(ロンドン)-サウジアラビア政府が初めて、オリンピックへの女性選手の参加を認めた。これは大きな前進ではあるものの、サウジアラビア国内における女性のスポーツ参加に対する根本的障害は未解決である、と本日ヒューマン・ライツ・ウォッチは述べた。
オリンピック開会4週間前になって、駐ロンドン・サウジアラビア大使館は、同国の国内オリンピック委員会が「参加の資格を得られる女性選手の参加を管理する」ことを表明。女性に対するスポーツの禁止はジェンダー差別を禁止するオリンピック憲章違反であるため、サウジアラビアはロンドン五輪出場を停止される危険に直面していた。
しかし、サウジアラビア国内でのジェンダー差別は制度として社会に定着している実態をヒューマン・ライツ・ウォッチは指摘。学校で女子はスポーツを禁止されているほか、女性は団体スポーツを禁止され、ジムやプールなどのスポーツ施設への立ち入りも禁止されている。
ヒューマン・ライツ・ウォッチのグローバル・イニシアティブ局長ミンキー・ワーデンは「サウジアラビア政府が五輪規則を守るのは当たり前のこと。出場停止を避けるために土壇場で方向転換しても、サウジアラビアの女性や少女たちが置かれているひどい不平等状態が是正されたわけではない」と指摘する。
五輪開会まで数週間と迫った現時点でも、サウジアラビア政府当局は、五輪基準を満たす女性競技者はただ1人、これまでのその生涯のほとんどを外国に住んで練習をつんできた障害飛越競技選手、ダルマ・ラシディ・マルハス(Dalma Rushdi Malhas)選手のみであるとしている。
「五輪レベルで闘う『資格』がある女性が、これほど少ないという現実。その原因のすべては、サウジアラビア政府が女性の権利を制約していることにある。この現実を転換する道はただひとつ、学校での女子スポーツを認め、女性のジム使用を認め、サウジアラビアの五輪委員会に直ちに女性委員を加えることだ」と前出のワーデン局長は述べる。
公立学校を含めサウジアラビア国内では、女性や少女のスポーツ参加が事実上禁止されている。その実態を、ヒューマン・ライツ・ウォッチは告発し続けてきた。
サウジアラビア宗教界の最高権威であるイスラム教指導者アブドルアジズ・アール=アッシャイフ 大ムフティーは、サウジアラビアのテレビ局アル・エクティサディア(Al Eqtisadiah)において、「女性は主婦であるべきであり」、「彼女たちがスポーツをする必要は全くない」と断言。その他にも、女性が一度スポーツに参加すれば、慎み深いイスラムの服装を脱ぎ捨て、不必要に男性と交際するようになると考え危惧している、と述べる聖職者らもいれば、「女性がスポーツをすると、純潔を失う危険性がある」と表明する聖職者らもいる。その一方で、特に肥満関係の疾患が急増している実態などを踏まえて、スポーツが女性にとって宗教的に必要であるという意見を持つ聖職者らもいる。
サウジアラビアは、女性の権利上、世界で最も大きな問題がある国のひとつである。ヒューマン・ライツ・ウォッチが報告書「Perpetual Minors(永遠の未成年)」で詳述したとおり、サウジアラビア政府は、生活のあらゆる面で女性を未成年者として扱う「男性後見人」制度を実施している。職場を含む公の場には、ジェンダーに基づいた厳格な隔離が存在。男性後見人制度とジェンダーに基づく隔離が、家庭を離れる、医療を受ける、公人としての活動を行う、運転する、官庁や裁判所に出向くなどの女性の自由を制約している。
前出のワーデン局長は「国際オリンピック委員会などの国際的なスポーツ組織は、1人や2人のサウジアラビア女性がロンドン五輪出場を許されるだけで満足してはならない。スポーツ参加や社会参画を望む数百万のサウジアラビアの女性や少女がその望みを拒絶されない日が来るまで、努力し続けるべきだ」と述べる。