人を喚問し、証拠をより広範囲に検証している。しかし、そのうち少なくとも7件については、訴追もなく打ち切られている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、打ち切られたケースから少なくとも2件を調査。戦時国際法違反のあったことを強く示唆する証拠を突き止めた。ひとつは2009年1月7日に、イスラエル兵士1名が白旗を掲げたジャバルヤ東部のアブド・ラボ家の女性2人と子供3人に発砲した事件。少女ふたりが殺され、祖母ともうひとりの少女が負傷した。軍によると、事件捜査を打ち切った理由は「刑事訴訟手続きを開始するには証拠不十分」とのこと。

ふたつめの事件は、同年1月13日にクーザアで白旗を掲げていたラウィヤ・アル・ナジャール(47)さんが殺害された事件。軍は流れ弾に当ったと結論づけた。しかし、ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査を行なった目撃者5名の証言はこれと異なる。証人たちは、「ラウィヤさんの頭部に銃弾が当たった後も、イスラエル兵は発砲を続け、女性たちが彼女の遺体を回収するのを妨害し、ジャスミン・アル・ナジャール(23)さんにけがを負わせた」と証言。また、同じく白旗を掲げていたマフムード・アル・ナジャールさんも同日遅く、ラウィヤさんの遺体に近づこうとしたところを射殺されている。

その他にも、軍の調査により、軽度の違反行為に適用される懲戒処分(詳細は不明)が氏名不詳の指揮官と兵士5名に適用された。また、作戦命令に違反して、爆発物を市街地で使用するよう命令したかどで、准将1名と大佐1名が懲戒処分を受け、指揮下にあった兵士らが軍事的任務の遂行に一般市民を使ったという理由で、中尉1名も懲戒処分を受けている。

1月3日にジャバルヤ難民キャンプ内のイブラヒム・アル・マカデマ・モスクのすぐ外で攻撃があり、モスク内にいた一般市民のうち少なくとも10名と、モスクの外にいたハマス軍事部門のメンバー2名が殺害された。それに関連して、「不適切な判断」を下したという理由で、階級不詳の士官1名が戒告処分(reprimand)を、他2名が懲戒処分を受けている。また、2009年7月に公表された軍による内部調査の改訂版は、器物損壊により、兵士1名が現場で指揮官から懲戒処分を受けたことを明らかにしている。軍の調査官はヒューマン・ライツ・ウォッチに、それは「植物を引き抜いた事件」と伝えていた。

将来の軍事行動の際には一般市民や民間財産に対する被害を抑えるよう、作戦上の変更を行なっているとイスラエル政府は主張している。7月に発表された前述の報告書によれば、軍は大隊およびそれ以上の各部隊に、人道担当士官1名を配属したとしている。2009年10月には、新たな「軍事目的のための民間財産破壊に関する服務規程」を導入し、どのような環境下ならば軍による民間建造物と農業用インフラの破壊が許容されるのかについて明文化している。

同報告書はまた、重篤な火傷及び深刻な民間建築物火災を引き起こす白リン弾の使用に関して、新たな軍規を設けたとしている。同時に、「市街地における白リン弾の使用に関する恒久的制限も設けつつある」という。

前出のウィンストンは、「イスラエルがその政策、とりわけ民間財産破壊と白リン弾使用に関して、変更の必要があると認めたのは前進である。しかし、こうした改定が国際法に沿ったものであるということを公けの場で明らかにして担保すべきだ。」

イスラエル政府は当初、ガザ紛争の際に白リン弾を使用したことについて否定していた。しかし数々の証拠ゆえに否定できなくなった結果、その使用をしぶしぶながら認め、調査を開始。ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書は、イスラエル軍が繰り返し白リン弾を人口密集地上空で使用した実態について明らかにした。白リン弾を使用により一般市民が死傷し、学校、市場、人道支援物資保管倉庫、病院といった民間財産が損害を受けた。

ヒューマン・ライツ・ウォッチによる別の報告書は、イスラエル軍が軍事上の合法的な正当性がないにもかかわらず、民間建造物189棟を故意に破壊したことを指摘。これは、「理不尽な破壊」(wanton destruction)(軍事的必要性によって正当化されない民間財産のはなはだしい破壊の意)という戦争犯罪に値する可能性がある。同報告書はガザ地区における民間財産破壊のおおよそ5%を調査した。

さまざまな国連関連機関が、イスラエル政府とハマスが主導する戦後調査を監視している。国連総会は、事務総長報告を受けてこれを取り上げると見られる。国連人権理事会では専門家委員会が、イスラエル政府とハマスによる調査が国際的な基準を満たしているか否かについて査定している。結果報告は9月に発表されるとみられている。

前出のウィットソンは、「ますます多くの国々がハマスとイスラエル政府の双方にアカウンタビリティ(原因究明・責任追及)を求めた結果、その圧力は成果を上げつつある」と述べた。「すべての欧州諸国並びに米国とカナダは、自らがこれまで他国に要求してきたのと同様のルールを、今こそイスラエルとハマスにも要求すべき時がきた。つまりそれは、戦争犯罪の責任者がその罪を問われ、被害者が法の正義(法の裁き)と賠償を受けるということを意味する。」

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