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(パリ)-フランス警察が過度に広い権限を行使して、黒人やアラブ系の若者や少年に対し令状なしに屈辱的な身元確認を行っている、とヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表の報告書内で述べた。

報告書「屈辱の根源:フランスにおける身元確認」(全55ページ)は、マイノリティの若者が、警察から頻繁に呼び止められて長々と職務質問されたり、過度なボディーチェックや所持品検査を受けている実態を明かした。被害者の中にはわずか13歳の少年もいる。こうした恣意的職務質問は、特に非行がみられない場合でも行われている。警察官が人種差別的中傷などの侮辱的な言葉を吐くことも日常茶飯事で、ときには職務質問で過剰な強制を行う警察官もいる。

ヒューマン・ライツ・ウォッチの西ヨーロッパ上級調査員ジュディス・サンダーランドは「若い黒人やアラブ系の少年たちが、非行の実証拠もないのに恣意的に壁に押しつけられ、警察から手荒な扱いを受けるかもしれないこと、そして実際にそんな目にあっている現実はショッキングだ」と述べる。「しかし、フランスの一部の地域に住む若者たちにとって、それは生活の一部なのだ。」

本報告書は、パリ、リヨン、リールで行われた数十人のマイノリティのフランス人(子ども31人を含む)に対する聞き取り調査を基にしている。

フランスの国内法は、たとえ犯罪行為の疑いがなくても、警察官が交通の要衝や検察官指定の地域で身元確認を行う広範な裁量を認めている。こうした警察による職務質問についての記録は組織的にはつけておらず、個人が職務質問の理由を記録した文書を受け取ることもない。ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取り調査に応じた人びとの大半は、何度も職務質問を受けたにもかかわらずその理由は聞かされていなかった。こうした公式記録の欠如ゆえ、職務質問の効果と合法性を判断することが著しく困難になっている。

これまでも、フランス警察が人種プロファイリングを採用していることを示唆する統計や事例報告がされてきたが、本報告書の証言はそうしたさらなる証拠となる。人種プロファイリングとは、職務質問の対象を、個人の挙動や合理的な疑いに基づいて選ぶというよりも、むしろ人種や民族性を含む外見に基づいて選ぶ手法を指す。

パリ郊外サント・ジュヌヴィエーヴ・デ・ボワ出身のファリド・A(16歳)は、友人5人と一緒にエッフェル塔の近くで3回職務質問を受けた。「地下鉄から出たところで1回。200メートル歩いて1回。それから200メートルでもう1回。辺りには山ほど人がいたけど、職務質問を受けたのは僕たちだけさ。」

オープン・ソサエティ・ジャスティス・イニシアチブとフランス国立科学研究センターが行った2009年の研究では、黒人は白人の6倍、アラブ系では8倍の確率で、職務質問に遭う可能性があることが明らかになっている。ヒューマン・ライツ・ウォッチによる聞き取り調査の対象者の多くは、自らのエスニシティが郊外(バンリュー)の(貧困地域に特徴的な)服装と相まって、職務質問の主な原因となっていると確信していた。

前出のサンダーランドは、「肌の色を理由に職務質問を行うのは警察の限られた人員の無駄遣いな上、警察に対する敵意を引き起こす。警察活動は証拠と情報を基礎とすべきで、人種やエスニシティに対するステレオタイプを基にしてはならない」と指摘する。

職務質問で、多くの場合、マイノリティの若者は屈辱的な身体と所持品の検査を強いられる。身体検査はかなり乱暴に行われることもある。リヨン在住のサイード(25歳)は、「局部を何度も何度も触わるんだ」と話しており、聞き取り調査に応じた多くも同様に訴えていた。司法関係者は身体検査を必要な安全対策であると擁護するが、広範に身体検査が行われているにも拘わらず、国内法で明確な規制はない。

ヒューマン・ライツ・ウォッチはまた、身元確認の際に平手打ちや蹴り、電気ショック用武器の使用といった暴力を振るわれたという、憂慮すべき証言もいくつか耳にした。

パリ南部の郊外に住むイスマエル・Y(17歳)は、2011年初めに都市近郊路線のサント・ジュヌヴィエーヴ・デ・ボワ駅の外で、友人たちと一緒に職務質問された。「壁に手をついている時に(身体検査していた)警官の方を向いたら、頭を殴られた。何で殴るんだって言ったら、黙れって。『(催涙)ガスを食らいたいのか、ん?』ってさ。」

身元確認の際に聞き返しすぎたり、扱いに異議を唱えて協力しないと、「警察官侮辱」罪などの行政犯罪(軽犯罪)や刑事犯罪になってしまうこともある。そのため、身元確認は強制的性質を帯び、人びとは自らの権利を行使できなくなっている。

リールに住むヤシン(19歳)は、身元確認の際にどこでその晩を過ごしていたのかを証明してみせた後に、警官に蹴られたという。その後警察が警察官侮辱罪容疑を取り下げて釈放するまでの15時間を、彼は警察署で過ごすことになった。

人権侵害的な身元確認は、警察と地域協同体の関係に極めて深刻な悪影響をもたらしている。高圧的な身元確認を含む警察の人権侵害に対する抑圧された怒りは、フランスで2005年に起きた暴動の大きな原因となった。そしてこうした怒りは、フランス全土の都市部で、警察と若者の間で無数に起きている比較的小規模なトラブルの根底をなしているようにみられる。

1日中職務質問を繰り返された経験や群衆の中から特に狙われた経験ゆえ、マイノリティの若者たちはくり返し、自分たちは狙われているのだという感覚を植えつけられている。

「お前(tu=チュ)」の日常的な使用や侮辱といった警察の無礼な行動が、怒りを増大させている。本報告書の調査対象者たちは、「うす汚ないアラブ」「アラブ野郎」等と呼ばれたと話していた。リール在住の19歳は、あまりに「うす汚ないアラブ」と言われ過ぎて、「もうショックでもなんでもない。普通だよ」と話していた。パリ郊外のエブリーに住む13歳の少年は、警察に「うす汚いニグロ」と言われたという。

国際法もフランス国内法も、差別、プライバシー権への不当な干渉、尊厳と身体的完全性(physical integrity)の権利に対する侵害を禁じている。国内外基準は、警察による尊厳ある処遇も義務づけている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、フランス政府に対し、身元確認の権限の問題を認め、職務質問の際の人種プロファイリングや人権侵害的行為を防止するための法的・政策的改革を行うよう要請。すべての身元確認と身体検査は、合理的な個別の疑いに基づいて行われるべきである。また、職務質問を受けた人びとは、証明文書を受け取るべきであり、同文書には個人情報や関与した警察官、職務質問の法的根拠といった関連情報が記載されていなければならない。

警察は組織内で全職務質問を記録すべきであり、政府は定期的に細分化したデータを公開すべきだ。また、法執行当局者による差別は明確に禁止されねばならない。

前出のサンダーランドは、「率直に言って、フランスにおいて警察とマイノリティの関係が荒廃しているのは周知の事実だ」と述べる。「緊張の主な原因のひとつである屈辱的な身元確認防止に向けて確固たる措置を講じることが、前進の真の一歩となるだろう。それこそが、人びとの日常生活に本当の違いをもたらすはずだ。」

報告書からの証言

Ouamar C (13)、パリ在住:

「友達何人かと一緒に座っていたら、警官が職務質問しにきた。しゃべると連行されちゃうから、何も言わなかったよ。かばんを開けられて、体も調べられた。いつもと同じさ。何も見つかりゃしないのにね。学校の前でやられたのは初めてだった。『壁に手をつけろ』って言って身体検査、終わるとメルシーって言って去っていく...。最初は怖かったけど、今はもう慣れちゃった。」

Haroun A14歳)、ボビニー在住: 

「ショッピングモールで友達何人かと遊んでいたんだ。彼ら(警察)が武器を持ってやってきて、僕たちに狙いをつけた。3人いた。で、『身元確認』って言ったんだ。2人はフラッシュ・ボール(ゴム弾銃)を持っていた。僕らは5人か6人だったかな。何もしていなかったんだよ。警官はいつもただ僕らを呼び止めるだけ。僕らみたいなのは即、職務質問さ。ドラッグを持っていないか聞いて壁に向かって立たせて、靴下や靴の中まで調べる。何も見つからないけどね。警官は身分証明証を見せろって、いつも言うわけでもない。」

Halim B17歳)、リール在住:

「バスが止まって警官たちが入ってきた。僕は後ろの方に座っていたんだ。朝の7時20分だった。バスは満員で...。警官は1人の男に『立ってバスを降りろ』って言った。僕はその人が犯罪者なんだって思ったよ。そしたら次に、僕にも降りろって指差した。3人がバスを降りなきゃならなくなったんだけど、2人はアラブ人だった。バスは満員で、たくさんの人が立っていた。白人のフランス人の方が多かった。警察はいつでも身元確認をする権限を持っているけど、正直頭にきたよ。泥棒とか指名手配の犯罪者みたいな気分にさせられた。降りろって言われた時には怖かったし。一体僕が何をしたんだろうって。バスを降りたら『身元確認をする。何か非合法の物を所持しているか。ポケットの中身を見せなさい』って。僕のバッグを調べて、放免になった。学校に少し遅刻しちゃったよ。正直言って、学校に行く途中だったからひどい格好だってしていなかったんだ。」 

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