(ニューヨーク)ー 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行は世界中の子どもたちに広範で長期的な悪影響を及ぼす可能性がある、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した報告書で述べた。子どもは新型コロナウイルス感染症にかかっても他の年齢層と比べて軽症ですみ死亡率も低いとみえるとはいえ、この悪影響は壊滅的な打撃となりかねない。
15億人以上の生徒が学校に通っていない。多くの家庭が失業や収入減、経済的不安定に陥ることで児童労働、性的搾取、十代の妊娠、児童婚が増える可能性が高い。とくに隔離やロックダウンの下で暮らす家庭にかかるストレスによってドメスティック・バイオレンスの発生率も上がっている。全世界で新型コロナウイルス感染症による死者数が増えるにつれ、多くの子どもが孤児となり、搾取や虐待を受ける危険にさらされることになる。
「新型コロナウイルス感染症の大流行は子どもたちを大変な危険にさらしている」とヒューマン・ライツ・ウォッチの子どもの権利アドボカシー・ディレクターのジョー・ベッカーは述べた。「各国政府は世界的流行が起きている間に子どもを守るために緊急に行動するだけでなく、この危機が去った後に子どもの権利を守るために今どのような決断をするべきかも検討すべきだ」。
新型コロナウイルス感染症の大流行によって多くの子どもは教育を受ける機会がなくなるか制限される、または同年代の子どもにいっそう遅れをとることになる。少なくとも188カ国で学校が休校となっているため、世界の生徒の91パーセント以上が学校に通っていない。今回の危機で、緊急事態に対する備えや子どものインターネットへのアクセス、そして教材の提供の程度が国によって大きく異なることが露呈した。オンライン学習用プラットフォームに注目が集まっているが、公立学校の多くはそれらを利用するようにできていないか、オンライン教育をするための技術や設備を備えていない。世界の半分近くはインターネットへのアクセスがない。
新型コロナウイルス感染症の大流行によって家庭に新たにかかるストレス−−失業、隔離、過度の外出禁止、健康や家計についての不安など−−が増すことで、家庭内でパートナー間の暴力と養育者による子どもに対する暴力の両方が起きる危険も高まる。国連事務総長は新型コロナウイルス感染症に関連するドメスティック・バイオレンスが全世界で「すさまじい」急増を見せていることを報告した。電話相談サービスへの相談が倍増したと伝えられる国もある。子ども支援・保護機関が流行抑制のために監視活動を縮小し、教師も休校のため虐待の徴候に気づきにくくなっているため、新型コロナウイルス感染症の流行中に子どもの虐待が見つかる可能性は低くなる。
専門家によれば、新型コロナウイルス感染症による死者数は最終的に全世界で1千万から4千万人に上る可能性がある。必然的に多くの子どもが片方または両方の親、あるいは親以外の養育者を失うことになる。孤児となった子どもは人身売買のほか、性的搾取、物乞いの強制、街頭で商品を売る、その他の児童労働を含む搾取の危険に特にさらされる。年上の子どもが弟妹を養おうとして学校をやめることも多い。
新型コロナウイルス感染症の大流行によって全世界で大規模な失業を含む景気の悪化が起きることで、児童労働や児童婚も増える可能性が高い。大流行の前からすでに世界で約1億5200万人の子どもが児童労働に従事し、うち7300万人が危険な仕事に従事していたと推定される。児童労働は病気、障害、親の失業など家庭が経験した家計の危機と強く結びついていることが調査によって明らかにされている。
新型コロナウイルス感染症の大流行はインターネット上の子どもの性的搾取の危険も増大させる。欧州刑事警察機構(ユーロポール)は、新型コロナウイルス感染症の結果「子どもの虐待を題材とする内容を探している者のインターネット上の活動が増えている」との報告が提携する警察機関から寄せられていると述べた。
何百万もの子どもたちが刑事施設や移民収容施設に収容され、孤児院・児童養護施設などの施設に入所させられている。そのような施設の多くでは子どもたちのすぐ近くに他の子どもたちがおり、水や衛生設備も自由に使えない。そのような状況は新型コロナウイルス感染症のような伝染病の拡大を助長しうる。また基本的な医療へのアクセスもほとんどない場合も多く、病気になれば子どもの健康がいっそう危険にさらされることになる。
同様に、何百万もの難民・移民・国内避難民である子どもが定員を超えたキャンプや非公式の受け入れセンターや不法居住地に暮らしている。そこでは頻繁な手洗いや「社会的距離をとる(ソーシャル・ディスタンシング)」などの基本的な新型コロナウイルス感染症予防対策をするのは不可能に近い。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行で医療制度が崩壊すると、子どもたちが予防接種や命に関わる基本的医療を受けられない可能性がある。2014年から15年にかけての西アフリカエボラ出血熱流行では治療へのアクセスが減ったためにマラリアやHIV /エイズや結核による死亡数が子どもも含めて急増した。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは各国政府が子どもの権利を守るために以下を含めた緊急措置をとるよう要請する。
- 利用可能なすべての技術を使い、すべての子どものための教育を続ける取り組みを優先させる
- 最初にかつ最大の打撃を受ける低所得家庭に対し、児童労働や児童婚に頼ることなく最低限必要なものを入手できるように現金給付を含む経済支援を行う
- 子どもにとって必要不可欠で命に関わる医療の中断を最小限に止める
- 新型コロナウイルス感染症によって孤児となった子どもを特定する取り組みを強化し、拡大家族や里親制度のネットワークを拡大する
- 家庭での暴力やインターネット上の性的搾取の危険にさらされている子どものための市民の啓発や啓蒙活動、ホットラインその他のサービスを拡大する
- 施設収容され自由を奪われている子どもたちを家庭養護に移し、難民・移民・国内避難民の子どもたちのために適切な宿泊と衛生設備を確保する
新型コロナウイルス感染症による危機に対して人権を尊重した対応をすることで、流行中に広範に及びうる被害を軽減するだけでなく長期的にも子どもたちを利することもできる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。子どものインターネットへのアクセスを拡大することで一般に子どもの情報へのアクセスと、子どもが自らを組織し表現する能力も増す。
新型コロナウイルス感染症がもたらす経済的危機を受け、各国政府は貧しいコミュニティや脆弱な家庭に対する経済的および社会的権利の保障や社会的保護を強化する場合もあろう。そのような措置をとれば長期的に食糧安全保障を改善し、子どもの貧困や児童労働や児童婚を減らすことができる。
「新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって多くの国が、不十分な保健や社会的保護の制度、定員を超えた収容施設、大規模な休校に備えた緊急時対策の欠如など、子どもの保護に関する重大な弱点を抱えていることが明らかになった」とベッカーは述べた。「各国政府が今する決断は、この流行による最悪の被害を軽減するためだけでなく、長期的に子どもたちを利するためにも非常に重要である」。