(ヴァレッタ)-海から到着した移民を強制的に拘禁するマルタ政府の政策が、身寄りのない子どもの長期間拘禁や、移民の権利侵害をもたらす結果になっている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。同国政府は一律拘禁政策を停止すべきであり、また年齢が確定するまでは子どもを拘禁すべきでない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書「危険なボートでの航海、その後の拘禁生活:マルタにおける成人/児童の移民の状況」(全50ページ)は、航海に適さないボートで十分な食糧・水・燃料もなしに、地中海横断の危険な旅を経てマルタにたどり着いた人びと(大多数がサハラ以南の国出身)に対する、マルタ政府の対応について詳述。マルタに到着するやいなや、非正規滞在外国人は基本的に全員が拘禁される。拘禁環境の劣悪さゆえに、航海のトラウマが悪化することになる。2012年7月、マリ出身の32歳の移民ママドゥ・カマラがマルタ拘禁局の車両内で死亡しているのが発見されたことで、マルタ政府の移民に対する処遇についての懸念が深まった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの子どもの権利局調査員アリス・ファーマーは、「無差別にして一律に、身寄りのない子どもを含む移民を自動的に拘禁するマルタのやり方は、非人道的かつ不必要だ」と述べる。「これで移民がマルタに押し寄せるのを抑止できるわけでもない上、国際法にも抵触している。」

2002年以来およそ1万5,000人の移民が、ボートでヨーロッパの小さな島国マルタに無許可あるいは「不法」に上陸している。ヒューマン・ライツ・ウォッチによる本報告書は、同国が年齢に関わりなく、事実上すべての移民を拘禁している実態について調査し、取りまとめた。ボートで着いた難民としての庇護希望者は最長12カ月まで、庇護申請をしない、あるいは認可されなかった移民は、最長18カ月まで拘禁される。子どもや高齢者の家族を持つ移民や、精神や身体に障害を抱える移民など、もっとも弱い立場にある移民でさえ拘禁の対象となる。

本報告書は、ソマリアやエリトリアなどの国々における暴力や紛争から逃れてくる身寄りのない子どもの移民を、日常的に拘禁する実態を調査して取りまとめている。年齢確定手続きの間拘禁するためで、結果的に長期にわたる。「身寄りのない子どもの移民」とは、両親などの保護者がないままマルタに渡ってきた子どもたちのことで、一般的にはマルタに到着する前の数カ月間、危険な状況の中を生き抜くという経験をしている。マルタでは、そうした子どもたちが18歳未満と確定した場合(大半は長期にわたる拘禁の後)に限り、子ども専用のグループホーム施設に入所させている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチが聞き取り調査をした子どもたちについては、結果を待つ間に拘禁されて過ごした期間の平均は3.4カ月だった。身寄りのない子どものほとんどは、パスポート他、身分証明用の書類を持たずに渡航してくる。こうした書類は、出身国で入手不可能であることもある。マルタ政府は、年齢証明ができない身寄りのない子どもを成人として扱い、成人用の施設内に拘禁しているのだ。ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じた人びとは、一緒に拘禁された子どもは12歳くらいからいたと話していた。

前出のファーマー調査員は、「マルタは、18歳未満と主張する移民はそうでないと証明されるまで未成年として処遇し、拘禁すべきではない」と述べる。「しかし、両親や他の養育者もなしに長く危険な旅を成し遂げた身寄りのない子どもの現実は、未成年と証明できるまでの間、監禁されるということ。それが同国の拘禁政策の残虐性を表している。」

マルタは身寄りのない子どもの移民を、年齢確定手続きの結果が出るまで、無関係な成人と一緒に拘禁している。子どもたちは拘禁施設内で断続的な暴力にさらされており、ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じた子どもたちも、搾取の実態について証言した。アブディ・Mは、拘禁された時17歳だった。「毎日マリから来たデカイ男が、『お前の食い物をよこせ』って言うんだ。ある日いやだって言ったら、僕のことを殴った。30分は床の上でのびていたよ。兵隊にそれを言ったら、『我々は関知しない』ってさ。誰も助けてくれないから、泣いて寝るしかなかったんだ。」

長らく続くマルタの拘禁政策は、成人ならびに子どもの精神面の健康を同様に損なわせている。複数の有名な医療専門誌が、長期拘禁は移民の外傷後ストレス障害、不安神経症、うつ病の高い発生率と相関関係にあるとしており、また、拷問や迫害から逃れて負った精神的トラウマを含む、既存の症状を悪化させることも指摘している。長期間拘禁されている子どもや若者は、より孤立感や無関心を経験する傾向にある。

2011年のマルタ到着時に17歳と申告したケリル・Tは、精神科の治療を受けるために15日間入院するまで、9カ月間拘禁されていた。にもかかわらず治療後、再び拘禁生活に戻された。「寝るのに今は薬を飲んでいるんだ。薬がないと眠れなくて…。精神状態は悪いし、すごく辛いよ。もう無理だ。ここはきついところ…僕には自由な場所が必要なんだ。」

同国に到着したすべての庇護希望者の申請処理を同国に義務付けるダブリンII規則を含む、欧州連合の移民政策に言及し、マルタは自らの拘禁政策を正当化。欧州委員会が要請する、認定済み難民のマルタからの再移住についても、他のEU加盟国の対応が遅れている。たとえば2010年〜11年にかけて、マルタからEU加盟国に再移住した移民は、わずか228人に過ぎない。北アフリカ経由でより一層の移民が流入している現状に即して、EUの政策がマルタの出入国管理制度に圧力を掛けているのは間違いないが、非正規滞在外国人の強制拘禁は不必要なばかりか、その対応を正当化する類いのものではない。

2010年7月に欧州人権裁判所は、マルタの移民拘禁が恣意的で、拘禁処置に対する異議申立に関する適切な手続きを欠くものであり、欧州人権条約下の義務に反する、という判決を下した。マルタはそれに対し、判決が原告のカレド・ローレド・マソードの事案にのみ適用されるものと反論したが、欧州評議会人権委員長はこれを認めなかった。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはマルタ政府に次を要請する:

  • 拘禁に対する個別の決定と、異議申立手続きのアクセス手段を整備して、移民の拘禁を例外的状況にまで制限すること
  • 未成年であると主張する個人を、年齢確定手続きの結果が出るまでは未成年扱いとし、査定期間中は拘禁しないこと
  • 拘禁に関する政策を、欧州評議会により明言された基準、ならびに欧州人権条約が定める基準に沿わせること。すなわちローレド・マソード対マルタ裁判で欧州人権裁判所が下した、マルタの移民拘禁は恣意的で、欧州人権条約に抵触するという判決を、完全ならびに有効的に、即時履行すること

またヒューマン・ライツ・ウォッチは、EUに対しても、加盟国間の負担をより平等に均すべくダブリンII規則を改正するよう、改めて要請する。