An Iraqi man uses the internet at a cyber cafe in Baghdad on October 6, 2007.

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(バグダッド)-イラクの情報テクノロジー犯罪に関する新たな法律案は、国際法に違反して言論の自由を制限すると共に、ジャーナリスト、内部告発者、非暴力の活動家にとって重大な脅威となる、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日公表した報告書で述べた。審理中のこの法案には、イラク政府が自らの利益、社会的或いは宗教的利益にとって脅威になると判断した表現を、厳しく処罰することを許す曖昧な規定などが含まれている。イラクの国会にあたる「イラク評議会」は、国民の権利を制限する条項を削除する修正なしには、この法案を採択すべきでない。

本報告書「イラクの情報犯罪法:適正手続と言論の自由を侵害する不当な規定と厳しい刑罰」(全16ページ)は、同法案へ法的な分析を加えた報告書。本報告書は、同法案が合法的な情報の共有及びネットワークの構築を犯罪化し、非暴力の反対意見を弾圧するという当局による広範な取組の一環であることを明らかにしている。提案された法律については、2011年7月27日に「イラク評議会」で第1回目の読会が行われ、第2回目の読会は早ければ2012年7月にも行われる見込みである。

ヒューマン・ライツ・ウォッチ中東局長代理のジョー・ストークは「イラクのジャーナリストや活動家は、情報を共有し開かれた議論をする際に、インターネット上を利用するようになってきている。この法律は、特にこうしたサイバー上の政府批判を弾圧するための新たな道具をイラク政府に与えることになってしまうだろう」と語る。「この法案は、2005年に成立したイラク憲法で成文化された自由を損なう法律だ。『イラク評議会』は、こうした法律を通すべきではない。」

提案された法律は、表現内容への過度に広範な制限が含まれているとともに、政府に対する反対意見を沈黙させることに繋がる厳しい刑事罰も科す内容だ。同法第3条は、「故意に」コンピューター機器や情報ネットワークを使用して、「経済的、政治的、軍事的或いは安全上最も尊重されるべき国家的利益」を損なった場合、終身刑及び多額の罰金を科すと定めている。しかし、「最も尊重されるべき国家的利益」が何か、明確な定義はされていない。

第3条はまた、「安全と公の秩序を脅かす或いは国家を危険にさらす目的を持つ敵対勢力」に関与(involve)した場合、終身刑を科すことを認めており、イラク国民の結社の自由も侵害している。この規定は、政府或いは政策への批判を理由に、団体、運動、或いは政党を政府が「敵対する」と見なした場合、これらの集団に関与(involve)しているあらゆる人を訴追する根拠となる危険性がある。

現在の法案は、イラク憲法が保障する言論と集会の自由を損なう上、イラクも締約国である「市民的及び政治的権利に関する国際規約(国際人権B規約:ICCPR)」にも抵触している。ICCPRは、「すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利は・・・あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む」と規定する。国際基準で許容される表現内容規制は極めて限られており、個人に対する言葉や文書・図画による名誉毀損や侮辱、そして、国家の安全を脅かす言論などに限られる。制限は明確に定義され、具体的かつ必要な範囲であると共に、守られるべき利益に対する脅威に均衡していなければならない。ICCPRの締約国として、イラク政府は、「自己の利益の保護のために労働組合を結成し及びこれに加入する権利を含む、結社の自由についての権利」も保障しなければならない。ICCPRはこれらの自由についての制限を認めてはいるが、その制限は、法律で定められ、かつ、「国の安全若しくは公共の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳の保護又は他の者の権利及び自由の保護のため、民主的社会において必要なもの」に限られている。

本報告書は、この法案が、イラク政府が表現、結社、集会の自由への制限を強化しつつある昨今の傾向の一環であることを明らかにしている。「イラク閣僚会議」は2011年5月、平和的な演説を犯罪とし、懲役10年以下の刑を科す規定を盛り込んだ「意見の表明、集会、平和的なデモの自由に関する法律」案を承認した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは2011年2月以来、イラク政府治安部隊や政府支持を明言するギャング集団などが、人権やより良い行政サービス・汚職の根絶を求める非暴力のデモ参加者に対し、残酷な襲撃を行った事件を多数調査・文書化している。

前出のストークは「国会議員がこの法案にどう対処するか。それは、国会議員たちが、イラクをどのような国にしたいと考えているのかを世界へ発信することになろう」と語る。「イラクの国会議員たちは、歴史に対し背を向けて、弾圧法に賛成することもできる。しかし、未来に向けて、人権を尊重する社会のために立ちあがることもできるのだ。」