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(ナイロビ)- エチオピア政府が2010年5月23日に予定されている国政選挙を前に、野党の政治家、ジャーナリスト、人権活動家に対する弾圧を組織的に継続している実態を明らかにした報告書を、ヒューマン・ライツ・ウォッチは本日発表した。2005年の前回の国政選挙は、不正が指摘され流血の惨事となった。以来、今回が初の国政選挙となる。

本報告書「威圧と弾圧のための100の方法:エチオピアにおける表現の自由と結社の自由の侵害の実態」(59ページ)は、与党エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)が、野党支持者や政権を批判した人物たちに対し、嫌がらせや弾圧を組織的に行なっている実態を明らかにしている。2005年の国政選挙以来、与党EPRDFは、地方行政のほぼすべてを掌握している権限を利用して、野党支持者たちから、農業支援や個人向けの小額融資、雇用機会などを奪い、野党支持者たちの生計を脅かしてきた。本報告書は、市民社会やメディアの活動を著しく制限する最近の一連の法律の内容についても詳述している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチのアフリカ局長ジョージェット・ギャグノンは「エチオピアでは、政府の政策に異議を唱えること自体が非常に危険だ」と述べる。 「与党と国家が一体化している。政府は野党を排除し、沈黙させるためにその権力をフルに駆使している」

エチオピア政府による弾圧を避けるため、ここ数ヶ月間に国外への脱出を余儀なくされたNGO活動家やジャーナリストは数多い。 エチオピアで最も著名な独立系新聞社は2009年12月に閉鎖に追い込まれているし、先月にはラジオ局「ボイス・オブ・アメリカ」も政府による放送妨害を受けている。 こうした状況の下、エチオピアの人びとは、自由にその考えを表したり、政治活動を組織したり、政府の政策に異議を唱えることができなくなっている。たとえ非暴力の平和的なデモや、投票、出版活動であっても、政府による報復の恐れがつきまとう。2008年、エチオピア政府は、野党「民主主義と正義のための統一」代表であるビルトゥカン・ミデクサ女史を恣意的に投獄した。

エチオピアは多額の海外援助に依存しており、その額は、歳出の約3分の1にも上る。 エチオピアに対する主な援助元は、世界銀行、米国、英国、EUなど。こうした援助国・援助組織は、エチオピアの人権状況の悪化についての批判にはおよび腰の状態が続いている。

本報告書作成のため、ヒューマン・ライツ・ウォッチは15週間にわたり、200人以上から聞き取り調査を行なった。ヒューマン・ライツ・ウォッチの聞き取りに応えたのは、農民、教師、公務員、人権活動家、野党関係者、政府関係者などのほか、首都アディスアベバなどエチオピアの3つの地域に駐在する外交官や援助機関職員などである。

与党連合EPRDFの得票率が、全体の99.9パーセント超に上った2008年4月の地方選挙以降、政府は村レベル及び地方レベルでの統制を強化。「鉄拳統治」を続けている。地方の住民たちは、ヒューマン・ライツ・ウォッチに対し、村民たちがさらに小さな班にわけられた上で地元の役人に割り当てられ、民兵が反政府的な兆候がないか各家庭を監視している実態について語ってくれた。しかも、地方政府は、与党を批判した人や、与党を支持しなかった人に対し、地方の公共サービスを提供しないという嫌がらせを加えている。

地方政府関係者は、村落の人びとの生計に多大な影響力を持っている。 「フード・フォー・ワーク」プログラム、農業用の種子と肥料の割り当て、個人向け小額融資などを実施する際の選考や監督、就職・教育・訓練の推薦などを、地方政府関係者が一手に担当しているためだ。こうした実態に対し、野党は、 仕事や家族を守るためには人びとは与党に加わるよりほか手立てがなく、それが野党の弱小化を招いている、と主張している。

エチオピア政府は、あらゆる国家公務員にも圧力をかけている。特に、教師には与党に加わるよう強要。政府に批判的な言動をとった国家公務員たちの一部に対し、厳しい処罰を加えている。また、エチオピア政府は、政府による抑圧の実態を明らかにしようとするNGO活動家やジャーナリストたちに対しては、対テロ対策法や厳しい規制を課すCS法(Charities and Societies Proclamation)も使っておどしをかけてきている。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、選挙の環境改善にむけた緊急措置として、ミデクサ女史を含む政治犯全員を即刻釈放するよう、エチオピア政府に求めている。 また、政府関係者や与党EPRDF党員が野党党員やNGO活動家やメディアに対しておどしや弾圧を行なうのをやめるようエチオピア政府が命令することも求めている。加えて、エチオピア政府に対し、国際的な選挙監視員などの政府から独立した専門家が、人権侵害の有無を調査して明らかにすることを認めるよう求めた。

国際社会のなかで、5月の選挙監視を検討しているのは、現在EUとアフリカ連合のみ。CS法の厳しい規制の結果、エチオピア国内の団体が独自に選挙監視を行うのは事実上不可能となっている。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、全ての国際的な監視団に対し、自由で公正な選挙が行なわれたかどうかを評価する際、選挙前の弾圧の実態についても考慮に入れるよう求めた。

前出のギャグノンは「エチオピア政府を援助している政府や国際銀行は、沈黙を破り、恐怖政治の実態を非難すべきである」と述べる。 「経済支援国は、財政的な影響力をしっかり利用し、エチオピア政府に対し、野党勢力への嫌がらせをやめて人権活動家やメディアを弾圧する法律を廃止するよう求めるべきである。」

本報告書におさめられた証言の抜粋

「一般民衆レベルでは、何もかもがEPRDFのイデオロギーに基づいて、班ごとに組織され、統制されています。それに反対すれば、村八分にされるだけです。」-アムハラ地方の教師

  「私はEPRDFの党員ですが、本当は野党を支持しています。与党党員であることは何も意味しません。 生活の援助が必要だから党員になっただけです...補助をもらうためには、党費を払っていることを証明する領収書が必要なんです。いじめられたり、無視されたりしたくないばっかりに払っています。」 -与党党員、南部諸民族州 

「自己検閲をしなくてはいけないことがたくさんあります。私たちが書けないニュースや言ってはならないこともたくさんあります。 その境界線は明示されていないので、ちゃんと推測しなければなりません。 対テロ対策法のテロの解釈がとても広いので、私たちにとっては大変危険です。 例えば、政府がある政党にテロ組織というレッテルを貼ったとしたら、私たちはもうその政党について書くことはできないんです。(中略)全国選挙委員会が投票結果を発表する前に、新聞社が世論調査をしたり、結果予想することも許されていません。」-ジャーナリスト、アディスアベバ