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スリランカ:悪評高い法の下で起きている重大な人権侵害

EUはテロ防止法の廃止を強く求めるべき

Security personnel gesture to stop motorists at a checkpoint in Divulapitiya on the outskirts of the Sri Lankan capital of Colombo on October 4, 2020. © 2020 Ishara S. Kodikara /AFP via Getty Images

(ブリュッセル)-スリランカ当局は、悪評高いテロ防止法(PTA)を根拠に、長期的な恣意的拘禁と拷問を行っていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書内で述べた。欧州連合(EU)をはじめとする援助国および貿易相手国は、人権侵害的な法律を廃止するため、政府のあいまいな改正の公約を拒否し、期限を付け行動を求めるようスリランカ政府に圧力をかけるべきである。

報告書「法的ブラックホール:スリランカのテロ防止法改正の失敗」(全XXページ)は、ゴタバヤ・ラージャパクサ政権が、少数民族であるタミル系およびムスリム系のコミュニティに対しテロ防止法を悪用し、市民社会団体を弾圧したことを調査・検証したもの。前政権は、EU市場への特別な関税なしアクセスをスリランカに認める一般特恵関税制度プラス(GSP +)が再承認された後、当該法の廃止を誓約していたが、現政権がこれを反故にした。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの南アジア代表ミーナクシ・ガングリーは、「スリランカ当局はテロ防止法の廃止という公約を反故にして、当該法の対象とされた人々から基本的権利を略奪している」と指摘。「EU加盟国を含む諸国は、テロ防止法改正を公約でのみ掲げるラージャパクサ政権を否定し、同法の速やかな廃止を求めるべきだ」

本報告書は、2018年以降、テロ防止法及びその適用に関するヒューマン・ライツ・ウォッチの調査に基づき、また、2021年1月〜12月までの裁判資料の追加考察、及び机上調査と聞き取り調査の結果を含んだものである。同報告書には、スリランカ司法長官および人権委員会に送付した書簡に対する人権委員会からの回答も記載されている。テロ防止法は、不特定の「違法行為」に対し令状なしで逮捕を認めるもので、被疑者を出廷させずに最長で18カ月の拘禁を許す。これにより、被疑者が適正な手続きを受ける基本的権利が否定され、人権侵害から被疑者を守る一助となる保護措置が排除される、いわば法的なブラックホールが事実上生じてしまっている。

1983年〜2009年、政府と分離主義組織「タミル・イーラム解放の虎(LTTE)」間の内戦中、政府当局は主にLTTEやその他の武装集団メンバー、または支持者と疑われた個人に同法を適用してきた。そして、ほとんど無名のイスラム系過激派集団が教会やホテルを標的とした、2019年のイースターサンデー連続爆発事件以来、当局は数百人のムスリムを恣意的に拘禁するために当該法を適用してきた。スリランカ人権委員会のデータによると、この3年間にテロ防止法下で逮捕された人の数は600人超にのぼる。

多くの被疑者が裁判を待つ間、何年も拘禁されてきた。統計によると、そのうちほとんどが拘禁中に拷問を受けており、有罪判決はしばしば拷問による自白に依拠している。

著名なムスリムの弁護士Hejaaz Hizbullah氏は、イースターサンデー自爆テロ事件の犯人らを支援したとして、2020年4月に当該法下で逮捕された。最初の申立は取り下げられたものの、警察は「共同体の不調和」を引き起こす行為として新たな申立をした。学生たちは同氏が学校で暴力を扇動したと証言するよう警察に強要されたと主張している。Hizbullah氏は現在も拘禁下にある。

ムスリムの詩人Ahnaf Jazeem氏(26歳)は、2017年に出版された本のタミル語の詩で「宗教的過激主義」を助長したとして、2020年5月26日に逮捕された。Jazeem氏は、2021年7月最高裁判所の宣誓供述書で、警察の尋問官が「屋根から吊るして殴打されるか、目の当たりにした拷問の被害者と同様の扱いを受けることになる」と脅迫したと証言。18カ月の拘禁期間を経た同年12月に保釈された。

ラージャパクサ政権はテロ防止法を用いて、過去の人権侵害被害者の家族や、人権活動家、および弁護士、ジャーナリストなどを拘禁したり、威嚇したりしてきた。タミル系コミュニティと協働しているある活動家は、「失踪者の家族と話すと、彼らも自分がいつ逮捕されてもおかしくないと言います」と語る。「Facebookに写真を投稿したことでも逮捕されるのですから、誰が何をしたって逮捕されるかもしれないということです。」

EUは2010年、内戦終結時の権利侵害を理由に、スリランカをGSP+承認国から除外したが、2017年当時の政権が27の人権関連をはじめとする国際条約を採択・実施し、特にテロ対策法を廃止すると公約したことから、再び承認国に復帰させた。 これは、2015年の国連人権理事会の合意決議に続くもので、この決議で、スリランカは戦争犯罪の説明責任および賠償の確保、強制失踪の捜査、及び当該法の廃止に同意した。しかし、これらはいまだほとんど履行されていない。

2021年6月、欧州議会はスリランカのGSP+ステータスの適性を評価する際に、「スリランカの人権義務をめぐる進歩、およびテロ対策法の廃止または代替を要求する」ことを欧州委員会に要請する決議を採択。レビューは現在進行中であり、今年後半に完了の予定。

ラージャパクサ政権は2021年初頭から、同法の諸規定の見直しをはかるという公約を新たにしていたが、実質的な提案は出されていない。それどころか、2021年に、当該法の更なる濫用を招きかねない条例を導入した。その上、刑事手続法の改正案も更なる人権保護の弱体化に繋がる可能性が高い。

テロ対策法を制定する前に、スリランカ政府は市民社会団体と有意義かつ包括的な協議を行うべきであり、かつ同国の国際人権義務を満たすために国連人権専門家7名が2021年12月に定めた「必要条件」を取り入れなければならない、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。

国連の専門家は、テロ対策法は、国際人権条約で定められたスリランカの義務と矛盾していると指摘した。また、スリランカのGSP+への参加には、これら国際人権条約履行へのコミットメントが条件付けられている。

ガングリー南アジア代表は、「ラージャパクサ政権の人権侵害行為は、曖昧な改革の公約よりも明確に事実を反映している」と述べる。「EU、米国、英国は、スリランカ政府が国際的な責任を担い、人権を保護するために意味のある行動をするよう強く求めるべきだ。」

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