(ニューヨーク)- 「スリランカ政府は北部ワンニ地域の戦闘から逃げてきた民間人を恣意的に拘禁するのをやめ、切実に必要とされている援助が人びとの手に届くよう、人道援助機関が現地に戻る事を緊急に認めるべきだ」とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書の中で述べた。
49ページの報告書「包囲され、追放され、拘束される民間人たち:スリランカのワンニ地域の住民の窮状」は、ワンニの戦闘地域に閉じ込められている23万から30万人の国内難民たちの悲惨な現状と、これに対するスリランカ政府の責任について取りまとめている。政府による人道援助制限のため、避難民たちは、激しい食糧不足と生活必需品の不足に悩まされている。分離独立派タミル・イーラム解放のトラ(LTTE)の支配地域から逃れられた人びとは、スリランカ政府軍が管理する収容所の粗末な環境下で拘束されている。
「数十万人の民間人が交戦地域に囚われた状態だが、スリランカ政府が国連などの援助要員に退去を命じたため、乏しい援助しかない状態だ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアジア局長ブラッド・アダムスは述べた。「かろうじて戦闘を逃れた人々は、まさに踏んだり蹴ったりの屈辱的な状況におかれている。スリランカ軍管理下の収容所に、無期限に拘束されているのだ。」
本報告書は、2008年10月から11月にかけて、スリランカ北部でヒューマン・ライツ・ウォッチが行なった調査に基づく。国連機関職員、人道援助団体要員、外交官、宗教指導者、紛争の影響を被った民間人などから詳細な聞き取り調査を行った。政府による全面規制のため、ワンニの紛争地域には、調査・報道関係者は立ち入り出来なくなっている。
12月12日、ヒューマン・ライツ・ウォッチは、17ページの報告書「閉じ込められ、虐待される民間人たち:ワンニでのLTTEによる虐待」を公表。この報告書には、分離独立派組織LTTEが、北部拠点に住むタミル人住民に対して行っている残酷行為を取りまとめた同報告書は、LTTEが、支配地域の民間人がワンニの紛争地域から避難することを許さず、強制徴兵と強制労働を強化し、住民の生命を危険にさらしている実態をつぶさに描いている。
9月、スリランカ政府は、すべての国連及び人道援助機関に、ワンニからのスタッフ退去と活動の停止を命令。活動継続が許されたのは、赤十字国際委員会及びカリタス(カトリック系国際NGO)の現地スタッフだけだった。ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、人道援助が深刻に不足する様を明らかにしている。例えば、戦闘地域に閉じ込められた人々への食糧供給は必要最低量の40%程度しかないとみられ、幾万もの家族のビニールシート簡易シェルターが切実に必要とされ、衛生施設は事実上存在しない状態であること、など。11月、サイクロン・ニーシャによって、約6万から7万人もの国内避難民のシェルターが破壊されてしまったにもかかわらず、スリランカ政府は、援助団体がシェルターに必要な物資を搬入することをを許さなかった。
2008年3月以来、船でインドから帰還したタミル人難民たちに加えて、ワンニから逃げてきたタミル民間人は、全員、治安上の脅威という想定で拘束され続けている。概ね1000名の民間人が、マナーとワウニアにある「福祉センター」に軍の看守つきで無期限に拘束されている。こうしたスリランカ政府の政策は、国内避難民の基本的権利を侵害するものである。キャンプの環境は基準以下で、シェルターも不十分で、衛生施設も不足し、人道援助も乏しいままである。
「ワンニから避難してきた民間人を収容する「福祉センター」は、名前は取り繕っているものの、その実は刑務所だ。」と、アダムスは述べた。「スリランカ政府に現在拘束されている人々の多くが、実はLTTEの人権侵害から逃れてきた人々なのは悲しい皮肉だ。スリランカ政府の本拘禁政策は、本来なら、政府が助けなくてはならないはずの民間人たちを逆に傷つけるものだ。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチの調査は、「援助機関の退去により生じた人道援助の大幅な不足は、政府が埋めている」というスリランカ政府当局の主張とはうらはらに、政府の努力は全く不足しているという事を明らかにしている。ヒューマン・ライツ・ウォッチの入手した情報は、民間人に必要な食糧、シェルター、水、衛生用品、その他生活必需品が極度に不足していることを示す。スリランカ政府任命のワンニ地方高官らから入手した情報も同様の内容であった。
「スリランカ政府の主張は現実を反映したものではない。ワンニでは、政府当局者でさえ、人道援助が不足していると訴え続けている。」と、アダムスは述べた。