高すぎるハードル:日本の法律上の性別認定制度におけるトランスジェンダーへの人権侵害

日本では、自らの性自認(ジェンダー·アイデンティティ)に従った性別の認定(戸籍記載変更)を望むトランスジェンダーの人びとに対し、生殖腺を除去する不妊手術が義務づけられています。 こうした日本の政策は、人権尊重の義務に反しているだけでなく、世界の流れに逆行し、トランスジェンダーの人びとを傷つけています。

(東京)― 日本政府は、自らの性自認(ジェンダー・アイデンティティ)の法律上の認定を求めるトランスジェンダーの人びとに対する断種(生殖腺除去)手術の強制を止めるべきであると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書で述べた。法律上の性別の認定を受ける条件として医療的介入を課すことは、日本が負う人権上の義務に違反するとともに、国際的な医学基準にも逆行するものである。

今回の報告書『高すぎるハードル:日本の法律上の性別認定制度におけるトランスジェンダーへの人権侵害』(全71頁)は、現行の性同一性障害者特例法が、法的な性別の認定を希望しつつも、不妊手術などの不可逆的な医療処置を望みえないか、望まないトランスジェンダーの人びとをいかに傷つけているか詳述した内容。

「日本政府は、トランスジェンダーの人びとの権利を尊重し、法律上の認定の要件として手術を強制することを止めるべきだ」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗は述べた。「同法は、性自認をいわゆる『精神疾患』とする、時代遅れの前提に基づいており、早急な改正が必要である。」

日本では、法律上の性別の変更を望むトランスジェンダーの人びとは、2004年に施行された性同一性障害者特例法により家庭裁判所に審判を請求しなければならない。この手続は差別的だ。請求者に対し、非婚かつ20歳未満の子がおらず、精神科医から「性同一性障害」という診断を受けた上で、断種手術を課している。こうした要件は、時代に逆行する有害なものだ。そして、トランスジェンダーのアイデンティティは精神医学的な状態であるという時代遅れで侮辱的な考え方に基づいており、法律上の性別認定を望むトランスジェンダーの人びとに対して、相当な時間と費用を要する、侵襲性の高い不可逆的な医療処置を義務づけている。
 
本報告書の作成にあたり、ヒューマン・ライツ・ウォッチは日本国内の14都府県に住むトランスジェンダーの人びと48人のほか、弁護士、医療提供者、研究者などへのインタビューを行った。

トランスジェンダーの人びとはヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、現行法は自分たちの権利を侵害していると話した。あるトランスジェンダー男性はこう述べた。「(手術は)本当はしたくないですけど、日本で結婚するためにはそれが要件だからしなきゃいけない。強要されているような感じ。ひどい話です。」

自分たちが支払わなければならない代償をこう説明する人もいた。「それは戸籍も変えたいし、不愉快なことがない暮らしをしたいけれど」と、東京在住のトランスジェンダー女性は言う。「あまりにも壁が高すぎる。ただ生きているだけなのに、どうしてこんなに精神や経済のリスクを背負わなければならないのか。」

地域的人権裁判所などの人権組織では近年、日本が課すような法的要件が国際法違反であるとの判断が示されている。拷問に関する国連特別報告者は2013年、トランスジェンダーの人びとが「自らが希望するジェンダーを法的に認定される必要条件として、多くが希望しない不妊化手術(断種手術)を課されている」ことが人権侵害であることに留意し、各国政府に対しこうした措置を禁止するよう求めている。

医療専門家は各国政府に対し、法律上の性別認定から医療要件を除くよう求めている。世界保健機関(WHO)は、最新版の『国際疾病分類』(ICD-11)にて、「精神障害」のセクションから「性同一性障害」を削除した。アメリカ精神医学会も過去同様のことを行っている。

ICD最新版は、加盟国による承認に向けて2019年5月のWHO総会で提出される予定だ。このICD-11は、「性同一性障害」を「性別不合(gender incongruence)」に変更し、診断コードを精神疾患の章からセクシュアル・ヘルスの章に移動させた。

最高裁判所第二小法廷は2019年1月、断種を望まないトランスジェンダー男性(43)の訴えについて、断種要件が合憲であるとの下級審の判断を支持して特別抗告を棄却した。しかし判決文は「その意思に反して身体への侵襲を受けない自由を制約する面もあることは否定できない」との指摘も行っている。

4人の裁判官のうち2人は補足意見で、「性同一性障害者の性別に関する苦痛は、性自認の多様性を包容すべき社会の側の問題でもある」と述べた。そしてトランスジェンダーの人びとにとって「性別の取扱いの変更の審判を受けられることは、切実ともいうべき重要な法的利益である」と判示したのである。

日本政府は近年、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー(LGBT)の認知と保護について複数の積極的な取り組みを行っていると、ヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘した。

文部科学省は2016年に「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について(教職員向け)」と題した教職員向けの周知資料を公表している。また2017年には、いじめの防止等のための基本的な方針の改訂にあたり、LGBT生徒を明示した。

2020年東京オリンピック・パラリンピックを開催する東京都は2018年、「都、都民及び事業者は、性自認及び性的指向を理由とする不当な差別的取扱いをしてはならない」とする都条例を制定した。日本はまた、性的指向及び性自認を理由とする暴力および差別の撤廃を求める2つの国連人権理事会決議に賛成票を投じている。

「最高裁の判断は、性同一性障害者特例法に重大な疑義を投げかけた」と、前出の土井代表は述べた。「日本政府は同法を改正して、国際人権法上の義務と国際的な医学規範に適合させるべきである。」