Raquel, 25, holds her daughter Heloisa in Areia, Paraíba state, Brazil. Raquel gave birth to twin daughters with Zika syndrome in April 2016. “I want to give my best to my daughters,” she said in an interview with Human Rights Watch.
 

© 2017 Ueslei Marcelino/Reuters

(サンパウロ)− ブラジル政府は、ジカ熱の発生・拡大を許す原因となった長年の人権問題解決に取組んでおらず、結果、住民を将来の感染などの深刻な公衆衛生上のリスクにさらし続けている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。政府は2017年5月、ジカウイルスに関する国家公衆衛生の緊急事態宣言の解除を発表した。しかし、ジカウイルスの脅威は残る。

報告書「無視され保護されず:ブラジル北東部の女性と少女に及ぶジカ熱大発生の影響」(全103ページ)は、女性と少女に悪影響を及ぼし、かつ、一般住民を、蚊が媒介する深刻な感染症の発生にぜい弱な状態のままにしている政府当局の対応について、調査・検証したもの。ジカ熱の発生はおりしも、ブラジルが数十年で最悪の景気後退に直面していた時期と重なった。そのため当局は、資源配分について難しい判断を迫られることになった。しかし、以前の経済成長期でさえ、上下水道と公衆衛生関連のインフラに対する政府投資は不十分であった。 上下水道整備を長年放置し続けたことが、ネッタイシマカの増殖とジカウイルスの急速な拡散につながった。

Brazil has not addressed longstanding human rights problems that allowed the Zika outbreak to escalate, leaving the population vulnerable to future outbreaks and other serious public health risks. 

ヒューマン・ライツ・ウォッチの女性の権利担当上級調査員で、本報告書共同執筆者のアマンダ・クラシングは、「ブラジル人は、保健省によるジカ熱緊急事態宣言の解除を勝利と捉えるかもしれない。しかし、今回明るみに出た根底の権利問題と同様、まだ重大な健康上のリスクが残ったままだ」と指摘する。「もし政府が長期的に蚊の繁殖を抑えず、かつリプロダクティブヘルスの権利へのアクセスを確保せず、かつ先天性ジカ症候群の子どもを育てる家族を支援しないのであれば、ブラジル人の基本的権利が危機に瀕する。」

この発表がなされたのは、先天性ジカ症候群として知られるようになった症状(頭が通常よりも小さく、その他にも潜在的な健康問題もみられる)がみられる小頭症の新生児の出生が増加するなか、政府がジカ熱国家緊急事態を宣言してから18カ月後のことだった。しかし、ネッタイシマカは依然としてブラジルに生息しており、変わらずジカウイルスほか深刻なウイルスを媒介している。ブラジルでは、近時にも同様に蚊の媒介で広がる黄熱が発生し、2016年12月以降少なくとも240人が犠牲になった。気候変動と気温の上昇を背景にした2015年のエルニーニョ現象のような気候現象が、蚊を媒介とする感染症の広がりを加速させる可能性につながっている。

ブラジル当局は、蚊の繁殖を抑制し、公衆衛生を改善するために、上下水道および衛生関連のインフラへ、遅きに失してはいるものの投資すべきだ。また、女性と少女のために包括的なリプロダクティブヘルスの情報およびサービスを提供し、人工妊娠中絶を合法化し、かつ先天性ジカ症候群の子どもたちが可能なかぎり最善の生活の質を手に入れられるよう、長期的なサービスの提供を確保すべきだ。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、ジカウイルスでもっとも大きな被害を受けた北東部の2州ペルナンブコとパラバイバの、15歳〜63歳の女性98名を含む183名に聞き取り調査を実施。女性のうち44名が当時妊娠しているか、出産後間もない女性であり、30名は先天性ジカ症候群の子どもを育てていた。また、影響を受けた地域に住む男性および少年、サービスプロバイダーほか専門家、政府当局者にも話を聞き、保健サーベイランス調査や上下水道の資財、予算に関するデータも分析した。

ジカ熱発生の対応において、ブラジル当局は貯水槽の掃除や自宅内の水たまりの除去など、家庭レベルの取り組みを奨励してきた。 こうした作業を任されるのは、たいていが女性や少女だが、かなりの負担になるうえ、不十分な政府による対策の穴埋めとしては到底十分とはいえない。当局はこれまで、蚊の繁殖を長期的に管理し、公衆衛生を改善するために必要な、上下水道および衛生関連インフラに必要な投資を怠ってきた。

ブラジルでは、全人口の3分の1超が継続的な水供給へのアクセスをもたない。それは、人びとが家庭用の水を貯水タンクや容器に貯めなければならないことを意味する。こうした水がカバーされていなかったり、そのままにされていれば、意図はなくとも蚊の繁殖に加担してしまう可能性がある。また不十分な下水道設備も、地域に水たまりをもたらすことになる。ブラジルでは3,500万人超が、安全に排泄物を処理するのに適切な設備やサービスを欠いた状態にある。2015年に下水道システムと接続していたのは全人口の推定50%のみで、全国の総下水量のうち、処理されていたのは43%以下だった。2015年に北東部で下水道システムに接続していたのは人口の25%以下で、下水の32%しか処理されていなかった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、未処理の下水が、覆われていない水路や雨水溝、道路、または堆積物で塞がれたコミュニティ近くの運河に流れ込み、汚れた水たまりができているのを確認した。これは蚊の繁殖に最適な状態だ。

調査対象だった地域で一部の女性と少女が、公衆衛生システムを通じた包括的なリプロダクティブヘルス情報やサービスにアクセスできていなかった。そのため多くは、計画外の妊娠を避けることや、妊娠に関する情報に基づいた意思決定をすることができない。

人工妊娠中絶に対する刑罰のため、妊娠中の女性や少女は秘密裏に、しばしば安全ではない方法で望まない妊娠の中絶を余儀なくされている。昨年、妊娠中絶を誘発しようとして、苛性酸の使用やその他の危険な方法を試した女性や少女を治療したと証言する医師たちが複数いる。思春期にレイプされ、秘密裏の中絶後に多量出血をした23歳の女性は言う。「私は情報をあまり持っていなくて[中略]たくさん出血しました。」

安全でない人工妊娠中絶は、ブラジルにおける妊産婦の死亡原因の第4位で、2005年以来900人超の女性が死亡している。妊娠中のジカ熱感染のリスクは、より多くの女性にとって、安全でない秘密裏の中絶への動機となる可能性が高い。ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(New England Journal of Medicine)で発表された2016年7月の研究で、2015年11月の汎米保健機構(PAHO)によるジカウイルスのリスクに関する発表に続き、安全な人工妊娠中絶サービスがかなり制限されている国々で経口中絶薬を提供する非営利団体Women on Web へのブラジルからの問い合わせが、108%増加したことが明らかになった。

聞き取り取材をした多くの妊娠女性と少女たちは、妊娠出産前の診察で、公衆衛生従事者がジカ熱感染を予防するための包括的な情報を提供することはなかったと証言する。ジカ熱は性的経路で感染する可能性があることを保健医療従事者は伝えなかったが、それは一部当局からの矛盾した、あるいは一貫性に欠く情報が原因だったと多くが語った。その結果、ジカ熱感染から自らと胎児を守るためにコンドームを常に使用していた人はわずかだった。

通常、最低レベルの上下水道システムしかない低所得世帯の妊婦たちは、日常的に使える蚊除けグッズを購入するお金がないと訴える。

ジカウイルスが原因で小頭症他の状態で生まれた2,600人超の子どもたちは、長期的な支援が必要となる。これらの子どもの主たる保護者は、政府や社会から、障がいのある子どもを育てるのに十分な支援を受け取っていないことが多い。必要な医療にアクセスするための経済的かつロジスティックな支援がないのである。先天性ジカ症候群の子どもを育てる母親たちは、出産と子どもの成長・発達の両面で、情報を入手し支援を得ることが難しいと語った。保健医療提供者と先天性ジカ症候群の子どもの親は、父親がケアに積極的に参加するために、父親へのさらなる支援も必要だと話す。

ある父親はヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、先天性ジカ症候群の子どものための薬に、月給のほとんどを費やさなければならないと証言している。

2017年、ジカ熱の症例数とジカウイルスに関連する障がいを持って生まれた新生児の数が、2016年の同時期に比べて劇的に減少。しかし当局は、減少の原因を特定できていない。

前述のクラシング上級調査員は、「中南米と米国の一部が蚊の季節を迎えるにあたって、ジカウイルスの影響を受けたその他の地域は、人権問題がジカ熱の流行とその悪影響の急速な拡大につながりうるのだということを認識しなくてはならない」と指摘する。「ブラジルが今も直面し続けている危機を回避するために、他国は、計画や対応の初期から人権問題にも取り組む必要がある。」

報告書からの証言抜粋:

Some of the women and girls are not identified by their real names to protect their privacy.

Vera Barone, a leader of Uiala Mukaji, a Black women’s organization in Pernambuco:

“Women are being blamed for this crisis. [Women are being told] that they are responsible for not cleaning well enough, not dealing with standing water…. The majority don’t have access to water, so they have to store water, and they are blamed for how they store water. The government doesn’t recognize that the lack of investment in water and sanitation is what leads women to store water. ... In addition, the garbage is not collected properly. The government doesn’t recognize its mistakes. It just blames women.”

Alícia, a 36-year-old woman in Paraíba who was four months pregnant, said she had intermittent access to water at home:

“We are afraid of running out of water all at once. [So when the water comes] then we fill up everything. Where I live, there are neighbors with many containers, and it’s full of little [mosquito] larvae. … One fills up everything one can, so it is complicated because we don’t use all the water and keep it for the following week and, thus, it got worse.”

Thaís, a 17-year-old girl who gave birth to a baby with Zika syndrome in January 2016, showed Human Rights Watch an open sewage channel near her home in Paraíba state:

“We have a lot of mosquitos. The sewage is not covered, and at night it’s full of mosquitos.”

When her baby was five months old, Thaís and her whole family, including the baby, got dengue and chikungunya:

“No one escaped. We could barely walk. Our legs hurt a lot. [We had] fever, rash. I had dengue first and then chikungunya.”

Dr. Leila Katz, and emergency obstetrician in Recife:

“[Some women] are desperate and try anything, and so they use an unsafe [abortion] method… We receive many severely sick patients, but it’s not so common to treat them for post-abortion care because people don’t tell the truth. They come with complications but they don’t say what happened… If we knew something was attempted we could start antibiotics earlier, because the risk of infection is higher.”

Júlia, 23, gave birth to her youngest child in July 2016, and lives in a community in Paraíba with standing water and open sewage, where her neighbors had gotten Zika and other mosquito-borne illnesses:

“I was worried and I felt I couldn’t do anything to prevent something from happening to my baby. I wore pants, long sleeves, repellent. I stayed at home, indoors.”

Vitória, also in Paraíba, went to the hospital with a fever, rash, and other symptoms in the first trimester of her pregnancy in early 2016. She gave birth to baby girl without Zika syndrome in October:

“They did a blood test, but they didn’t give us the results…It wasn’t a very easy pregnancy because I didn’t know how the baby would be born. Even the ultrasound doesn’t show real problems that can be there when the baby is born. I cried all throughout the pregnancy. … It’s torture. You have all the doubt and it can only be resolved when the baby is born.”

Dr. Danielle Cruz, a pediatrician in Recife caring for babies with Zika syndrome:

“We are trying to provide the best services we can, to use our resources efficiently. Even before the [Zika] crisis, we had a deficit in the provision of pediatric services. We didn’t have enough physical therapists, occupational therapists, and speech therapists specializing in children even before the crisis. Can you imagine how it is now.”

Kássia, mother of a son with Zika syndrome in Pernambuco:

“I had to leave my work . …since I had no conditions to keep working and take [my son] to his therapies…We mothers need support because this impacts us. You stop living your life to take care of your son’s life.”