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(ニューヨーク)- バッシャール・アサド大統領の就任10周年前夜の本日、ヒューマン・ライツ・ウォッチは報告書を発表、同大統領はこの10年間、「社会の自由や人権状況の改善」という約束を実行しなかった、と述べた。

報告書「失われた10年:アサド政権下のシリアにおける人権状況」(全35ページ)は、アサド政権最初の10年における人権状況を調査し、次の5つの主要分野にわけて検証している:政治及び人権活動に対する弾圧、表現の自由の制限、拷問、クルド人の処遇、過去の強制失踪問題への対応。これらの検証の結論は、大変遺憾なものである。


ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東局長のサラ・リー・ウィットソンは、「(権力に就いた当初)アサド大統領は改革者を目指していた。が、結局、堅固な守旧勢力に改革遂行を妨害されたのか、あるいは批判に耳を貸さない他の多くのアラブ諸国の指導者の仲間入りをしたのか、改革は成されなかった。シリアの人びとには、この10年間、相変わらずその自由や権利が全く保証されないままだ」と述べる。「政権発足から10年。しかし、アサド大統領は事実上、人権状況の改善に全く取り組んでこなかった。」


2000年7月17日の就任演説でアサド大統領は、「創造的思考」、「透明性」、「民主主義」の必要性について言明。しかし、こうした「寛容」の理想は長くは続かず、直にシリアの刑務所は政治犯、ジャーナリスト、人権保護活動家で一杯になった。最近の例としてここ3週間だけでも、2人の著名な人権弁護士が、3年の刑に処せられた。投獄されたのはヘイザム・アル・マレー弁護士(78歳)とムハナド・アル・ハサニ弁護士(42歳)で、同国内の人権状況を批判したという罪状だ。


シリアの人々の恐怖の対象である情報機関ムハバラートは、逮捕状なしでの拘禁や拷問に手を染めても、全く罪に問われない。2008年7月5日に始まったセドナヤ刑務所における暴動の際、刑務所当局と憲兵隊は小火器を用いてこれを鎮圧。それから2年経過した後も、関係当局は少なくとも、42人の被拘禁者のその後を明らかにしていない。しかし、少なくともうち9人は殺害されたとみられる。また、 検閲も広く行われており、検閲は、FacebookやYouTube、Bloggerなどの人気のウェブサイトにも及んでいる。

また、アサド大統領は、市民による政治参加や市民社会の役割を拡大する法律をつくる公約をしていたものの、いまだ実現していない。 2005年3月、「これからは複数政党の自由が認められた時代がくる」とジャーナリスト陣に伝えたが、いまでも、シリアは事実上の一党制の国で、自由に政治活動できるのは依然としてバース党のみという状態だ。


前出のウィットソンは、「アサド政権下で開かれた政治の時代が新たにやって来ると、人びとは希望を抱いたかもしれない。が、今となってはそんな希望はすべて打ち砕かれてしまった」と述べる。


また、シリア全人口の10%を占めるとみられる少数民族クルド人には、学校でクルド語を習う権利や、クルドの正月にあたるノールーズなどの伝統的祭りを祝う権利といった、基本的な民族としての権利を否定されている。2004年3月にシリア北部の各所で起きたシリア系クルド人による大規模な抗議デモが一部暴徒化してから、シリア政府によるクルド人弾圧はさらに厳しさを増した。この暴動の背景には、クルド人の間に不満が長い間くすぶっていた現状がある。アサド大統領の度重なる約束にもかかわらず、現在でも約30万ものクルド人が国籍取得を待機させられている状態にあり、無国籍状態からおきる様々な苦難に直面している。

公の場でのインタビューやスピーチで、アサド大統領は、政治改革を履行できていない理由は、経済改革の優先や地方の状況が改革を妨げてきたから、などと弁解している。しかしながら、国際社会や地域社会からのプレッシャーにもかかわらず、シリア政府は政府批判の弾圧を方針として徹底している。シリアにおける過去10年の人権状況の調査結果がこれを示す。


そのシリアは2007年以来、欧米による孤立政策から抜け出した。米国や欧州諸国の政府関係者がシリア政府と接触し、アサド大統領と定期的に会談するようになったのだ。


「アサド大統領には、遅々として進まない人権状況の改善について弁解をする余地は全くない」と、前出のウィットソンは述べる。「国際社会からの孤立を脱した今こそ、シリアを開かれた国とすべきだ。」

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