(ロンドン) — ヒューマン・ライツ・ウォッチはバレンタインデーに先立ち本日発表した報告書内で、宝飾品と時計メーカーはサプライチェーンに人権侵害がないことを保障するために、まだすべきことがたくさんあると述べた。加えて、市民社会団体や労働組合が宝飾産業に対し、調達業務を改善するよう共同で訴えた。
報告書「宝飾品の隠れたコスト:サプライチェーンにおける人権とジュエリーブランドの責任」(全99ページ)では、総額300億ドル超の年間利益(世界の宝飾品売上げの10%)を出している13の主な宝飾品および時計ブランドによる、金とダイヤモンドの調達方法を精査したものだ。
また本報告書には、貴重な鉱物や金属が時々採掘される状況での人権侵害についても詳述。小規模な金鉱やダイヤモンド鉱山で有害危険な作業をしている子どもたちが負傷したり、時に犠牲にさえなっている。鉱山からの有毒化学物質で水路が汚染されているため、周辺コミュニティは健康被害や環境上の悪影響に直面。そして人権侵害的な武装集団あるいは政府が鉱業を通じて豊かになったため、一般市民が非常に苦しむこととなった。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ子どもの権利局のアソシエイト・ディレクター、ジュリアン・キッペンバーグは、「取り扱っている金やダイヤモンドが児童労働ほかの人権侵害に汚されたものではないかを調べるために、ジュエリーブランドができることはもっとある」と述べる。「このバレンタインデーに愛する人のために宝飾品を購入する際は、消費者もそれがどこから来たのか店でたずねるべきだ。」
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、とりわけ子どもに対する人権侵害や汚れたサプライチェーンが広がる数多くの国々で、幅広い調査をおこなってきた。フィリピンに関する2015年の報告書では、16歳の少年がいつ溺れてもおかしくない危険な状態で、ホースをくわえながら金を探す様子を詳述している。
貴重な鉱物や石は世界各地の数十カ国で採掘され、通常は他国で取引や輸出、加工が行われている。サプライチェーンは長くて複雑になりがちだが、ジュエリーブランドや時計メーカーは、チェーンのどの時点においても人権侵害に貢献するような運営が行われていないようにする責任を負っている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、13のジュエリーブランドのほとんどが、国際的な責任ある調達基準を満たしていないことを明らかにした。国連のビジネスと人権に関する指導原則の下で、企業は「人権デューデリジェンス」と呼ばれる保護措置を講じるべきだ。この措置はサプライチェーン全体を通して、人権への影響を特定・予防・対処・説明する手続きを指す。経済協力開発機構(OECD)は、鉱物のデューデリジェンス基準の第一線である「紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデューデリジェンス手引き」で、このアプローチをさらに発展させた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチが調査・検証したジュエリーブランド13社の商習慣は大きく異なっている。一部の企業は、金とダイヤモンドのサプライチェーンにおける人権リスクに取り組むための重要な措置を取っているが、その他の企業はサプライヤーによる保障に頼りきっている。ほとんどのブランドは取り扱っている金やダイヤモンドの完全なトレーサビリティを持っておらず、人権リスクを十分に査定しているとはいえない。大部分は責任ある調達努力についての包括的な報告を公開しておらず、またサプライヤーの名前も未公表だ。
ブードルス(Boodles)、ブルガリ(Bulgari)、カルティエ(Cartier)、ショパール(Chopard)、クリスト(Christ)、ハリーウィンストン(Harry Winston)、パンドラ(Pandora)、シグネット(Signet—Kay Jewelers、Zales、Ernest Jones、およびH. Samuelの親会社)、タニシュク(Tanishq)およびティファニー(Tiffany)の各社が、ヒューマン・ライツ・ウォッチの情報提供の求めに応じた。Kalyan、ロレックス(Rolex)、TBZの3社からは回答を得ていない。公式に入手可能な情報やブランド・小売店から提供された情報に基づいて、人権リスクの評価と対応、トレーサビリティの確立、企業活動の公表など、特定の責任ある調達基準に従って13社を格付けした。
13社中1社も「優秀」と評価はできないが、責任ある調達を目指して重要な措置を取ったため、ティファニーを「強い」と評価。 ブルガリ、カルティエ、パンドラ、およびシグネットの4社は、責任ある調達に向けて重要なステップを一部取っていたため「普通」に格付けされた。
ブードルス、ショパール、クリスト、ハリーウィンストンの4社は、責任ある調達に向けての措置を少し取っていたため、「弱い」に格付けされた。タニシュクは責任ある調達へ向けた措置をとっているという証拠にかけていたため、「かなり弱い」となった。回答しなかった3社は、調達方針や商習慣についての情報を開示していないため格付けしていない。
また、ダイヤモンドの「キンバリー・プロセス」や「責任ある宝飾品業のための協議会」による認定など、責任ある調達に関する既存のイニシアチブが、独自にダイヤモンドや金が人権侵害に貢献することなく採掘されたと十分に保証してはいないことがわかった。キンバリー・プロセスは、反政府勢力にかかわるダイヤモンドに焦点を絞っており、ダイヤモンドの原石のみが適用範囲で、かつメーカーに直接的な責任を問わない。
責任ある宝飾品業のための協議会は1,000人以上の会員を抱える業界団体だが、基準やガバナンス、認証制度などで問題を抱えている。業界の責任ある調達習慣に関する基準設定をあげるため、基準および監査方法を強化すべきだ。
前出のキッペンバーグ アソシエイト・ディレクターは、「責任ある調達をしていると証明するには、同協議会の会員であることを示すだけでよいと考えている企業があまりにも多すぎる。が、それだけで真にクリーンなサプライチェーンを保障することにはならない」と指摘する。
多くの宝飾ブランド/小売店が国際基準に届かないでいる中、より広範に真似できるよい商習慣を採用しているメーカーも一部にある。今回調査・検証した企業の中でもティファニーは、自社で扱う金を鉱山レベルまでさかのぼることができ、かつ人権上の影響を徹底的に査定していることで際立っている。カルティエは、ホンジュラスの「模範」金鉱から産出される金を一括購入。スイスのジュエリーブランド ショパールは、労働条件や鉱山からの調達法を改善するため、ラテンアメリカの小規模鉱業協同組合と協力している。パンドラは監査中に特定した人権リスクを公開している点が際立っていた。
しばしばNGOなどの助けを借りて、権利が尊重されている小規模鉱山から金を調達しようと努める小規模な宝飾ブランド/小売店の数も増えつつある。
キッペンバーグ アソシエイト・ディレクターは、「その規模にかかわらず、一部のジュエリーブランドが正しい方向に舵を切りつつあることは素晴らしい」と述べる。「こうした行動は、変化が可能であることを示してくれている。」
その後2つのメーカーが、慣行改善のために具体的な措置を講じると約束した。英国のジュエリーブランド ブードルズは、ダイヤモンドサプライヤーと人権デューデリジェンスに関する会合を開始しており、責任ある調達をめぐり初めての監査を開始した。同社は、金およびダイヤモンドサプライヤーのための包括的な行動規範を策定し、それを公表すると誓っている。2019年からは、人権デューデリジェンスの報告も公開し、より厳格な人権査定を実施するという。ドイツのジュエリーブランド クリストは2018年中、人権デューデリジェンスの取り組みをめぐり、サプライヤーの行動規範ほかの情報を公開すると誓っている。
すべての宝飾企業は強力な人権保護措置を講じ、かつその行動を一般公開する必要があると、市民社会団体および組合がともに訴えた。ヒューマン・ライツ・ウォッチもジュエリーブランドに圧力をかけるため、キャンペーンBhindTheBlingを開始している。
宝飾品を購入する際にはそれがどこから来ているのか、もともとの鉱山で人権が尊重されているかどうかを小売業者が確かめるためにどのような措置が取られているのかを、消費者はたずねるべきだ。とりわけ手掘りかつ小規模の鉱山では、コミュニティに恩恵をもたらす可能性を秘めている。
キッペンバーグ アソシエイト・ディレクターは、「購入する宝飾品が人権侵害の原因になっていないことを確かめたい消費者の数は増えている」と指摘する。 「ジュエリーブランドは、顧客や、ビジネスの影響を受けたコミュニティに対し、真に責任を持って行動し、その行動に関する精査を一般に公開する責任を負っている。」