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米国:収容中の外国人の遠隔地移送 強制送還を争う裁判の障害

裁判を受ける権利の侵害、弁護士を付ける権利の侵害

(ワシントンDC)-米国移民税関執行局(Immigration and Customs Enforcement agency, ICE)が、強制送還に直面している外国人を、遠く離れた別の収容所に移送するケースが増加している。ヒューマン・ライツ・ウォッチが本日発表した報告書は、外国人たちが強制送還命令に異議を申し立てる機会が、こうした遠隔地移送によって大幅に制限されている実態を明らかにした。また、1999年から2008年までの10年間に、米国移民税関執行局が強制収容所間を移送した外国人の数は、140万人にも上る。

本報告書「遠隔地での収容:米国の不法滞在者 遠隔収容所への移送の実態」(88ページ)では、ヒューマン・ライツ・ウォッチの要請で、シラキュース(Syracuse)大学の記録アクセス情報センター(Transactional Records Access Clearinghouse:TRAC)が行なった新たなデータ分析の結果が取りまとめられている。それによると、140万人の移送のうち53%が2006年以降のもの。そのほとんどは、各州と前出のICEと契約している地方刑務所間で、被収容者用のベッドを確保するために行われていることが明らかになった。なお、本報告書は、この新データと、当局の関係者、移民弁護士、収容されている外国人とその家族への聞き取り調査を基に作成された。

「ICEは、収容された人びとに、支離滅裂な椅子取りゲームを強いているようなものである。」と、ヒューマン・ライツ・ウォッチのアメリカ局長代理で本報告書の執筆者であるアリソン・パーカーは述べた。「こうした移送により、外国人たちは、弁護士を見つけることが難しくなるほか、裁判のための証拠を提出しにくくなる。外国人にとって悲惨な結果をもたらすゲームでもある。」

外国人の多くは、最初にロサンゼルスやフィラデルフィアといった大都市で逮捕・収容される。外国人たちは、それらの都市に、数十年にわたって生活し、家族や雇用主、弁護士などもそこに住んでいる。しかし、数日あるいは数カ月後、収容中の外国人たちは、知らせや説明を受けることもなく、移送用の飛行機に乗せられる。そして、テキサスやカリフォルニア、ルイジアナ(受け入れの可能性が最も高い3州)などの州の僻地にある収容所に送られている。

米国の国内法と国際人権法のもと、外国人たちは、強制送還を争う裁判で、自らが選択した弁護士を代理人とする権利や、裁判のための証拠を提出する権利を有している。しかし、ひとたび移送されてしまうと、収容中の外国人たちは、弁護士や証拠、そして証人などからも遠く引き離されることになる。その結果、強制送還手続で、自らを十分に弁護できなくなってしまうのである。

「ICEは、まるで商品でも扱うように、外国人を自分たちにとって一番管理しやすい場所に移送してしまっている。これは不当だ。」とパーカーは述べた。「移送された外国人たちは、強制送還命令を争ったり、難民としての保護を受けることは、もう無理だと感じてしまうかもしれない。その点がとりわけ心配だ。」

第5巡回区連邦控訴裁判所(ルイジアナ、ミシシッピ、テキサス管轄)は、移送された外国人の事件がもっともたくさん係属している裁判所だ。この裁判所は、外国人に不利なる判決を下すことで広く知られているのみならず、第5巡回区内の3州をあわせると、収容された外国人の数に対する移民弁護士の割合が、国内で最も低い。そのためヒューマン・ライツ・ウォッチは、第5巡回区に係属中の移送外国人の事件について特に懸念している。

ヒューマン・ライツ・ウォッチは、一部の移送は、避けられないことを認識している。しかし、ICEと連邦議会は、世界各国のベストプラクティスにならい、収容された外国人の移送が合理的かつ権利を尊重しているか、審理すべきである。この報告書では、そうした制度を確立するために必要な政策を提言している。

ICEは近ごろ、収容制度の改革計画を発表した。これは改革の端緒となり得るだろうが、ICEがこれまでに、収容者移送決定に対する法的強制力のある制限を導入することを拒否していることも、忘れてはならない。

また、憲法プロジェクト(Constitution Project)が作成した「わが国の外国人拘禁制度改革と入管関連手続における弁護士アクセス促進に向けた提言/勧告」も、ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書と同日の12月2日に発表された。この中で、外国人の拘禁がむやみに行われているうえ、外国人が法律相談をするのが難しいという現状を指摘、その改善を勧告した。なお、同日には、前出の記録アクセス情報センターが、詳細な施設レベルのデータも発表する予定。

被拘禁者、家族、弁護士による証言の抜粋

「この移送はひどい、ひどすぎます。[被収容者は]夜中に飛行機に乗せられるんです。どこにいるのか、どの州にいるのかさえ見当がつかない。こういう目にあった人たちの精神的トラウマは、言い表しようがありません。家族たちにしても、その影響は計り知れないものです。実際、かなりのショックを受けて、大変な傷心状態にある家族たちからの電話を何本も受けました。電話口ですすり泣き、泣き叫ぶんです。"息子や夫がいったいどこにいるか分らない!"って。」-レベッカ・シュレーブ(Rebecca Schreve)移民弁護士、テキサス州エルパソ、2009129

「ニューヨークで拘禁されていた時、ある教会を通して、もう少しで弁護士をみつけられそうなところだったんです。結局ここニューメキシコに送られてしまって、そのチャンスをなくしてしまいました。必要な証拠や物は全部ニューヨークにあります。私のケースに関するすべての情報や記録を取り寄せようとしています・・・ICEに手紙を書いたりしてね。だけど、ICEはそんな記録を渡してはくれないでしょう。これまでだってそうです。提出する証拠も全くなしに、自分で自分を弁護するしかないんです。」-ケビン・H(仮名)、オテロ郡手続きセンター、ニューメキシコ州シャパラル、2009211

「私が弁護を引き受けた人びとは、みな、3カ所以上の収容施設にいたことがありました。テキサス州のエルパソやアリゾナ州にある施設だったり、ハワイなんてこともあります・・・。10年以上移民法の現場にいますが、今まで一度だって[クライアントの]移送に関して知らされたことはありません。一度もです。」-ホリー・クーパー、移民弁護士・クリニック担当法学教授、カルフォルニア大学デイビス校法科大学院、カルフォルニア州デイビス、2009127

「[ニューメキシコ州に]彼が送られてから、ずっと悪夢だわ。私の母は血圧に問題があってね、血圧が上がったり下がったりでどうしようもないの。彼のことが心配でしょうがないのね。[彼の妻は]心配で心配で、毎晩泣いてる。赤ちゃんも「パパ、パパ」って恋しがってね、彼の写真にキスするのよ。まだ一歳なのに、父親の声を電話で聞いたとたん泣き出すの。先週[兄(弟)が]電話してきて、もう限界だって...。強制送還に同意する書類にサインするつもりだって言ったわ。」-ジョージア・V(仮名)、被収容者の(姉)妹、ニューヨーク市ブルックリン、2008123

南部カリフォルニアにある収容施設に数週間収容された後、1400マイル離れたテキサス州の収容施設に移されたミッシェル。「違いは天と地ほどもありました。少なくともカリフォルニア州にいた時は、もっとましなチャンスがあったんです。代理人になってくれる弁護士だって雇えたしね。ここでは神の慈悲に頼るほかありません。」-ミッシェル・M(仮名)ピアサル収容センター、テキサス州ピアサル、2008425

永住権取得後フィラデルフィアで暮らしていたドミニカ共和国出身のミゲルは、収容された後テキサスに移送された。そこでは、「警察記録を取り寄せるために、自分で電話をかけるしかなかった。ものすごく時間がかかるんだ。もう少し時間を下さいって頼み続けたら、判事が怒ってしまってね。やっとそれが手に入って、自分で裁判したんだけど、結局負けてしまったよ。」-ミゲル・A(仮名)、ポート・イザベル・サービス処理センター、テキサス州ロスフレノス、2008423


 

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